第14話 中立派は愉悦勢ってはっきりわかんだね

 宵闇ヤミがドットを倒したことで、鬼童丸は耐久戦を終えて宵闇ヤミと合流した。


 それに併せて、タナトスとヘカテーがトーチホークに乗って現れた。


「宵闇ヤミよ、よくやったわ。早々にこの愚か者を倒したことは賞賛に値する」


「鬼童丸さんが背中を守ってくれたおかげだよ。流石に挟み撃ちにされたらヤバかった」


「そうね。タナトスの弟子よ、弟子の背中を守ってくれたことを感謝する」


「問題ない。東京ドームを確保するんなら、これぐらいできなきゃ駄目だろ?」


 鬼童丸の発言を聞き、ヘカテーは隣のタナトスの方を向く。


 自分の弟子よりも先を行くタナトスの弟子を見て、どうやったらこんな弟子が育つんだと言外に訴えているらしい。


 その視線に気づいたタナトスは肩を竦める。


 方針こそ与えているものの、タナトスは鬼童丸に好きにやらせているから何も言えないのだ。


「まあ良い。そろそろ時間だな」


 その瞬間、ギギギと音を立てて鬼童丸達の前に地獄門が現れ、いくつもの死霊が現れて鬼童丸達に囲まれていたドットを門の中に連れ去る。


「死にたくねえ! 俺はこんな所で終わる雑魚じゃねえんだぁぁぁぁぁ!」


 ドットの訴える声は地獄門が閉じたことで聞こえなくなり、そのまま門が消えた。


 まだ宵闇ヤミのクエストが終わっただけであり、自分のクエストは対応中だ。


 それでも、折角タナトスがいるならばと鬼童丸はタナトスに話しかける。


「タナトス、先程の戦闘でまたそこそこのカードを手に入れた。交換してもらえないか?」


「良いだろう。ふむ、これだけのカードがあるのなら、1つ鬼童丸の運試しをさせても良いかもしれない」


「運試し?」


 タナトスの発言に首を傾げた直後、鬼童丸の視界にアンデッドガチャの画面が表示される。


 それは宵闇ヤミにも表示されており、鬼童丸よりも大袈裟にリアクションする。


「嘘ぉ!? ガチャあるのぉぉぉぉぉ!?」


「どうやらアンデッドガチャの説明は要らないようだな」


「いや、それは宵闇さんだけだ。俺は説明してほしい」


「ヤミも聞くよ!? 仲間外れにしないで!」


 鬼童丸がしれっと自分のことを突き放すものだから、宵闇ヤミは自分も説明を聞きたいと主張した。


 このやりとりにヤミんちゅ達はヤミ虐助かるというコメントを連投した。


 タナトスは2人とも説明を聞くものと理解し、アンデッドガチャについて話を聞く。


「1万ネクロで1回アンデッドモンスターのカードが手に入る。10万ネクロをまとめて支払えば、おまけが加わって11枚手に入る。このガチャは地獄の中立派から私達ネクロマンサーに提供された仕組みだ」


「中立派? さっきドットを連行した派閥とは別の派閥ってこと?」


「その通り。私達に友好的な派閥は親人派という。人類にネクロマンサーになる力を授けたのは親人派だ。それと真っ向から反発してるのが地獄だけ良ければ良いと考える獄先派だ」


 (地獄の派閥は三つ巴ってことね。了解)


 簡潔にまとめられた地獄の派閥関係を理解し、鬼童丸は新たに思い浮かんだ疑問をタナトスにぶつける。


「なんで中立派がアンデッドガチャなんて仕組みを実装したんだ? 運が良ければ親人派の助けになると思うんだが」


「誤解しているようだから訂正するが、中立派は一番性格が悪いぞ。親人派と獄先派の争いが激化することを望んでそうなるように動いて楽しんでいる。その上、ガチャの仕組みを冷静に考えてみろ。当たりを引ける確率はどれだけだと思う?」


 渋い表情がフードを被ったままでもわかるあたり、タナトスは中立派が嫌いなようだ。


 それにもかかわらず、アンデッドガチャを鬼童丸達にやらせようというのだから、望みは薄くとも少しでも戦力になるアンデッドモンスターを手に入れられる可能性があれば弟子にリスク込みで伝えておきたいという気持ちが強いのだろう。


