第23話 ハッハッハッハ! 敵がゴミのようだ!

 なかのZEROまでの道中だが、どういう訳なのかアンデッドモンスターは現れなかったため順調に進めた。


 しかし、到着すると初見のアンデッドモンスターがわらわらと集まっており、なかのZEROの中にNPCが立て籠もっていることがわかった。


 それぞれの車から降りた鬼童丸とヴァルキリーだが、ヴァルキリーがあることに気づいた。


「ねえ、あれ見て」


「ん? うわぁ…」


 ヴァルキリーが指差した方角を見れば、アンデッドモンスターの大群が押し寄せており、なかのZEROに群がっていたアンデッドモンスターの大群も鬼童丸達をターゲットに変更して迫って来た。


 つまり、挟み撃ちされた訳である。


「ヴァルキリー、物騒な称号を持ってるんだし後ろ半分倒せるよな?」


「それは鬼童丸だけには言われたくないかな。でも、任せてくれておけ」


「じゃあ、そういうことで」


 鬼童丸がなかのZEROから迫って来たアンデッドモンスターの大群に対応し、ヴァルキリーが後ろから攻めて来たアンデッドモンスターの大群に対応することが決まった。


 画面は乱戦モードに切り替わり、鬼童丸もヴァルキリーも自身の戦闘に集中する。


召喚サモン:ドラミー! 召喚サモン:ジェネラルライダー! 召喚サモン:リビングダンサー! 召喚サモン:レギランプ!」


 召喚した4体に対し、鬼童丸はセットコマンドを使って予め設定しておいた範囲攻撃アビリティを敵の大群に命中させた。


 (装備が変わると威力も上がるねぇ)


 アワセが率いていた雑魚モブよりもレベルは高かったが、鬼童丸が召喚した4体はサクサクと敵の大群を蹴散らしていく。


 その背後からヴァルキリーの楽しそうな声が聞こえて来る。


「ハッハッハッハ! 敵がゴミのようだ!」


 (楽しそうで何よりだよ)


 ノリノリで<爆撃の豊島区長>に相応しい攻撃を披露し、ヴァルキリーは派手に迫り来る敵の大群を蹴散らしているようだ。


 ヴァルキリーに意識を向けている時間が長いと足元を掬われてしまうから、鬼童丸は頭を切り替えて第二陣を迎え撃つ。


 第一陣を倒してもボスモンスターは現れず、何処から現れたのか不明な第二陣が鬼童丸達を襲う。


 それでも、セットコマンドを使えばサクサクと雑魚モブ退治が進む。


 第二陣も倒したところで、鬼童丸とヴァルキリーの間に半透明の光の壁が生じる。


「えっ、またぁ!?」


「マジか」


 ヴァルキリーがボス戦からハブられたのかと思いきや、鬼童丸とヴァルキリーの正面に両サイドから角を生やしたヘルムを被った黒騎士という見た目のボスがそれぞれ現れた。


 (デスナイトLv28が2体。こっちに1体、あっちにも1体。お互い手出し無用な状態ね)


 鬼童丸は状況を素早く理解した。


 中野区は元々2体のボスモンスターがいて、1体が徘徊して1体が拠点に留まる。


 そして、拠点に来た敵を始末するため、デスナイトが配下達を率いて挟み撃ちにする仕様だったのだ。


 自分がやるべきは目の前のデスナイトを倒すこととわかれば、鬼童丸の行動は早い。


 ジェネラルライダーがパッシブアビリティの【挑発体タウントボディ】を会得したから、わざわざヘイトを稼ぐために動かずとも良くなった。


 デスナイトは身長2m超えの黒い骸骨騎士だが、武装が将軍と呼ぶに相応しい。


 デスナイトは【剛力飛斬メガトンスラッシュ】で攻撃を仕掛けて来た。


「ジェネラルライダー、【剛力飛斬メガトンスラッシュ】で応戦!」


 ジェネラルライダーも同じアビリティを発動すれば、ギリギリSTRで打ち勝った。


 ところが、デスナイトに届いた時には威力が減衰していたため、そのVITに弾かれてダメージはなかった。


「リビングダンサー、【偉大舞踏グレートダンス】を使え」


 味方を強化して敵を弱体化させるのは戦闘のセオリーだ。


 本来ならばジェネラルライダーの迎撃前に使うことで、与えるダメージを増やせたはずだがデスナイトのAGのAGIが想定以上に高くてリビングダンサーのAGIが届かなかったのだ。


