第17話 殴りたいこの笑顔

 駐車場から少し離れた所にあるドームだが、そこには幽霊系アンデッドモンスター達が集まっていた。


 先程500体のモンスターと乱戦を繰り広げたが、あの場において鬼童丸も宵闇ヤミも幽霊系アンデッドモンスターの姿を見ていない。


「鬼童丸さん、ドームに幽霊が集まる理由ってなんだと思う?」


「幽霊が欲しがる何かがドームの中にあるか、幽霊が合流することで強大な幽霊が誕生するかどっちかじゃないかね。まあ、前者の場合は幽霊なら壁の中を透過できるんじゃねって疑問もある訳だけど」


「確かに。あっ、ヤミんちゅが幽霊は壁の通り抜けできるってスパチャくれた。スパチャありがとー!」


 スーパーチャットはコメント欄でそのコメントを目立たせてくれるから、宵闇ヤミはそれに気づいて必要な情報を拾い上げられた。


 わざわざスーパーチャットまでして教えてくれるヤミんちゅに感謝しつつ、鬼童丸は後者の可能性について考える。


「ドームの中に入れない訳じゃないなら、ドームの前で融合フュージョンしてるって感じかね? こりゃドーム前でボス戦だろうな」


「ボス戦かぁ。鬼童丸さんみたいに隠しボスまで倒せると良いんだけど…」


 できれば鬼童丸のように○○区長という称号が欲しいので、宵闇ヤミは自分にそこまでのことができるのだろうかと心配そうに言う。


 元気づけようと思い、鬼童丸はニッコリと笑みを浮かべて応援する。


「頑張れ♪ 頑張れ♪」


「殴りたいこの笑顔」


「暴力は何も解決しない」


「このゲームが暴力を肯定してるじゃん」


「それはそう」


 このやりとりにヤミんちゅ達はコメント欄に草を生やした。


 あともう少しでドームに着くというところで、仰向けに倒れているものの辛うじて息があるネクロマンサーがいた。


 頭上のアイコンを見る限り、そのネクロマンサーはプレイヤーではなくNPCだった。


「宵闇さん、NPCの様子を見に行こう」


「了解」


 無視する選択肢もあるけれど、ここで無視すると宵闇ヤミが人助けの精神がないのかなんてヤミんちゅに叩かれるかもしれない。


 その上、ドームで控えているであろうボス戦に関する情報が手に入るかもしれないから、鬼童丸は倒れているNPCの様子を見に行こうと提案した。


 宵闇ヤミも鬼童丸の意図を理解し、鬼童丸の後に続いた。


「おい、しっかりしろ」


「…お、応援か。た、頼む。や、奴等を倒してくれ」


 片膝立ちで鬼童丸が倒れているNPCに話しかけたところ、そのNPCはそれだけ言って力尽きた。


「えっ、死んだ? …あぁ、息してないぞこの人」


 心音を確認しても鼓動は聞こえず、口や鼻の前に手を翳してみても息はかからなかったから、鬼童丸は宵闇ヤミにNPCが死んでしまったことを言外に伝えた。


 それに対する宵闇ヤミはかなりドライなことを言い出す。


「持ち物に何かヒントはないかな? 身ぐるみ剥がして確認してみようよ」


「お、おう」


 鬼童丸が若干引いた素振りを見せると、コメント欄のヤミんちゅ達がざわついて宵闇ヤミがそれに抗議する。


「酷いよヤミんちゅ達! 鬼童丸さんだって同意したのに私だけ非道みたいなことを言うなんて!」


 その発言からヤミんちゅ達が宵闇ヤミに何を言ったか察し、鬼童丸は彼女をフォローする。


「ヤミんちゅ達、宵闇さんがドライなのは事実だがこれは必要なことではある。デーモンズソフトの過去作をプレイしたことがあるなら、気が引けるようなことをしないと見逃してしまうヒントがあるってわかるはずだ」


「ねえ、それってフォローしてるようでフォローしてくれてないよね。鬼童丸さん、私とヤミんちゅ達のどっちの味方なの?」


 (すごいな、目のハイライトを消すこともできるのか。無駄にクオリティ高い)


