第2話 運も実力の内だが慢心しないのは良いことだ

 次に鬼童丸が質問するのは、アンデッドモンスターについてだ。


「アンデッドモンスターについて知りたい。ネクロマンサーの俺達は何体のモンスターを使役できる?」


「最大10体まで使役できる。ネクロマンサーレベルが10上がるごとに、使役できるアンデッドモンスターが1体増える。したがって、鬼童丸のレベルが1の今はアンデッドモンスターを1体しか使役できない」


「それだと倒したモンスターなんてあっという間に使役制限を超えてしまうよな。使役したいアンデッドモンスターがいたとして、既に使役制限を超えてたら使えないってことか?」


「その通りだ。だが、ネクロマンサーとして成長していけばそれを解決できる方法もある」


「その方法は?」


「悪いが教えられない。なんでもかんでも教えたら、鬼童丸の成長する機会を奪うことになるのでな」


 (隠し要素があるとわかっただけ上等だな)


 言わばチュートリアルを受けている今、全部教えてしまうとゲームの面白みが減るというメタ的な理由で納得し、今は隠し要素があると想定して動く必要があると判断した。


「わかった。次の質問だけど、ネクロマンサーとして目指すべきものはあるのか?」


「ネクロマンサーの存在理由はアンデッドモンスターから人間の生活圏を奪還することだ。だが、その存在理由を歪めて解釈したネクロマンサー達が取り戻した領土を占有して横暴に振舞ってると聞く。そいつ等は見つけたら倒せ。アンデッドモンスターよりも醜悪だ」


 (ネクロマンサーにも色々あるってことか。了解)


 鬼童丸は頭の中でUndead Dominion Storyの主な遊び方を整理した。


 1つ目は野生のアンデッドモンスターを倒し、人間の領土を取り戻していくこと。


 2つ目は力に溺れたネクロマンサーを倒すこと。


 3つ目は自分だけの最強アンデッド軍団を作ること。


「わかった。ついでに訊くけど、ネクロマンサー同士ってパーティーを組める?」


「ネクロマンサー同士は基本的に群れない。頼れるのは自分の従えたアンデッドモンスターだけだし、競い合うのがネクロマンサーだからな。ただし、強大な敵と戦う時や何か単独ではなし得ないことをする時には共に行動することもあるだろう。そういう時のために、ネクロマンサー同士はお互いの許可があれば連絡を取り合えるようになっている」


「そうか。ちなみに、俺はタナトスさんとも連絡を取り合えるようになるのか?」


「基本は別行動だが、師弟関係にあるネクロマンサーは連絡を取り合える。鬼童丸はまだひよっこだからな。わからないことがあれば訊けば良い。他の新人達もそうするだろうしな」


 (サポートAIは師匠って設定だったのか。となると、プレイヤーごとに師匠がいることになるよな?)


 鬼童丸はデーモンズソフトが作風を維持するため、そこまで作り込んでいると知って驚いた。


 まさかゲームスタート時のサポートAIがプレイヤー1人につき1人いるとは思っていなかったが、それは嬉しい誤算だったのでありがたく頼らせてもらえば良いだろう。


「そうさせてもらう。質問は以上だ」


「ならば、最後に模擬戦を行おう。戦い方も知らずに荒廃した世界を歩かせる訳にはいかないからな」


 タナトスがそう言った瞬間、画面が切り替わって鬼童丸とタナトスとの戦闘が始まる。


召喚サモン:トーチホーク」


 体内に紫色の炎を灯す骨になった鷹を召喚したタナトスは、こうやってアンデッドモンスターを召喚するんだと鬼童丸に実践してみせた。


 その直後に鬼童丸の視界に召喚サモンのボタンが表示された。


 それをタップしたことで選択肢が表示されるが、今の鬼童丸にはスパルトイメイジしかいないからスパルトイメイジを召喚する。


召喚サモン:スパルトイメイジ」


「よろしい。無事にアンデッドモンスターを召喚できたな。次はアビリティだ。アンデッドモンスターにはそれぞれ使えるアビリティが存在する。アンデッドモンスターを戦わせるにあたって、スキルを上手く活用しろ」


 タナトスの説明を受け、鬼童丸はスパルトイメイジのアビリティを確認する。


 Lv1のスパルトイメイジが使えるアビリティは2つあり、【闇弾ダークバレット】と【打撃ストライク】だ。


 【闇弾ダークバレット】は闇属性の弾丸を放つアビリティで、離れた敵や飛んでいる敵に攻撃できる手段として有用だ。


 【打撃ストライク】は無属性の物理攻撃アビリティで、殴れる武器を持ったアンデッドモンスターしか使えない。


 スパルトイメイジはスカルメイスを装備しているので、【打撃ストライク】を使える判定のようだ。


 (スパルトイメイジは殴りマジって訳だ。相棒として優秀だな)


