第9話 融合ってすげー

 翌日、久遠は午前中にやるべきことを済ませ、12時50分に鬼童丸としてUDSにログインした。


 昨日打ち合わせた際、宵闇ヤミとビジネスコミュニケーションアプリであるコネクトのIDを交換しており、宵闇ヤミからログインすると連絡が来たので自分もそれを受けてログインしたのである。


「鬼童丸さん、こんにちは」


「宵闇さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします」


 挨拶を簡単に済ませたら今日の流れを軽くおさらいし、カードの整理をしていたら配信開始時刻の13時になった。


「こんやみ~。昨日エゴサしたらデーモンズソフトさんがOHPで紹介してたことを知った悪魔系VTuber宵闇ヤミで~す。よろしくお願いいたしま~す」


 (そういえばそんなことになってたな)


 宵闇ヤミというコラボ相手について何も知らないままコラボするのは不味いから、鬼童丸は昨日ログアウトしてから宵闇ヤミについて多少調べた。


 本来の宵闇ヤミのLive2Dは悪魔系VTuberという通り、髪色は紫色のサイドテールで紫色の目で、背中から悪魔の翼を生やしており、服装は臍が見えた白い半袖シャツとダメージジーンズである。


「本日は昨日に引き続きUndead Dominion Storyをプレイし、新宿区でサブクエストに挑んでいきたいと思いま~す。さて、昨日配信が終わってから新宿区の主になった鬼童丸さんに突撃したところ、本日はヤミの配信に出て下さることになりました。ということで、鬼童丸さん、本日はよろしくお願いします」


「どうも、プレイ初日で<期待の新宿区長>になった鬼童丸です。よろしくお願いします」


 鬼童丸がVTuberらしく名乗りを上げた。


 これには常闇ヤミのリスナー、ヤミんちゅ達もコメント欄で驚いていた。


 鬼童丸がどんなキャラかわかっていなかったから、意外とノリが良くて驚いたのである。


「ヤミは本日の配信で鬼童丸さんに密着し、その強さについて学びます。もしも一緒に学びたい人がいたら、Yellに#鬼童丸塾で拡散をお願いします」


 鬼童丸については未知数なところが多く、ヤミんちゅの中には宵闇ヤミのためにUDSの掲示板もチェックしている者がいた。


 そのため、若中年層から政治家まで使うSNSのYellに#鬼童丸塾で投稿するだけでなく、UDSの掲示板に宵闇ヤミの配信のリンクを張り付けるヤミんちゅまで現れた。


「え? 接続者が500人を超えた? 嘘でしょ?」


 多少は接続者数が伸びると思っていたが、自己ベストの倍を軽く超える接続者数に思わず宵闇ヤミの素の声が出てしまう。


「接続者数が増えたんですか? おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます。オホン、では、改めて鬼童丸さん、本日やることを教えて下さい」


「わかりました。本日は新宿区にいるアンデッドモンスターを殲滅しに行きます。師匠からクエストを貰ったので、クエストをクリアして新宿を安全地帯にしようと思います」


「そんなことができちゃうんですね。ヤミも一緒に戦って勉強させていただきます」


 このクエストだが、昨日の打ち合わせ中にタナトスから鬼童丸に向けて出されたもので、安全地帯を都庁から新宿区全体に広げるために行う。


 その場に宵闇ヤミもいたから、ヘカテーがそこに現れて一緒にクエストに挑めと宵闇ヤミも共に挑むことになった。


 UDSにはパーティー機能はないが、フレンドと一緒にクエストに挑むことができるようだ。


 鬼童丸達はクエストを始め、マップカードに表示される反応を頼りに使用が解禁された都庁の駐車場の車に乗って新宿区に残るアンデッドモンスターを倒しに行く。


 30秒程移動したところで、初めてアンデッドモンスターの混成集団と遭遇するのだが、それは鬼童丸達にとって予想外な相手だった。


「グリムハウンドにゴブリンゾンビが乗ってますね。宵闇さん、あんなの見たことありますか?」


「初見です。ヤミんちゅも初めて見るそうです」


 宵闇ヤミの配信画面は鬼童丸から見えないから、宵闇ヤミはコメント欄に書かれたコメントの内容を口にして鬼童丸に伝える。


 画面が乱戦モードに切り替わったため、鬼童丸達はそれぞれのアンデッドモンスター達を召喚する。


召喚サモン:スパルトイナイト! 召喚サモン:マミー!」


召喚サモン:ブラックワイト! 召喚サモン:グリムハウンド!」


 (グリムライダーね。別々のアンデッドモンスターって扱いじゃないらしいな)


