第15話 ガチャ! 回さずにはいられないッ!

 贅沢者と呼ばれた鬼童丸のリアクションに対し、タナトスはそれで良いと頷く。


「宵闇ヤミの気持ちもわからなくもないが、鬼童丸はその感覚を忘れるな。アンデッドガチャで支払ったのと等価値の結果を出した者なんて数人いたかどうかだ。支払った以上の結果を出したものなんて把握している限り存在しない」


「「うわぁ」」


 当たりは当たりでもコストパフォーマンスを考えるようにしなければ、当たり演出に誤魔化されて損をしてしまう。


 そんな間抜けになってほしくないから、タナトスは鬼童丸にそれで良いと頷いたのだ。


「ついでに言えば、ガチャの結果は全て中立派に筒抜けだから、先程の宵闇ヤミの反応は奴等の嗜虐心を満たしただろう」


「そんなの中立派じゃない! 愉悦派に改名しろ!」


 爆死の恨みで中立派を許せないと言わんばかりに宵闇ヤミは訴えた。


 コメント欄のヤミんちゅ達も爆死経験者が多いようで、宵闇ヤミの主張に賛同する投稿でコメント欄が加速した。


 2人が1回ずつアンデッドガチャを引いたため、この場においてやるべきことを終えたタナトスとヘカテーはトーチホークに乗って飛んで行った。


 それから、気持ちを切り替えて鬼童丸達はドットが使った瓦礫の山を破壊してから先に進む。


 宵闇ヤミがドットと戦っている間、鬼童丸がずっと耐久戦をしていた影響なのか野生のアンデッドモンスターに全然遭遇しなかった。


 どうやら周囲一帯のアンデッドモンスターを倒してしまったらしい。


 車に乗って移動する最中、スムーズに行き過ぎて宵闇ヤミは心配になる。


「これだけ順調に進むと逆に心配になるよ。嵐の前の静けさみたいな感じで」


「そうだな。メタ的なことを考えると、東京ドームでの戦いが派手になりそう気がする。おっと、瓦礫の山だ。調べてみよう」


「は〜い」


 瓦礫の山を退かした先にある建物には、何か隠されていることが多い。


 宵闇ヤミもそれを理解しているから、鬼童丸の提案に賛同した。


 使役するアンデッドモンスター達の力を借り、瓦礫を退けた先にあったのはドラッグストアだった。


 ところが、そのドラッグストアには先客がいた。


 グラッジセンチピードはグラッジマンティスと同じく、Lv50が上限のムカデ型アンデッドモンスターだ。


 それが5体も潜んでいたのだから、ドラッグストアでの戦いはドットとの戦いよりも苦労するだろう。


召喚サモン:ドラミー! 召喚サモン:ジェネラルライダー! 召喚サモン:リビングダンサー!」


召喚サモン:キャストライダー! 召喚サモン:ツイングリム!」


 グラッジセンチピードは敵に接近して噛み付くか、巻きついて締め付けるアビリティを得意とする。


「ジェネラルライダーは【挑発咆哮タウントロア】、リビングダンサーはジェネラルライダーを対象に【高揚舞踏アゲアゲダンス】」


 ジェネラルライダーの咆哮に誘われ、グラッジセンチピード達の攻撃はジェネラルライダーに向けられることになる。


 5体の敵から攻撃が集中するため、鬼童丸はリビングダンサーにジェネラルライダーを支援させる。


 【高揚舞踏アゲアゲダンス】のおかげでVITの数値が10%上がり、グラッジセンチピードの攻撃を受けてもジェネラルライダーにダメージはない。


「ドラミー、【影棘シャドウソーン】でジェネラルライダーに群れた奴らを串刺しにしろ」


 鬼童丸の指示を受け、ドラミーは囮になったジェネラルライダーに群れるグラッジセンチピード達の影から棘を生やして突き刺す。


「宵闇さん、仕上げは任せたよ」


「はい! キャストライダーは【大気槌エアハンマー】! ツイングリムは【潜影噛シャドウバイト】!」


 身動きの取れない敵なんてサンドバッグと同じだから、グラッジセンチピード5体はあっという間に倒された。


『鬼童丸がLv23に到達しました』


『ドラミーがLv10からLv12まで成長しました』


『ドラミーの【影棘シャドウソーン】が【闇棘ダークソーン】に上書きされました』


『ジェネラルライダーがLv10からLv12まで成長しました』


『ジェネラルライダーの【怪力飛斬パワースラッシュ】が【剛力飛斬メガトンスラッシュ】に上書きされました』


『リビングダンサーがLv1からLv4まで成長しました』


『グラッジセンチピードのカードを5枚手に入れました』


 フレンドが敵と共闘して野生アンデッドを倒した場合、乱戦モードでも通常の戦闘モードなら倒したアンデッドモンスターから手に入るカードは同数である。


 そうしなければフレンド同士でギスギスしてしまうかもしれないので、デーモンズソフトもその点は配慮したのだ。


