第29話 まさかここまで美人だったとはね

 鬼童丸が荒川総合スポーツセンターの壁に空いた穴の前に立ったおかげで、宵闇ヤミは戦闘に集中できるようになった。


「まったくもう、しぶといね。鬼童丸さんの方は終わっちゃったじゃん。グリムロス、【挑発咆哮タウントロア】」


 乱戦モードは戦闘が終わるまでアンデッドモンスターを送還できない。


 ここで改めてヘイトを稼ぎ直さなければ、キングゴブリンゾンビの攻撃が鬼童丸のジェネラルライダーに向いてしまう。


 それゆえ、宵闇ヤミは仕切り直す意味も込めてグリムロスに【挑発咆哮タウントロア】を使わせた。


 宵闇ヤミとキングゴブリンゾンビとの戦闘が長引いている理由だが、それはキングゴブリンゾンビが使う【屍兵召喚ソルジャーサモン】のせいだ。


 ボックスイーターがダストによって召喚され、キングゴブリンゾンビ配下のゴブリンゾンビやジェネラルゴブリンゾンビ達が食われたけれど、その穴は【屍兵召喚ソルジャーサモン】のせいですぐに埋められた。


 しかも、ふざけていると思いたくなることにキングゴブリンゾンビが装備するドレインブッチャーという首切り包丁は、ダメージを与えた分だけ自分のHPが回復する。


 この機能を利用し、キングゴブリンゾンビはHPが少なくなってきたら配下を斬り捨ててHPを回復するのだ。


 折角キングゴブリンゾンビのHPを削っても、ドレインブッチャーと【屍兵召喚ソルジャーサモン】のコンボのせいで倒すに倒し切れなかったのである。


 (宵闇さんがヤバそうだったら介入するか。ここで荒川総合スポーツセンターを守れなくてやり直しとか面倒だし)


