第3話 スケルトンにしがみつく者どもよ、新たなゾンビを前に己の脆弱さを思い知るが良い

 タナトスと別れた鬼童丸は、タナトスに言われた通り道を真っ直ぐに進む。


 ゴーストタウンのど真ん中にいる訳だが、鬼童丸は周囲の景色を見て見覚えがあった。


「てか、普通に新宿だよね。UDSの再現度高いわ」


 Undead Dominion Storyとタイトル全部を読むのは長い。


 それが理由で鬼童丸はUDSと省略して読んでいるのはさておき、彼の呟きに答える者はいない。


 オープニングムービーを見ていた時にも思ったが、ポストアポカリプステイストなこのゲームは舞台がアンデッドモンスターによって荒廃した日本だということが目にする建物でわかる。


 見慣れた道路を歩いていると、前方にゾンビ5体を発見して手前のゾンビに近づくと画面が戦闘モードに切り替わる。


召喚サモン:スパルトイメイジ」


 スパルトイメイジを召喚した鬼童丸は、MPを温存するべくアビリティにMPを必要としない【打撃ストライク】で攻撃を指示する。


 ゾンビ達は空も飛ばずAGIも低いから、【打撃ストライク】で倒せるならその方が良い。


 5体を順番に倒したところで、本来ならば画面が戦闘モードから切り替わるはずだったのだが、後続の敵が近づいて来ていたらしく追加で5体のゾンビが現れた。


「運が良いんだか悪いんだか。スパルトイメイジ、【打撃ストライク】で片っ端から倒していけ」


 鬼童丸の指示に従い、スパルトイメイジはゾンビを1体ずつ殴って倒していく。


 今度こそ戦闘が終わったと思ったら、鬼童丸の耳にシステムメッセージが届く。


『鬼童丸がLv5からLv7まで成長しました』


『スパルトイメイジがLv5からLv7まで成長しました』


『スパルトイメイジが【骨壁スカルウォール】を会得しました』


『ゾンビのカードを10枚手に入れました』


 システムメッセージが鳴り止んだ後、鬼童丸はメニュー画面からカードホルダーを確認する。


 カードホルダーはモンスターカードとアイテムの項目に分けられており、モンスターカードの項目を詳しく見ればゾンビのカードは倒したゾンビの数だけストックされている。


 使役できる枠には制限があるため、余ったモンスターカードは交換したり売却したりするのが主な使い道だ。


 ゾンビは雑魚モブアンデッドモンスターの中でも序盤から出て来るのだが、基本的にただのゾンビはAGIに加えてVITも低いから経験値稼ぎの相手という意味合いが強い。


 続いてスパルトイメイジのステータスを開き、【骨壁スカルウォール】について調べてみる。


 【骨壁スカルウォール】は発動したモンスターのVITの半分の数値の骨の壁を創り出し、それが敵の攻撃の身代わりになってくれる。


 無論、骨の壁のVITを上回るダメージを与えれば、そのダメージが発動したモンスターのVITを上回ることで与えられる。


 つまり、骨の壁のエフェクトがあるだけで発動したモンスターのVITが1.5倍になるようなものだ。


 移動を再開して前進していくと、鬼童丸は右側の建物が崩れて瓦礫の山ができているのを見つける。


 (何かあるかもしれないな。この量なら手で退かそう)


 VRMMOゆえに物を自由に掴めるので、自力で瓦礫を退かして山の中に何かないか確認してみた。


 その結果、建物の崩落に巻き込まれて死んだらしいネクロマンサーが見つかった。


 (NPCの死体はオブジェクト判定か。何か持ってたりしないだろうか?)


 UDSの世界観を考えてみれば、NPCのネクロマンサーの死体から使える者を頂戴するのは当然のことなので、鬼童丸は躊躇いなく物色する。


 メタいことを言うのであれば、意味もなく瓦礫の山なんて用意しないし、チュートリアルを終えてもアイテムがポーション5つしかない以上、NPCの死体を物色して手に入るアイテムはそこまで考えられたプレイヤーに対するボーナスだと考えられる。


 結局、鬼童丸はNPCの死体からMPポーションのアイテムカードを3枚手に入れた。


 それからも周囲を注意深く観察しつつ、鬼童丸はゾンビを蹴散らしながら目的地を目指して進んで行く。


 確保したゾンビのカードが100枚になった時、鬼童丸はLv8でスパルトイメイジはLv13まで成長したが、そんな鬼童丸の前に通常のゾンビよりもマッシブで一回り体の大きなゾンビが現れた。