 アンデッドガチャの画面を操作して排出率が表示されたが、鬼童丸が遭遇していないアンデッドモンスターは???表記だった。


 既に知っているアンデッドモンスターならば、その名前の隣にレベル上限が表示されているから強さをある程度推し量れる。


「なるほど。これは性格悪いわ。ただ、今後のことを考えれば強いアンデッドモンスターは手に入れておきたいから、運試しをせざるを得ない」


「そういうことだ。しかも、中立派はガチャでしか手に入らないアンデッドモンスターも用意しているらしい。なんとも腹立たしいことだ」


「中立派は愉悦勢ってはっきりわかんだね」


 イライラを隠そうとしないタナトスの発言を受け、宵闇ヤミはそのようにコメントした。


 地獄の派閥はさておき、実況配信をしている宵闇ヤミがアンデッドガチャをしない訳がない。


 既にこのガチャの餌食になっているヤミんちゅ達は、ガチャの時間だと宵闇ヤミに率先してガチャを引けと煽る。


「ヤミは配信者だから引くよ! なけなしの10万ネクロ分のカードをコストに、出でよ撮れ高!」


 (素直でよろしい)


 視界に表示されたガチャを引き、宵闇ヤミとヤミんちゅ達はガチャのアニメーションを目にする。


 両手を組んで祈る宵闇ヤミだが、その結果は演出からして惨敗だったらしく膝から崩れ落ちた。


「どうしてだよぉぉぉぉぉ!」


 この慟哭とも呼べる叫びが聞こえた時、鬼童丸には見えていないからわからなかったが、同じくアンデッドガチャに惨敗したヤミんちゅ達は大喜びである。


 師匠のヘカテーが片膝を地面に着けて肩をポンポンと優しく叩くのを見て、デーモンズソフトのNPCの作り込みの細かさに鬼童丸は驚いた。


 タナトスは宵闇ヤミの大爆死を見て、鬼童丸に声をかける。


「鬼童丸、無理にガチャに挑まなくても良い。其方ならガチャに頼らずともいずれ戦力は集まるからな」


「まあ、そうなんだけど、宵闇さんの爆死だけ見届けてチキるのは違うと思うから一度だけやってみる」


 ここで堅実な判断をしたらヤミんちゅ達はがっかりするだろうし、ゲームだからこそノーリスクでギャンブルしてみようと鬼童丸は思ってガチャを引く。


 ガチャの演出はプレイヤーとその画面を共有されたものにしかわからない。


 それゆえ、宵闇ヤミとヤミんちゅ達は鬼童丸のガチャの結果をそのリアクションから予想するしかない。


 宵闇ヤミ達に見守られている中、鬼童丸はどうリアクションすべきか悩んでいた。


 (10枚は雑魚。1枚は当たりなら喜ぶべきか?)


 アンデッドガチャの結果、ゾンビやスケルトン、ゴーストのようなLv10が上限のアンデッドモンスターが10枚だった。


 それらはゾンビと等価であり、ネクロに換算すれば10枚で100ネクロという意味で大赤字だ。


 しかし、11枚目のカードはLv50が上限の当たり演出であり、50,000ネクロの価値がある以下のカードが手に入った。



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種族:リビングダンサー Lv:1/50

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HP:350/350 MP:400/400

STR:400(+10) VIT:350

DEX:450 AGI:450

INT:400 LUK:400

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アビリティ:【怪力蹴撃パワーシュート】【高揚舞踏アゲアゲダンス

      【落胆舞踏サゲサゲダンス】【混乱霧コンフュミスト

装備:踊り子の衣装

   踊り子の仕込み靴

備考:なし

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 外見は黒い踊り子の衣装を着た幽霊であり、攻撃できるアビリティも備えているがリビングダンサーは支援がメインのアンデッドモンスターだ。


 【高揚舞踏アゲアゲダンス】は任意のアンデッドモンスターのHPとMP以外の能力値を10%上昇させ、【落胆舞踏サゲサゲダンス】はその反対に任意のアンデッドモンスターのHPとMP以外の能力値を10%を下げる。


 リビングダンサーを使役する3体目に設定したところで、鬼童丸は宵闇ヤミ達の視線が自分に集まっていることに気づいた。


「もう、鬼童丸さんったらやっと反応してくれた! 当たったの!?」


「あぁ、すまん。1体当たった。他は雑魚」


「当たったのにテンション上がらないの?」


「10万ネクロ払って5万1,000ネクロの結果だから、素直に喜べなくてな」


「この贅沢者め! もっと喜べ!」


 アンデッドガチャで爆死した宵闇ヤミからすれば、鬼童丸の発言は贅沢だったのでツッコむのは当然である。

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