第10話 すみません、聞いてませんでした

 鬼童丸のドラミーが召喚されたことにより、宵闇ヤミの配信を見に来るUDSプレイヤーが続々と現れた。


 高評価をしてほしいとか、チャンネル登録をしてほしいと思った宵闇ヤミではあるが、ここで私欲に走ってはいけないと判断してヤミんちゅの需要に応じることを優先する。


「ドラミーって言うんですね。空も飛べるなんてすごいです」


「ありがとうございます。これで空を飛んでる敵が相手でも近接攻撃のアビリティが当たります」


「それは魅力的ですね。スパルトイナイトとマミーを融合フュージョンしてましたけど、スパルトイナイトってどうやって手に入れたんですか? 新宿区では見ないアンデッドモンスターですから、おそらく師匠から貰った最初の1体ですよね?」


「全部をお伝えするとネタバレになるので言いませんが、ヒントはオープニングムービーをよく見たということですね。その要素と師匠からいただいたスケルトンメイジがマッチして特殊進化した結果、スパルトイナイトの前段階のアンデッドモンスターになりました」


 これにはヤミんちゅ達がコメント欄でざわついた。


 やはり鍵はオープニングムービーだったとか、序盤からすごい要素をぶち込んだデーモンズソフトに対する怨嗟の声である。


 そんなコメントが多い中、鬼童丸を純粋に評価する声もあったのだが、コメント欄が加速したせいで宵闇ヤミはそれを目で追えなかった。


「ヒントを教えていただきありがとうございます。鬼童丸さんに比べたら私のアンデッドモンスターの変化は些細なものかもしれませんが、グリムライダーを倒したことでグリムハウンドが進化してツイングリムになりました。召喚サモン:ツイングリム」


 宵闇ヤミがそう言って召喚すれば、双頭のグリムハウンドが現れた。


 召喚されたツイングリムを見て、鬼童丸は思ったことを述べる。


「次に進化させたらケルベロスっぽくなりそうですね。そのままケルベロスって訳ではないでしょうけど」


「ですよね。あっ、ちょっと待って下さい。私も融合フュージョンできそうです。ブラックワイトとグリムライダーを融合フュージョンしてみますね」


 ブラックワイトとグリムライダーのカードが合体するエフェクトが発生し、融合アンデッドが誕生した。


 ヤミんちゅ達から早く融合アンデッドを見せてくれとせがまれ、宵闇ヤミは融合アンデッドを召喚する。


「今お披露目しますね。召喚サモン:キャストライダー」


 召喚されたキャストライダーの見た目は、グリムハウンドに騎乗したブラックワイトだった。


 手には杖を持っており、ブラックワイトの時よりもAGIが上がって移動砲台になっている。


融合フュージョンの成功、おめでとうございます。なるほど、二足歩行のアンデッドモンスターとグリムライダーを融合すれば、グリムライダーの上に素材となったアンデッドモンスターを乗せられる訳ですか。それならば…」


 鬼童丸は宵闇ヤミを祝福した後、宵闇ヤミが発見した要素を自分も試すべく、モンスターカード一覧からジェネラルゴブリンゾンビとグリムライダーを融合フュージョンした。


 2体のアンデッドモンスターが合体するエフェクトの発生に伴い、新たな融合アンデッドのレシピが解放される。


「えっと鬼童丸さん、今度は何とグリムライダーを融合フュージョンしたんでしょうか?」


「ジェネラルゴブリンゾンビとグリムライダーを融合フュージョンしました。こちらもお披露目しましょう。召喚サモン:ジェネラルライダー」


 ジェネラルライダーと呼ばれた融合アンデッドは、ジェネラルゴブリンゾンビが逞しいグリムハウンドに騎乗した外見だった。


 鬼童丸が戦ったジェネラルゴブリンゾンビはぼろっちくも刺々しいメイスを装備していたのだが、ジェネラルライダーはトマホークを装備している。


「あのぉ、ジェネラルゴブリンゾンビってワールドアナウンスで出て来た隠しボスですよね?」


「正解です。宵闇さんも隠しボスとグリムライダーを倒せば、似たような融合アンデッドを使役できると思いますよ」


「隠しボスって見つけにくいし倒せないから隠しボスなんですが!?」


 宵闇ヤミのツッコミに対し、ヤミんちゅ達もコメント欄で激しく同意していた。


 さも簡単に真似できるような風に言われても、簡単にできないのだから当然である。


 鬼童丸はとんでもないことを言った後、ジェネラルライダーのステータスを確認する。



-----------------------------------------

種族:ジェネラルライダー Lv:1/50

-----------------------------------------

HP:400/400 MP:400/400

STR:450(+20) VIT:400

DEX:350 AGI:450

INT:350 LUK:400

-----------------------------------------

アビリティ:【怪力飛斬パワースラッシュ】【怪力突撃パワーブリッツ

      【潜影噛シャドウバイト】【挑発咆哮タウントロア

装備:将軍のトマホーク

備考:なし

-----------------------------------------



 (ふむ、ブースター2つ使ったとはいえドラミーはやっぱり特別なのかね?)


