第4話 何故わからん! 俺様のようなネクロマンサーが上に立たねば仲良しごっこのまま滅びを迎えるということを!

 苛立ったクロウは頭に血が上っている。


「何やってんだマミー! 骸骨なんてぶっ壊せ! 【突撃正拳ブリッツストレート】だ!」


 マミーの【突撃正拳ブリッツストレート】が命中し、スパルトイメイジの体が吹き飛ばされる。


 (わかってたけどボスは強いな)


 吹き飛ばされたスパルトイメイジのHPは半分近くまで減ってしまったが、鬼童丸はこの場において攻撃こそ最大の防御だと判断する。


「スパルトイメイジ、【闇矢ダークアロー】を放て」


 その指示によってスパルトイメイジが【闇矢ダークアロー】を放てば、マミーの残りHPが半分まで減った。


 マミーの残りHPを見て少しだけ冷静になり、クロウはただ殴るだけの戦法を止める。


「チッ、俺様としたことがカッとなっちまったぜ。マミー、【拘束包帯ホールドバンテージ】だ」


 拘束された状態で【突撃正拳ブリッツストレート】を受けたら不味いから、鬼童丸つ次のターンに攻撃を受けることを覚悟してポーションを使ってスパルトイメイジのHPを全快させる。


「回復しただって無駄なんだよ! もう一度【突撃正拳ブリッツストレート】だ!」


 至近距離からマミーが一撃をかましたところ、【拘束包帯ホールドバンテージ】による密着のせいで綺麗なフォームで攻撃できなかったようで、至近距離からの攻撃でスパルトイメイジのHPを5分の2削った。


「このまま削るぞ。スパルトイメイジ、【闇矢ダークアロー】だ」


 密着した状態で【闇矢ダークアロー】を撃たれ、マミーは次に【闇矢ダークアロー】を撃たれたら倒されてしまうところまでダメージを追った。


 アンデッドモンスターゆえに痛覚なんてないが、【闇矢ダークアロー】によってスパルトイメイジを拘束していた包帯が千切れ、スパルトイメイジは拘束から解放された。


 これにはクロウも追い込まれたと思ったのか、ポーションを使ってマミーのHPを全快させるとともに鬼童丸に訴える。


「何故わからん! 俺様のようなネクロマンサーが上に立たねば仲良しごっこのまま滅びを迎えるということを!」


「知らねえよ。スパルトイメイジ、【闇矢ダークアロー】」


 どうでも良いと言わんばかりのジト目になった鬼童丸は、スパルトイメイジに淡々と攻撃の指示を出す。


 その時、【闇矢ダークアロー】がクリティカルヒットしてバランスを崩して転び、マミーはダウン状態になった。


 鬼童丸の視界に追撃のボタンが表示されたため、そのボタンをタップしてスパルトイメイジにマミーを追撃させる。


 マミーに馬乗りになったスパルトイメイジがスカルメイスで何度も殴りつけ、マミーの残り体力はあと僅かと言うところまで削られた。


「おのれぇ! マミー、【怪力投擲パワースロー】だぁぁぁ!」


 クロウは手持ちにポーションがないらしく、マミーに足元の瓦礫を渾身の力で投げさせた。


 しかし、ここでスパルトイメイジのLUKが仕事をしたのか、マミーの投げた瓦礫はスパルトイメイジに当たらなかった。


「ノーコン乙。スパルトイメイジ、【打撃ストライク】だ」


 敵が攻撃を外したチャンスで自分も外してしまっては笑えないから、鬼童丸は近接攻撃で確実に仕留めるべく【打撃ストライク】を選択してスパルトイメイジにとどめを刺させた。


『鬼童丸がLv10に到達しました』


『鬼童丸が使役できるアンデッドモンスターが2体になりました』


『鬼童丸が称号<新宿の主>を獲得しました』


『鬼童丸の称号<期待の新人>と称号<新宿の主>が称号<期待の新宿区長>に統合されました』


『スパルトイメイジがLv15からLv20(MAX)まで成長しました』


『スパルトイメイジがネクロマンサーの使用するモンスターを物理攻撃アビリティで倒してレベル上限に達したため、スパルトイメイジがスパルトイナイトに特殊進化しました』


『スパルトイナイトの【闇矢ダークアロー】が【闇槍ダークスピア】に上書きされました』


『スパルトイナイトの【打撃ストライク】が【怪力打撃パワーストライク】に上書きされました』


『スパルトイナイトが【闇回復ダークヒール】を会得しました』


『マミーのカードを1枚手に入れました』


 (怒涛のメッセージラッシュが来た)


 戦闘モードからストーリーモードに画面が切り替わり、鬼童丸が視界に表示されるメッセージを見返したその時、空からタナトスが現れてクロウを亜空間から飛び出した骨の鎖で拘束した。