 戦闘を見守る鬼童丸は可能な限り手を出すつもりはないから、宵闇ヤミだけではどうしようもならないとわかった時点で対応するつもりだ。


 今は宵闇ヤミから助けを求められていないし、自分も助けるべきだと思っていないから腕を組んで待機している。


「グラッジミキサー、【猛毒霧ヴェノムミスト】」


 キングゴブリンゾンビに回復手段がある以上、宵闇ヤミは敵が力尽きるまで継続ダメージを入れられるようなアビリティを使っておくべきだろう。


 【毒霧ポイズンミスト】を使えば毒状態だが、【猛毒霧ヴェノムミスト】を使えば猛毒状態になる。


 毒状態は10秒毎に5ダメージ入るのに対し、猛毒状態は5秒毎に5ダメージ入る。


 キングゴブリンゾンビは猛毒状態になった途端、近くにいたゴブリンゾンビの首を刎ねてHPを回復する。


「動きを封じれば良いだけの話だよ。グリムロス、【暗黒棘ダークネスソーン】でキングゴブリンゾンビの動きを封じて」


 暗黒の棘がキングゴブリンゾンビに突き刺さり、キングゴブリンゾンビはその場から動けなくなった。


 その間に宵闇ヤミはやれることを済ませる。


「キャストライダー、【暗黒乱射ダークネスガトリング】!」


 身動きが取れないキングゴブリンゾンビに集中攻撃が命中し、キングゴブリンゾンビのHPは残り4割を切った。


「グォォォォォ!」


 キングゴブリンゾンビが咆哮しながらジタバタと暴れ、ダメージを負いながら叫ぶ。


 その咆哮によってまだ力尽きていないゴブリンゾンビ達がキングゴブリンゾンビの咆哮によって行動を定める。


 その行動とは、キングゴブリンゾンビを突き刺す暗黒の棘から救助するというものだ。


 何をするにしても、暗黒の棘が邪魔だからそれをどうにかするのが先決ということである。


「やらせないよ! キャストライダー、キングゴブリンゾンビに近づく敵に【暗黒乱射ダークネスガトリング】!」


 キングゴブリンゾンビにゴブリンゾンビを近づけさせないことを第一に指示すれば、キングゴブリンゾンビはHPを回復できずに不快な表情である。


 数の暴力とドレインブッチャーと【屍兵召喚ソルジャーサモン】のコンボが封じられた現状では、キングゴブリンゾンビは完全に宵闇ヤミの戦略に嵌っている。


 キャストライダーとグリムロス、グラッジミキサーの攻撃で残りHPが1割になった時、状況が変わった。


 キングゴブリンゾンビの体が急激に膨張して一回り大きくなり、灰色の体が赤みを帯びて暗黒の棘からも抜け出してしまった。


「グォォォォォォォォォォ!」


 HPが持つ限り暴れてやると言わんばかりに吠え、ドレインブッチャーを両手に持って振り回し始めた。


「全員、撤退! 近づいちゃ駄目!」


 暴走モードに突入したキングゴブリンゾンビがグリムロスを追いかけ始め、唐突に鬼ごっこが始まった。


「キャストライダー、敵の側面から【暗黒乱射ダークネスガトリング】!」


 グリムロスが囮になっているチャンスを利用し、宵闇ヤミはキャストライダーの攻撃でとどめを刺そうと命令する。


 ところが、キャストライダーの攻撃ではダメージが少しも入らなくなってしまった。


 そして、幸か不幸かグリムロスがキングゴブリンゾンビの振り下ろしから逃げた先には鬼童丸達がおり、振り下ろしたドレインブッチャーをキングゴブリンゾンビは横に振り払おうとする。


 (これは手を出しても許されるよな)


 やられる前にやれはこのゲームにおいて常識だから、鬼童丸はこの戦闘に手を出す判断を下す。


「ドラミー、【剛力打撃メガトンストライク】」


 STRで勝るドラミーの攻撃がキングゴブリンゾンビのドレインブッチャーに当たり、力負けしたキングゴブリンゾンビの手からドレインブッチャーが飛んで行く。


「宵闇さん、悪いけど有効打ある?」


「キャストライダーの攻撃が通らない以上、猛毒で力尽きるのを待つしかないや」


「そうか。リビングダンサー、【偉大舞踏グレートダンス】」


 UDSにおいてフレンドとパーティーを組むシステムはないから、【偉大舞踏グレートダンス】で強化されるのは鬼童丸のアンデッドモンスター達だけだ。


 しかし、共通の敵であるキングゴブリンゾンビの能力値が1割下がれば、宵闇ヤミのアンデッドモンスター達でもダメージを入れられるようになる。


「お膳立てした。後はできるよね?」


「ありがとう! キャストライダー、【暗黒乱射ダークネスガトリング】!」


 鬼童丸のサポートのおかげで、キングゴブリンゾンビのHPはいよいよ0になった。


 キングゴブリンゾンビがカードになるのと同時に、鬼童丸の耳にシステムメッセージが届く。


『鬼童丸がLv36からLv40に到達しました』


『鬼童丸が称号<名誉荒川区長>を獲得しました』


『鬼童丸の称号<鏖殺男爵(新宿・文京・中野)>と称号<名誉荒川区長>が称号<鏖殺男爵(新宿・文京・中野・荒川)>に統合されました』


『ドラミーがLv41からLv50(MAX)まで成長しました』


『鬼童丸が地獄に認められた階級の称号を保持した状態でドラミーがレベル上限に達したため、ドラミーがドラピールに特殊進化しました』


『ドラピールが【魔力吸収マナドレイン】を会得しました』


『ジェネラルライダーがLv41からLv50(MAX)まで成長しました』


『ジェネラルライダーがデスナイトを倒した状態でレベル上限に達したため、デスライダーに特殊進化しました』


『デスライダーが【威圧プレッシャー】を会得しました』


『リビングダンサーがLv38からLv48まで成長しました』


『レギランプがLv31からLv43まで成長しました』


『ゴブリンゾンビを300枚、ツイングリムとブラックスケルトンナイトを100体ずつ、ジェネラルゴブリンゾンビを25枚、スカルニャルラピードとボックスイーター、キングゴブリンゾンビを1枚ずつ手に入れました』


 (これは美味しい戦闘だったな。もう一度やりたいぐらいだ)


 システムメッセージが鳴り止んだ時、鬼童丸はこのボス戦をもう一度やりたいと思った。


 それぐらいには使役するアンデッドモンスター達が成長していた。


 まずは相棒であるドラピールからステータスを確認する。



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種族:ドラピール Lv:1/75

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HP:2,500/2,500 MP:2,500/2,500

STR:2,600(+100) VIT:2,500

DEX:2,500 AGI:2,500

INT:2,600(+100) LUK:2,500

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アビリティ:【暗黒砲ダークネスバースト】【剛力打撃メガトンストライク

      【暗黒棘ダークネスソーン】【闇回復ダークヒール

      【魔力吸収マナドレイン

装備:鬼竜牙棍

備考:なし

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 (まさかここまで美人だったとはね)


 能力値が強くなっていることは間違いないが、鬼童丸が注目したのはドラピールの外見だった。


 ドラミーは全身包帯に覆われた翼のあるリザードマンのフォルムだったが、ドラピールは包帯が取れて竜の角と翼、尻尾を生やしつつも、肌の青白い美人のアンデッドモンスターである。


 最初は骨だった相棒が特殊進化や融合フュージョンを経て美人なアンデッドモンスターになったのだから、鬼童丸が驚くのも当然のことと言えた。

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