 それでジェネラルライダーの攻撃の後に【偉大舞踏グレートダンス】を使う羽目になった。


「ドラミー、【暗黒棘ダークネスソーン】で足止め。レギランプは【呪纏火カースファイア】で削れ」


 能力値でデスナイトに勝るドラミーの【暗黒棘ダークネスソーン】が決まり、暗黒の棘に刺されたせいでデスナイトにダメージが入りつつその動きを拘束する。


 そこに【呪纏火カースファイア】が決まれば、デスナイトに追加で継続ダメージが入っていく。


 移動や体を動かせなくなったとしても、デスナイトにはまだ攻撃手段が残されていた。


「グォォォォォォォォォォ!」


 【威圧咆哮プレッシャーロア】のアビリティは、自身より弱い相手を恐慌状態に陥らせる他に自身を拘束するアビリティを解除させられる。


 後者の効果でデスナイトは【暗黒棘ダークネスソーン】から抜け出したが、【呪纏火カースファイア】はまだ纏わりついて継続ダメージを与えている。


 装備した剣で火を振り払おうとしても、デスナイトはそれを振り払えなかった。


 セットコマンドの最大火力でデスナイトに攻撃したところ、HPが最大値の半分まで削れたところでそれ以上削れなくなり、【呪纏火カースファイア】も強制的に消えてしまう。


 それは変化の前兆であり、デスナイトの体が突然発火し始める。


 ヴァルキリーが戦っているデスナイトもそうかはわからないけれど、この変化はレギオンが第二形態になった時と似たようなものだろう。


 デスナイトが強化されようとやることは変わらないから、再びセットコマンドの最大火力でデスナイトを攻撃する。


 ダメージの通りが悪くなり、デスナイトは自身を包む炎を装備している剣に集中させ、【剛力飛斬メガトンスラッシュ】を放つ。


「ジェネラルライダー、【剛力飛斬メガトンスラッシュ】で迎え撃て!」


 デスナイトの燃える斬撃とジェネラルライダーの斬撃が空中でぶつかり、デスナイトのそれが打ち勝ってジェネラルライダーに2割程度のダメージを与える。


 (威力が減衰されてこれってヤバい。あっ、【偉大舞踏グレートダンス】が切れてるからか)


「ドラミー、【闇回復ダークヒール】でジェネラルライダーを回復。リビングダンサーは【偉大舞踏グレートダンス】だ」


 自分のミスが招いた事態だったから、鬼童丸はドラミーにジェネラルライダーを回復させてリビングダンサーにバフとデバフをかけ直させた。


 デスナイトの全身は攻撃が終わると再び燃え上がり、そこから自身を包む炎を装備している剣に集中させ始める。


 (待てよ、あの攻撃って火属性判定になるんじゃね?)


 鬼童丸が閃いた時、デスナイトは【剛力飛斬メガトンスラッシュ】を放った。


「レギランプ、ジェネラルライダーの前に出ろ」


 物理攻撃と同じ扱いだった場合、レギランプのHPは大きく削られてしまう。


 賭けに出た鬼童丸の選択は半分正しく、一旦斬撃によってレギランプのHPががっつり削られたものの、パッシブアビリティの【火吸収ファイアドレイン】によって火を吸収して一気にHPを回復させた。


 MPも大幅に回復しており、第二形態のデスナイトの【剛力飛斬メガトンスラッシュ】は物理攻撃と火属性攻撃のダブルであることがわかった。


 こちらの陣営が傷つかなければ、ドラミーに攻撃後の隙だらけなデスナイトを攻撃させるのは当然のことだ。


「ドラミー、【暗黒砲ダークネスブラスト】!」


 弱体化したデスナイトに強化された【暗黒砲ダークネスブラスト】が命中すれば、デスナイトのHPは残り1割になった。


 その瞬間に第三形態に変化し、何処からともなく現れた黒いマントを羽織ってスケルトン系のアンデッドモンスターの群れを召喚し始めた。


「マジか! そりゃ悪手だぜ! レギランプ、【死体爆弾ネクロボム】」


 自分を囲むように雑魚モブを召喚してくれたのだから、それは鬼童丸にとってレギランプの攻撃手段を増やすことを意味する。


 【死体爆弾ネクロボム】に巻き込まれてダメージを負い、デスナイトがダウン状態になった。


 鬼童丸の視界に追撃のボタンが現れれば、鬼童丸は当然そのボタンを押す。


 ドラミー達に袋叩きにされ、デスナイトのHPが0になった。


『鬼童丸がLv34に到達しました』


『鬼童丸の称号<中野の主>が称号<中野区長>に上書きされました』


『鬼童丸の称号<鏖殺の新宿区長>と称号<狂気の名誉文京区長>、称号<中野区長>が称号<鏖殺男爵(新宿・文京・中野)>に上書きされた』


『ドラミーがLv30からLv34まで成長しました』


『ジェネラルライダーがLv30からLv34まで成長しました』


『リビングダンサーがLv28からLv32まで成長しました』


『レギランプがLv19からLv25まで成長しました』


『レギランプの【呪纏火カースファイア】が【呪纏炎カースフレイム】に上書きされました』


『ブラックスケルトンフェンサーとブラックスケルトンメイジを50枚ずつ、ブラックスカルドックを40枚、ペイルゴーストを30枚、デスナイトを1枚手に入れました』


 (貴族制度始まっちゃった?)


 システムメッセージが告げた自分の称号の変化を受け、鬼童丸は首を傾げた。

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