 画面が戦闘モードに変わって敵の名前が視界に映ると、鬼童丸はすぐにスパルトイメイジを召喚する。


「ゾンビパワード。ゾンビが進化した個体っぽいな。召喚サモン:スパルトイメイジ」


 ゾンビパワードはLv1だが、ゾンビLv1が50体いるのと能力値の合計は同じだった。


 STRは高くてもAGIは大して高くないから、スパルトイメイジがAGIで負けることはない。


 (当たらなければどうということはない)


 そんなことを考えつつ、鬼童丸はスパルトイメイジに指示を出す。


「スパルトイメイジ、【闇弾ダークバレット】」


 INT依存の【闇弾ダークバレット】の方が、STR【打撃ストライク】よりも与えられるダメージは多い。


 そう判断してMPを温存せず、スパルトイメイジに【闇弾ダークバレット】で攻撃するよう指示したのは正解だった。


 【闇弾ダークバレット】を使ってなお、ゾンビパワードのHPを削り切るのはギリギリだったからだ。


『鬼童丸がLv9に成長しました』


『スパルトイメイジがLv13からLv15まで成長しました』


『スパルトイメイジの【闇弾ダークバレット】が【闇矢ダークアロー】に上書きされました』


『ゾンビパワードのカードを1枚手に入れました』


 ゾンビパワードなら今の新宿区でも戦力になり得るから、鬼童丸がレベルをあと1上げれば使おうかと思っていたその時、鬼童丸の前にモヒカンのチンピラが現れた。


 鬼童丸と同様にネクロマンサーらしい黒いローブを着ているのだが、モヒカンの主張が激しくてネクロマンサーとは思いにくい。


「おうおうおうおう! このクロウ様の縄張りで好き勝手やってる奴はてめえか!?」


 (目的地に着いてないのに敵が向こうからやって来た? レベル上げ制限ってこと?)


 デーモンズソフトの過去の作品において、鬼童丸はがっつりレベル上げをしてから挑もうとしたらペナルティキャラに襲われたことを思い出した。


 つまり、これ以上この場で鍛えてしまうとこの後が少しつまらなくなるから、ゲーム側が無理矢理ボス戦をプレイヤーにぶつける仕組みにになっているらしい。


 モヒカンのネクロマンサーが現れたことにより、画面が戦闘モードに切り替わる。


「俺様の邪魔をする奴はぶっ潰す! 召喚サモン:マミー!」


「予想してたけどやっぱゾンビ系列か。召喚サモン:スパルトイメイジ」


 マミーが召喚されたことで、鬼童丸はマミーのステータスを確認できるようになった。



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種族:マミー Lv:1/30

-----------------------------------------

HP:200/200 MP:150/150

STR:200 VIT:150

DEX:150 AGI:200

INT:100 LUK:100

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アビリティ:【突撃正拳ブリッツストレート】【拘束包帯ホールドバンテージ

      【怪力投擲パワースロー】【包帯槍バンテージスピア

装備:なし

備考:なし

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「スケルトンにしがみつく者どもよ、新たなゾンビを前に己の脆弱さを思い知るが良い。マミー、【拘束包帯ホールドバンテージ】」


 マミーはボスであるクロウが使役するモンスターということで、ゾンビパワードよりも強い。


 【拘束包帯ホールドバンテージ】は持続性のある拘束系のアビリティであり、密着しているため自分のアビリティが必中になる。


「密着すんじゃない。スパルトイメイジ、【骨壁ボーンウォール】」


 クロウの攻撃を次から躱せなくなるとわかれば、鬼童丸は壁を用意してHPが少しでも削られないようにする。


 包帯を使ってスパルトイメイジに密着していたマミーだが、自分とスパルトイメイジの間に骨の壁が現れたことで拘束できなくなった。


 これにはクロウもイライラした感情を隠さない。


「小賢しい! マミー、【包帯槍バンテージスピア】だ!」


 マミーが包帯の形状を槍のように変化させて攻撃すると、骨の壁はバラバラに砕け散った。


 しかし、骨の壁を破壊した余剰分のSTRしか貫通しないから、スパルトイメイジにダメージは与えられなかった。


「効かねえよ。スパルトイメイジ、【闇矢ダークアロー】だ」


 鬼童丸の指示により、スパルトイメイジが【闇矢ダークアロー】を放つ。


 マミーにダメージが入ったが、それがこのボス戦で初めてのダメージだったので、クロウは思い通りにならず余計に苛立った。

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