第38話 マクガフィンってやつかね、こいつは

 ホームセンターの中に鬼童丸が足を踏み入れれば、老若男女10人の集団を見つけた。


 鬼童丸が<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並)>を保持していることから、10人は自分たちが助かったと安堵した。


 ところが、それと同時に鬼童丸の視界にはクエストが発生した。



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クエスト:生存者を杉並公会堂まで護衛せよ

達成条件:生存者を杉並公会堂に送り届ける

失敗条件:生存者を全滅させる

報酬:送り届けられた生存者の数×10の中級携帯食料

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 実はタナトスから害悪ネクロマンサーを倒すよう言われた時も、同様の画面が鬼童丸の視界に表示されていた。


 それはつまり、ゲームの進行においてこのクエストが害悪ネクロマンサーの討伐と同等の価値を有するということだ。


 とりあえず、老人と子供をフロストキャリッジに乗せてそれ以外は歩いてもらい、杉並公会堂を目指すことにした。


 護衛クエストが始まったからか、先程までは見なかったアンデッドモンスターの混成集団が鬼童丸達を襲って来る。


 しかし、そのヘイトは【引力体グラビボディ】を持つデスライダーが稼いでいるから、敵集団の狙いはデスライダーに集中する。


「リビングバルドは【偉大舞踏グレートダンス】。レギマンダーは【死体爆発ネクロエクスプロージョン】だ」


 味方へのバフと敵へのデバフがかかったところで、敵集団の中心にいたアンデッドモンスターが派手に爆発する。


 その爆発に巻き込まれて多くのアンデッドモンスターが倒れ、残った敵はドラピール達がサクサク倒していく。


 あっという間に敵が倒されていくから、歩いている生存者達も最初は怯えていたが段々と怯えなくなって来た。


 危機感はあってもそれを上回る安心感があるからである。


 クエストが始まったからか、護衛クエストが終わるまで経験値は入って来ない。


 システムメッセージが鳴らないのなら、さっさと進めるので鬼童丸達は杉並公会堂へと進んで行く。


 襲撃は何度かあったが、回数を重ねる毎に敵集団の数が増えていった。


 6回目の襲撃が終わった瞬間、フロストキャリッジの中から黒い光が漏れ出した。


 嫌な予感がしてフロストキャリッジのドアを開けば、子供が手に持っていた黒い石から光が放たれていた。


 (マクガフィンってやつかね、こいつは)


「すまない。その石を俺にくれないか? 持ってると危険な物のようなんだ」


「…はい」


 子供は石を手放したくないようだったが、命の方が大事であることはこの状況で理解しているらしく、素直に鬼童丸にそれを手渡した。


 そうすることで石が鬼童丸の手に渡り、その石が突然宙に浮かび上がる。


 画面がストーリーモードに変わり、宙に浮かび上がった石に杉並区中に残る黒い靄が集まって吸収される。


 ストーリーモードゆえに従魔達に攻撃させられず、宙に浮かび上がった石が激しく発光するのを止められなかった。


 目を開けるようになった時、石は消えていてその代わりに害悪ネクロマンサーが連れていかれる時と同じ地獄の門が現れた。


 (さっきのあの石、???って名称がわからないようになってたけど地獄の門を開く鍵だったのか)


 今後も地獄の門を開く石は重要な要素になるだろうことを鬼童丸は心のメモ帳にメモしつつ、開いた地獄の門の中から骸骨化したティラノサウルスが現れるのを目にした。


 鬼童丸の目にはスカルティラノと表示され、能力値からしてブラッディオニキスと同等の強さであることがわかった。


 スカルティラノが現世に現れた時点で地獄の門は閉じて消えたため、誰が何のために地獄の門を開いたのかはわからないが、今はスカルティラノを倒して生存者達を守るのが最優先だ。


 (フロストキャリッジは支援しかさせられない。生存者の安全第一の方針でやるか)


 老人と子供を乗せている以上、フロストキャリッジが接近戦なんてしたら大変なことになってしまう。


 それゆえ、フロストキャリッジはできるだけヘイトを稼がないように極力戦わせられない。


「リビングバルドは【偉大舞踏グレートダンス】。レギマンダーは【赤霊降雨レッドレイン】」


 まずは様子見と言ったところで、バフとデバフをかけつつレギマンダーの攻撃を仕掛けてみたのだが、スカルティラノのHPの減りが鈍い。


 (【魔法耐性レジストマジック】のせいか…)