 表記がグリムハウンドとゴブリンゾンビに分かれておらず、グリムライダーだけになっていることから別種なのだろう。


 そうとわかれば後は倒すだけなので、鬼童丸達は接近して来るグリムライダーを迎撃するべく、それぞれ使役するアンデッドモンスター達に指示を出す。


「スパルトイナイトは【怪力打撃パワーストライク】! マミーは転んだ敵を利用して【怪力投擲パワスロー】!」


「ブラックワイトは【闇弾乱射ダークガトリング】! グリムハウンドは【潜影噛シャドウバイト】!」


 スパルトイナイトは自身に対して攻撃を仕掛けようとするグリムライダーに対し、竜牙棍を振って吹き飛ばす。


 それが後ろに続くグリムライダーにぶつかって転び、転んだグリムライダーをマミーが掴んでぶん投げ、マミーを取り囲むように走っているグリムライダーに命中させた。


 ストロングスタイルな戦闘法で敵をの数をガンガン削る鬼童丸に対し、宵闇ヤミのアンデッドモンスター達はブラックワイトの【闇弾乱射ダークガトリング】で弱らせたところを【潜影噛シャドウバイト】で着実に1体ずつ倒していった。


 グリムライダー1体を倒すのにかかる時間は鬼童丸の方が早かったものの、宵闇ヤミもちゃんと連携の取れた攻撃ができていた。


 敵集団が全滅したところで、システムメッセージが鬼童丸の耳に届く。


『鬼童丸がLv15からLv17まで成長しました』


『スパルトイナイトがLv10からLv14まで成長しました』


『マミーがLv10からLv14まで成長しました』


『マミーの【突撃正拳ブリッツストレート】が【怪力正拳パワーストレート】に上書きされました』


『グリムライダーのカードを10枚手に入れました』


『融合アンデッドのカードを手に入れたことで融合フュージョンが解禁されます』


 (融合アンデッドねぇ。期待しちゃっても良いのかな?)


 システムメッセージを聞き終えた鬼童丸は、メニュー画面を開いてモンスターカード一覧を開く。


 その結果、スパルトイナイトとマミーが融合フュージョンできることがわかった。


 それ以外にも融合フュージョン可能な組み合わせはあったけれど、まずは融合フュージョンボタンをタップしてスパルトイナイトとマミーを融合フュージョンさせる。


「えっ、ちょっ、鬼童丸さん!?」


 融合の説明もなくヤミんちゅを置き去りにして融合フュージョンを始める鬼童丸に対し、宵闇ヤミはちょっと待ってと言うがもう遅い。


 スパルトイナイトとマミーのカードが合体するエフェクトが発生し、融合アンデッドが誕生した。


『鬼童丸が日本サーバーで初めて融合アンデッドを獲得しました』


『鬼童丸が称号<研究者>を獲得しました』


 ワールドアナウンスが聞こえて自分の興味を優先してしまったことに気づき、鬼童丸はしまったという表情になって謝る。


「すみません。興味が湧いたのでやっちゃいました」


「あっはい。えっと、ヤミんちゅに説明すると先程の戦闘でヤミと鬼童丸さんは融合アンデッドを作れるようになりました。どうやら、融合アンデッドのカードを手に入れることで、融合フュージョンが解禁されるようです。鬼童丸さん、スパルトイナイトとマミーのカードが合体したとお見受けしますが、どんな融合アンデッドになったか教えてもらえますか?」


「構いませんよ。召喚サモン:ドラミー」


 鬼童丸が新たに召喚した融合アンデッドはドラミーであり、全身包帯に覆われた翼のあるリザードマンだった。


 その能力値が気になり、鬼童丸はドラミーのステータスを確認し始める。



-----------------------------------------

種族:ドラミー Lv:1/50

-----------------------------------------

HP:500/500 MP:450/500

STR:550(+20) VIT:500

DEX:500 AGI:500

INT:550(+20) LUK:500

-----------------------------------------

アビリティ:【闇砲弾ダークシェル】【剛力打撃メガトンストライク

      【影棘シャドウソーン】【闇回復ダークヒール

装備:堅竜牙棍

備考:なし

-----------------------------------------



 (融合フュージョンってすげー)


 ドラミーの強化度合いを知り、鬼童丸は表情にこそ出さないが心の中でぽかんと口を開けてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る