「鬼童丸、よくやったな。これほど早くこの愚か者を倒したことは賞賛に値する」


「良い経験になったよ。クロウとの戦闘のおかげで、スパルトイメイジがまた特殊進化したし」


「ふむ。私からすればただの愚か者だが、弟子の踏み台になったのならばゴミではなく空きペットボトルぐらいの価値はあるのだろう。とはいっても、こいつはもう終わりだがな」


「え?」


 どういうことだろうと鬼童丸が首を傾げた時、ギギギと音を立てて鬼童丸達の前に真っ黒で重厚な門が現れる。


 それだけに留まらず、その門が開くといくつもの死霊が現れてタナトスが拘束していたクロウを門の中に連れ去る。


「嫌だぁ! 死にたくねえ! 助けてくれぇぇぇ!」


 クロウの悲鳴は門が閉じたことで聞こえなくなり、そのまま門が消えた。


 何が起こっているかさっぱりわからないから、鬼童丸はタナトスに訊ねる。


「何が起きたか説明してもらっても良いか?」


「ネクロマンサーの存在理由は説明したな」


「アンデッドモンスターから人間の生活圏を奪還することだろ?」


「そうだ。私達ネクロマンサーは、アンデッドモンスターという生命の禁忌に触れる存在を使役できる代わりに制約を守らなければならない。その制約とは、アンデッドモンスターを使って人類に不利益を齎してはならないというものだ。あの愚か者は制約を破ったから、地獄門を通って地獄に連行された」


 (地獄なんて要素もあった訳か。まあ、アンデッドモンスターが絡めばあり得るわな)


 タナトスの説明を聞き、鬼童丸はなるほどと頷いた。


 ところが、納得したものの新たに疑問を抱いたのでそれをタナトスにぶつけてみる。


「タナトス、それならなんで新宿を占領したタイミングでクロウは地獄に連行されなかったんだ? いつでも連行できるなら、悪事を働いた瞬間に連行すれば被害は出ないじゃないか」


「それが理想なのは間違いないが、何事もそう都合良く進まないのだ。ネクロマンサーに力があれば、先程の死霊も使役するアンデッドモンスターで撃退してしまうだろう。だから、悪事を働いたネクロマンサーが無力化された時に地獄門は出現する」


「地獄に強いお迎えはいないのか?」


「いない訳ではないらしいが、地獄も一枚岩ではないのでな。人類に手を貸す勢力だけでなく、地球が滅びるも滅びないも流れに任せろと主張する勢力もいれば、率先して地球を滅ぼそうとする勢力もいる。だからこそ、迂闊に戦力を地球に派遣できないのだよ」


「うわぁ。地獄も地球も争いは絶えないねぇ」


 鬼童丸が呆れたと言わんばかりの態度で言えば、タナトスも苦笑するしかなかった。


 タナトスとしても鬼童丸と同じ感想を抱いているのだろう。


「まあ、ということだから鬼童丸は決して悪事を働いてくれるなよ。過ちを犯した弟子を倒して地獄に送るのは師匠の義務だからな。私にそんなことをさせないでほしい」


「俺だって地獄なんか行きたくないから、そんなことはやらんて。ところで、<期待の新宿区長>って称号って持ってると何か良いことある? クロウを倒した時に手に入ったんだけど」


「新宿区にいる間、使役するアンデッドモンスターの経験値が通常時の1.2倍になる。そうだ、鬼童丸にこれを渡していなかったな」


 話をしていて思い出したらしく、タナトスはカードを鬼童丸に投げ渡した。


『鬼童丸はマップカードを手に入れた』


 マップカードとは、読んで字の如くプレイヤーのいる場所や周辺の地図がわかるアイテムだ。


 これがあればどこまでが新宿かわかるから、経験値稼ぎに持って来いと言えよう。


「ありがとう。ちなみに、タナトスはどんな称号を持ってるんだ?」


「ん? 私か? 私の称号は<流浪の隠者>だ。拠点を持てない代わりに使役するアンデッドモンスターが強く育つ」


「何それ羨ましい。新宿限定で経験値が多く貯まるよりずっと良いじゃん」


「拠点があった方が良いと思うがね。今の鬼童丸は新宿が拠点だ。都庁に行くと良い。きっと鬼童丸にとってメリットがあるはずだ」


「わかった。次の目的地は都庁にする」


 タナトスによって新しい目的地が示されたため、鬼童丸は素直に都庁を目指すことにした。


 先程は指示通りに動いた結果、クロウを倒して自分もスパルトイナイトも強くなれたから今回も従うことにしたのだ。


「よろしい。そうだ、不要なモンスターカードがあれば何かと交換しても良いぞ」


 そのようにタナトスが言った瞬間、鬼童丸の視界に新たなシステムウィンドウが開かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る