 魔法系アビリティによる攻撃の威力を25%カットするため、自前のVITとセットで強化された【赤霊降雨レッドレイン】を受けてもスカルティラノのHPは1割も減らなかった。


 であれば物理攻撃で勝負を仕掛けるか、継続ダメージを与えていくのがベストだから鬼童丸は戦略を変える。


「ドラピールは【剛力打撃メガトンストライク】! デスライダーは【剛力飛斬メガトンスラッシュ】! リビングバルドは【剛力蹴撃メガトンシュート】! レギマンダーは【呪纏炎カースフレイム】!」


 スカルティラノが【剛力突撃メガトンブリッツ】でデスライダーに接近して来たが、ドラピールが【剛力打撃メガトンストライク】でグラつかせてスカルティラノを怯ませた。


 そこにデスライダーとリビングバルドのアビリティが命中し、スカルティラノのHPが一気に残り5割近くまで減る。


 更にレギマンダーの【呪纏炎カースフレイム】が加われば、時間経過によってスカルティラノにダメージが入って残りHPが半分を切った。


 スカルティラノは【骨武装ボーンアームズ】を発動し、骨で構成された刺々しい鎧を身に着けて再び【剛力突撃メガトンブリッツ】を仕掛ける。 


 その攻撃がデスライダーに命中し、一撃で3分の1以上HPを持っていかれた。


 これでスカルティラノのターンは終わったから、鬼童丸はドラピールの【暗黒回復ダークネスヒール】でデスライダーのHPを全回復させた。


 回復したデスライダーは【剛力突撃メガトンブリッツ】でスカルティラノを横転させる。


 ダウン状態になったことで、追撃のボタンが現れて鬼童丸はそれを押す。


 従魔全体の攻撃を受け、一気に残り1割のところまでスカルティラノのHPが削られるが、逆に言えば残り1割のHPは現段階では減らない。


 残り1割のHPになり、スカルティラノは【狂暴化バーサクアウト】を発動する。


 発動したタイミングからHPが徐々に削られていくが、アビリティ発動中はSTRがその時の1.5倍になる。


 更にスカルティラノが【剛力突撃メガトンブリッツ】でデスライダーに攻撃する。


 先程もそうだが、ターン制バトル中に鬼童丸が【霊化ゴーストアウト】を使わせなかった今、デスライダーは物理攻撃を躱せない。


 一気にデスライダーのHPが残り3分の1近くまで減った。


 ただし、スカルティラノのHPも残り僅かだったから、ここは一気に攻める。


「ドラピール、【剛力打撃メガトンストライク】!」


 この場においてAGIが最も高いドラピールの攻撃により、スカルティラノのHPは0になった。


 いつもならばボスを倒すと同時にシステムメッセージが流れるが、今回はストーリーモードに切り替わって鬼童丸達が杉並公会堂まで無事に生存者を運び終えるシーンになる。


 クエスト達成に伴い、このタイミングでシステムメッセージが鬼童丸の耳に届く。


『鬼童丸がLv50からLv52まで成長しました』


『ドラピールがLv32からLv42まで成長しました』


『ドラピールの【剛力打撃メガトンストライク】が【破壊打撃デストロイストライク】に上書きされました』


『デスライダーがLv32からLv42まで成長しました』


『デスライダーの【剛力突撃メガトンブリッツ】が【破壊突撃デストロイブリッツ】に上書きされました』


『リビングバルドがLv29からLv40まで成長しました』


『リビングバルドの【剛力蹴撃メガトンシュート】が【破壊蹴撃デストロイシュート】に上書きされました』


『レギマンダーがLv29からLv40まで成長しました』


『レギマンダーの【呪纏炎カースフレイム】が【呪纏緋炎カーススカーレット】に上書きされました』


『フロストキャリッジがLv44からLv50(MAX)まで成長しました』


『フロストキャリッジが護衛クエストをクリアした状態でレベル上限に達したため、フロストヴィークルに特殊進化しました』


『フロストヴィークルが【乗物変型ヴィークルチェンジ】を会得しました』


『中級携帯食料を100枚、スカルティラノを1枚手に入れました』


『杉並区にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、杉並区全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (倒したアンデッドモンスターのカードがスカルティラノの分しかない? あぁ、その分経験値に回されたっぽいな)


 多くのモンスターを倒したからカードが貰えると思ったが、それがない代わりに獲得経験値がマシマシになっていたから鬼童丸は納得した。


 護衛クエストをクリアしただけでなく、杉並区が安全地帯になったことで鬼童丸は一石二鳥の気分になった。

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