 尖ったゲームを開発したとしても、わざわざ友情に亀裂を入れるようなシステムにはしていない。


 戦闘を終えてドラッグストアに足を踏み入れたところ、残念ながら生存者は見当たらなかった。


 グラッジセンチピードに食い荒らされた死体の成れの果てということで、人骨が床に転がっていたりした。


 捜索の結果、ポーションやMPポーションのアイテムカードを10枚ずつ発見し、鬼童丸と宵闇ヤミは二等分した。


「アイテムカードはありがたいな」


「だよね。アイテムカードにかかるネクロはガチャに回したい」


「ギャンブルは程々にしとけよ。ゲームの中だからって油断するとズブズブに嵌まるから」


「ガチャ! 回さずにはいられないッ!」


 ネタに走る宵闇ヤミを見て鬼童丸がジト目を向ける。


 これには宵闇ヤミも慌てて訂正する。


「冗談だよ! さっきのガチャでもうガチャを回すネクロが残ってないもん!」


「残ってたら回すのか。やれやれだな」


「鬼童丸さん、配信者には撮れ高のためならやらなきゃいけない時もあるんだよ」


「そうですか。大変ですね」


「急によそよそしくしないで!」


 コメント欄のヤミんちゅ達はそのやりとりに草を生やした。


 鬼童丸のリスク管理能力の高さが面白かったのだ。


「冗談だよ。そんな必死にならないで」


「まったくもう、ヤミんちゅにヤミが鬼童丸さんの尻に敷かれてるって笑われてるじゃん」


「事実じゃね?」


「もぉぉぉぉぉ!」


 いきなり牛のように鳴くものだから、今度はコメント欄にヤミ牛なんてコメントが多数寄せられた。


 流石にいじり過ぎたと思ったから、鬼童丸は宵闇ヤミを落ち着かせつつ話題を変える。


「どうどう、落ち着いて。ところで、宵闇さんもそろそろLv20になったんじゃない?」


「Lv21になったよ。3体目のアンデッドを使役できるようになったね」


「今手に入ったグラッジセンチピードは融合フュージョンできそう?」


「…あっ、ドットが使ってたグラッジマンティスと融合フュージョンできるっぽい。ちょっとやってみるね」


 宵闇ヤミは融合フュージョンボタンを押し、グラッジマンティスとグラッジセンチピードを融合フュージョンさせる。


 グラッジマンティスとグラッジセンチピードのカードが合体するエフェクトが発生し、新たな融合アンデッドのカードがこの場に現れた。


 鬼童丸とヤミんちゅ達が結果を楽しみにしているだろうから、宵闇ヤミはすぐに3体目の枠で新しい融合アンデッドを召喚する。


「お披露目の時が来た! 召喚サモン:グラッジセティス!」


 召喚されたグラッジセティスだが、外見は蟷螂の鎌を両サイドに生やした灰色の百足だ。


 虫とゾンビが苦手なプライヤーにとって、これ以上ない天敵である。


 (ん? レベルの上限値がLv50なの?)


 ステータスを確認したところ、予想ではLv50よりも上の上限のはずがグラッジセティスのレベル上限は50だった。


 それでも、能力値自体は上がっているから良しとしよう。


 これで宵闇ヤミの使役するアンデッドモンスターは、キャストライダーとツイングリム、グラッジセティスの3体になった。


 移動砲台のキャストライダーに遊撃のツイングリム、タンクにしてカウンターが得意なグラッジセンティスとそこそこバランスは取れている。


 鬼童丸のようにバフやデバフを使えるアンデッドモンスターを手に入れたいところだが、ゲームとはいえそんなに都合良く話は進まない。


「フッフッフ。どうかな鬼童丸さん? 感想が聞きたいな」


「グラッジセティスはグラッジマンティスとグラッジセンチピードのいやらしいところが組み合わさってるから、実に害悪だと思う」


「そうだけどもうちょっと言い方ァ!」


 グラッジセティスが現状で使えるアビリティは、【復讐飛斬リベンジスラッシュ】と【硬化皮膚ガードスキン】 、【挑発突撃タウントブリッツ】、【打消騒音キャンセルノイズ】の4つだ。


 【挑発突撃タウントブリッツ】でヘイトを集め、【硬化皮膚ガードスキン】でVITを高めてダメージを減らす。


 自分がダメージを受けてでも相手に大ダメージを与えたいなら【復讐飛斬リベンジスラッシュ】を使い、敵のアビリティを失敗させたいならAGIで勝っている対象限定だが【打消騒音キャンセルノイズ】で行動を封じる。


 鬼童丸が言う通りで実に害悪である。


「ごめんて。でも、使役するアンデッドモンスターのバラエティが豊かになることは良いことだ。気を取り直して東京ドームに行こう」


「おー」


 丸め込まれた気もするが、宵闇ヤミは鬼童丸の進行に従って拳を空に突き上げた。

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