 序盤はとにかくレベルアップが急務なので、攻撃ができるアビリティを持ったアンデッドモンスターの存在はありがたい。


 鬼童丸はスパルトイメイジのアビリティを見てホッとした。


「スパルトイメイジ、【闇弾ダークバレット】だ」


 トーチホークは飛んでいるから、今のままだと【打撃ストライク】は当たらない。


 そう判断した鬼童丸は【闇弾ダークバレット】で攻撃せよとスパルトイメイジに命令した。


 【闇弾ダークバレット】 によってトーチホークは被弾し、HPが4分の1程削れた。


「新人がトーチホークのHPを一撃でここまで削るとは大したものだ。次は私の番だな。トーチホーク、【火炎乱射フレイムガトリング】」


 火弾が乱射され、それがスパルトイメイジに連続して命中する。


 その結果、スパルトイメイジのHPが一気に半分まで削れてしまう。


 (マジか。次に攻撃を喰らったら終わるんだが)


 これ以上攻撃を喰らうのは不味いと思ったが、アイテムを何も持っていない今、鬼童丸はスパルトイメイジにアビリティで攻撃させる以外の選択肢はない。


 【闇弾ダークバレット】をコマンド入力したら、今度はトーチホークが先に攻撃を仕掛けて来る。


「トーチホーク、【迅速降下ラピッドダイヴ】」


 (嘘じゃん…)


 先制攻撃アビリティである【迅速降下ラピッドダイヴ】を使われたが、スパルトイメイジのHPは10分の1だけ残った。


 【火炎乱射フレイムガトリング】に比べて【迅速降下ラピッドダイヴ】の方が与えるダメージは低いようだ。


「スパルトイメイジ、【闇弾ダークバレット】」


 スパルトイメイジが放った【闇弾ダークバレット】はトーチホークの翼に命中し、トーチホークはバランスを崩して地面に墜落してダウン状態になった。


 その瞬間、鬼童丸の視界にはスキルとは別に追撃のボタンが表示された。


 このタイミングで現れた以上、追撃するしかないと判断した鬼童丸は追撃のボタンをタップした。


 追撃の命令を受け、スパルトイメイジは墜落して倒れているトーチホークに接近し、スカルメイスを振り下ろして殴る。


 トーチホークのHPが1まで削られた瞬間、鬼童丸の耳にシステムメッセージが届く。


『鬼童丸が模擬戦に勝利しました』


『鬼童丸がLv1からLv5まで成長しました』


『鬼童丸が称号<期待の新人>を獲得しました』


『スパルトイメイジがLv1からLv5まで成長しました』


 システムメッセージが鳴り止んでから、画面が戦闘モードからストーリーモードに切り替わる。


「鬼童丸、其方は私の予想を上回る成果を挙げた」


「そりゃ良かった。でも、あれはまぐれだろ。偶然トーチホークがダウンしたから倒せただけだ」


「運も実力の内だが慢心しないのは良いことだ。このまま精進すると良い。さて、そろそろ出発の時間だ。まずはこの道を真っ直ぐ進め。大して強くもないくせに、偶然の勝利で天狗になった挙句横暴に振舞うネクロマンサーがいる。そいつを倒すんだ」


 それだけ言うと、タナトスは懐からアイテムカードを取り出してトーチホークのHPを回復させ、鬼童丸にもそのアイテムカードを渡してトーチホークに乗ってこの場を去って行った。


 (ポーションか。HPが全体の4分の1回復するのはありがたいな)


 ポーションのカードは6枚渡されており、鬼童丸はその内1枚を使ってスパルトイメイジのHPを回復させた。


 それから、チュートリアル中は閲覧できなかったスパルトイメイジのステータスを確認し始める。



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種族:スパルトイメイジ Lv:5/20

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HP:50/50 MP:40/50

STR:50(+5) VIT:40

DEX:55 AGI:50

INT:60 LUK:45

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アビリティ:【闇弾ダークバレット】【打撃ストライク

装備:スカルメイス

備考:なし

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 HPはHit Point(ヒットポイント)で体力を意味し、アイテムで回復する。


 MPはMagic Point(マジックポイント)で魔力を意味し、アイテムか時間経過で回復する。


 STRはStrength(ストレングス)で力を意味し、攻撃力と置き換えられる。


 VITはVitality(バイタリティ)で生命力を意味し、防御力と置き換えられる。


 DEXはDexterity(デクステリティ)で器用さを意味する。


 AGIはAgility(アジリティ)で敏捷性を意味し、素早さと置き換えられる。


 INTはIntelligence(インテリジェンス)で知力を意味する。


 LUKはLuck(ラック)で運を意味する。


 各種能力値について、鬼童丸がスパルトイメイジのステータスを確認して理解できた。


 (倒すべきネクロマンサーがどれだけ強いかわからんけど、レベルアップは急務だな)


 このままでは駄目だと判断し、鬼童丸は道中でできるだけアンデッドモンスターと戦うことを決めた。

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