 目からハイライトの消えた宵闇ヤミの表情を見て、鬼童丸はデーモンズソフトのゲーム開発に対する拘りに気づいた。


 余計なことを考えていると察し、宵闇ヤミは鬼童丸を見つめながらその鼻を摘まむ。


 この行動には流石に驚き、鬼童丸は宵闇ヤミの地味に継続的な攻撃からすぐに逃れる。


「ごめんて。ほら、ヒント探しをしよう」


「うん」


 気を取り直した宵闇ヤミは、鬼童丸と協力して死んでしまったNPCの持ち物を調べた。


 その結果、鬼童丸達の睨んだ通りでNPCの持ち物から文京区の調査メモが見つかった。


 それを読んだことにより、幽霊系アンデッドモンスターの正体がレギオンであることが判明した。


「レギオンの正体は幽霊系モンスターの群体か。ってことは、ドームに集まってるのはそこに分散してたレギオンが再び集まってると見るべきか」


「分散する群体で実体がないんでしょ? 面倒臭そうなボスだね」


「ここで名前がわかんなかった場合、ボスを倒せないとか倒すまでにめっちゃ時間がかかるとかありそうだ。この調査メモを見つけられて良かった」


 鬼童丸がホッとしたのを見て宵闇ヤミはドヤ顔になる。


「ほら、ヤミの判断は正しかった。ヤミはドライなんかじゃない」


「気にしてたんだな。悪かったよ。どっちかっていうとウェットだった」


「違う、そうじゃない」


 真顔で言う鬼童丸に対し、宵闇ヤミはそうじゃないだろうと素早くツッコんだ。


 NPCの死体は道の端に移動させ、鬼童丸達はドームへと急ぐ。


 ようやくドームに到着したら、そこには幽体が集合して様々な負の感情を表情に出した幽体達の顔が繋がって1つの浮遊する球体となったレギオンがいて、鬼童丸達に気づくと2人の画面が戦闘モードに変わる。


召喚サモン:ドラミー! 召喚サモン:ジェネラルライダー! 召喚サモン:リビングダンサー!」


召喚サモン:キャストライダー! 召喚サモン:グリムロス! 召喚サモン:グラッジセティス!」


 鬼童丸と宵闇ヤミがアンデッドモンスター達を召喚した時、ドーム周辺を半透明の光の壁が覆う。


「あぁ、間に合わなかった!」


「クソッ、紙一重か!」


「え~、見てるだけ~?」


 壁の外に締め出された3人のネクロマンサーは、アイコンの色からしてプレイヤーのようだ。


 ボス戦が始まった時からいなかったため、鬼童丸達の戦闘には加われないらしい。


 (すまんね。ボス戦は早い物勝ちなんだ)


 参戦できなくて悔しそうにしている3人に対し、鬼童丸はすまないと心の中で詫びてから頭を戦闘に切り替える。


「ジェネラルライダーは【挑発咆哮タウントロア】! リビングダンサーはジェネラルライダーに【高揚舞踏アゲアゲダンス】! ドラミーは【闇砲撃ダークキャノン】!」


 定番となった戦法を指示すれば、ジェネラルライダーがレギオンを挑発してヘイトを稼ぐ。


 ヘイトを稼げば狙われるから、リビングダンサーが【高揚舞踏アゲアゲダンス】でジェネラルライダーの能力値を高めて準備を行う。


 AGIの数値がこの場において最も高いから、指示が後になってもレギオンよりも先にドラミーの攻撃が始まり、闇の砲撃が多くの群体のHPを削って倒した。


「群体になってる分、1体あたりの能力値は大して高くなさそうだ」


「それは好都合だね! グリムロスは【闇棘ダークソーン】! キャストライダーは【闇弾乱射ダークガトリング】!」


 鬼童丸の分析した結果を聞き、宵闇ヤミは一旦グリムロスの攻撃でレギオンの幽体が集まる部分を陰の棘で突き刺したり、キャストライダーの範囲攻撃でダメージを稼ぐ。


 ちなみに、宵闇ヤミがグラッジセティスに攻撃指示を出さなかった理由は2つある。


 1つ目の理由は、レギオンに対して有効な攻撃手段がないからだ。


 当たらない攻撃を無駄撃ちするのはMPの無駄なので、MPを無駄遣いしないようにしている。


 2つ目の理由は、たった今攻撃に移ろうとしているレギオンを邪魔するためだ。


「グラッジセティス、【打消騒音キャンセルノイズ】!」


 ギリギリだがグラッジセティスのAGIがレギオンのAGIを上回り、アビリティを使おうとしていたレギオンにグラッジセティスの【打消騒音キャンセルノイズ】が届いてレギオンの行動が不発に終わる。


「グッジョブ。リビングダンサー、レギオンに【落胆舞踊サゲサゲダンス】。ドラミーはもう一度【闇砲撃ダークキャノン】」


 能力値をリビングダンサーに下げられて弱体化したため、レギオンはドラミーの【闇砲撃ダークキャノン】でHPが半分まで削られた。


 (おかしい。もっとダメージが入るはずなのに)


 戦闘開始直後に確認した能力値ならば、鬼童丸の読みではもっとダメージが入ったはずなのにぴったり半分まで削られたところでHPが減らなくなった。


「グォォォォォォォォォォ!」


 突然、画面がムービーモードに切り替わり、レギオンに攻撃ができなくなると同時に穴だらけになっていたレギオンの幽体が再生し、それどころかレギオンを形成する無数の顔の口から大砲が一斉に生えた。


 (第二形態ってことか。面白い)


 予想よりもずっと簡単にHPが削れてしまったため、ここまで簡単に倒れてしまってはつまらないと思っていたから、鬼童丸はレギオンの変化を歓迎した。

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