 レベル上限が同じでレベルも同じドラミーの能力値と比較したところ、ジェネラルライダーよりもドラミーの方が合計で900も上だった。


 そう考えると鬼童丸がドラミーを特別だと思うのも自然である。


「ちょっと鬼童丸さん! 聞いてますか!?」


「すみません、聞いてませんでした」


「ですよね!」


 鬼童丸がジェネラルライダーのステータスチェックに集中しているのはまるわかりだったため、宵闇ヤミはどうにか鬼童丸の意識を自分に戻したけれど、その時にはその掛け合いが面白くてヤミんちゅ達はコメント欄に草を生やしていた。


 まだ高評価やチャンネル登録のおねだりはしていないけれど、宵闇ヤミと鬼童丸のやり取りが面白かったとかUDSのためになる知識を得られたという理由で、高評価とチャンネル登録者数が増えていった。


 いつの間にか接続者数は2,000人以上になっており、登録者数も一気に1,000人を突破した。


 ヤミンチュからそれを知らせるコメントがあったため、宵闇ヤミは目を丸くした。


「ヤミの登録者数が1,000人を超えてる!? 900人もこの配信で登録してくれたの!?」


 今まで丁寧な口調で喋ることを意識していた宵闇ヤミだったが、VTuberを初めて3ヶ月間で想像できなかった事態が起きたせいで素が出てしまった。


「おめでとうございます。良かったですね」


「他人事みたいに言ってるけど鬼童丸さんのおかげだからね!? あっ、すみません」


 タメ口のツッコミになってしまったことに気づき、宵闇ヤミが鬼童丸に謝った。


 しかし、鬼童丸はタメ口の方が自然な感じがしたのでそれを正直に伝える。


「無理に丁寧に喋ろうとしなくて良いですよ。多分、ヤミんちゅさん達もそう思ってるんじゃないですか?」


 その鬼童丸の指摘に対し、コメント欄のヤミんちゅ達は次々に同意のコメントを投稿した。


 ヤミんちゅ達に違和感を与えていたのなら、宵闇ヤミはすぐに口調を変える決断をする。


「わかった。じゃあ、ヤミんちゅ達もそう思ってるみたいなのでヤミは普通に喋るね」


「それで良いと思います。」


「その代わり、鬼童丸さんもヤミにタメ口で喋って」


「えっ、良いよ」


 軽いリアクションに衝撃を受けたヤミんちゅ達は、コメント欄で驚いたり草を生やしたり大忙しである。


 驚かせた本人はと言えば…。


 (ゲームぐらいリラックスしたいよな)


 あくまでもマイペースだった。


 その後、融合アンデッド達やツイングリムが活躍したことで、タナトスとヘカテーが鬼童丸と宵闇ヤミに与えたクエストは達成された。


『新宿区にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、新宿区全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 クエストをクリアした時、鬼童丸はLv19で宵闇ヤミはLv18まで成長した。


 鬼童丸はもう少しで3体目のアンデッドモンスターも使役できるようになる。


 アンデッドモンスター達は、ドラミーとジェネラルライダーがLv6まで、キャストライダーがLv5まで、ツイングリムがLv11まで成長した。


 新宿区でできることがなくなってしまったため、キリも良いから宵闇ヤミは今日の配信を終えることにした。


「はい、ということで今日の配信はここまで。ヤミんちゅも一緒にUDSにしようね。おつやみ~」


 配信が終わったところで、宵闇ヤミは鬼童丸にお礼を言う。


「今日は本当にありがとう。たくさんツッコんだけどとっても楽しかった。またコラボしてほしいな」


「良いよ。会社員だからいつでもって訳にはいかないけど」


「うっ、会社…。働きたくないでござる。働きたくないでござる」


「うん、VTuberになった経緯は訊かないでおくよ。闇を感じるし」


「別に聞いてくれても良いんだよ? そして私を甘やかして」


「コラコラ。それじゃ、またね。そろそろ落ちるわ」


 鬼童丸は夕飯の用意やら明日の準備があるため、UDSをログアウトした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る