Undead Dominion Story

モノクロ

第1章 New Game

第1話 王道のゲームって食傷気味なんだよな

 大衆受けの良いゲームと人を選ぶゲームがあった時、どっちを選ぶか。


 この質問を突き付けられた時、鬼灯久遠ほおずきくおんは後者を選ぶ。


 会社から寄り道せずに帰り、オンラインゲームショップで久遠は大衆受けが良く誰でも楽しめる王道のゲームとやる人を選びそうなニッチなゲームに絞り込んだ。


 どちらも今日ダウンロードできて明日サービス開始のVRMMOの新作ということで、久遠の目に留まったのだ。


 明日は土曜日なので、土日の2日間はがっつりゲームをするつもりだから、今の自分にとっての正解を選びたいのだ。


 (王道のゲームって食傷気味なんだよな)


 久遠はゲーム好きであり、プライベートな時間の大半をゲームに費やしている。


 決して王道のゲームが嫌いな訳ではないけれど、王道のゲームばかりやって来ると飽きてしまう。


 それもあって久遠の興味はニッチな方のゲームに傾きかけている。


 (Undead Dominion Storyはアンデッドモンスターを召喚して戦うゲームか。でも、テイム系とは違う? へぇ…)


 Undead Dominion Storyはプレイヤーがネクロマンサーになり、ポストアポカリプスの時代で戦う陣取りゲームだが、アンデッドモンスターやアイテムは全てカードで管理され、戦闘はカードからアンデッドモンスターを召喚するというスタイルだ。


 今までプレイして来たゲームとは一味違うスメルがムンムンしたため、久遠はUndead Dominion Storyを制作した会社は何処なのかパッケージを見て確認する。


 (デーモンズソフトが作ってるのか。それは期待できるかも)


 デーモンズソフトというゲーム会社だが、その社長が超人気ゲーム会社のフォールンゲームズ出身であり、大衆向けのフォールンゲームズからニッチな領域の開拓のためにフォールンゲームズを辞めたという話だ。


 確たる信念があったおかげで、デーモンズソフトのゲームは人を選ぶけどプレイする人は悪魔的にドハマりするから高評価が寄せられる。


 久遠もその話は知っていたし、過去にデーモンズソフトのゲームソフトをプレイしたこともあるから、Undead Dominion Storyを購入することに決めた。


 大衆受けの良いゲームは買わず、オンラインレジでUndead Dominion Storyを購入した久遠はすっきりした気分でUndead Dominion Storyをダウンロードする。


 翌日にゲーム機の電源を入れたら、オープニングムービーが流れ出す。


 早くゲームを始めたいけれど、デーモンズソフトは変なところで拘りが強く、オープニングムービーにゲームのヒントを残しているケースがある。


 少なくとも、久遠が前にプレイしたソフトではゲーム中に見落としなんてなかったはずなのに、どうしても先に進めないことがあった。


 その原因を調べた結果、オープニングムービーの中に隠されたヒントを見つけないとわからないことがわかり、あの時はしてやられたと思ったものだ。


 アンデッドモンスターを召喚したネクロマンサー同士がバトルを行い、勝負の報酬としてアイテムカードや陣地が増えていく。


 野生のアンデッドモンスターと遭遇し、戦って倒すことでそのアンデッドモンスターがカードになってその場に残ることや新たに召喚できるようになることもわかった。


 それ以外にもいくつかの情報をゲットした後、久遠は最初から目の前に表示されていたゲームスタートのシステムウインドウをタップした。


 ゲームが始まった瞬間、アバターの設定を行ってすぐに久遠の周囲の風景が光に包まれて代わり、ゴーストタウンのど真ん中に移動した。


 更にいつの間にかフードを目深にかぶった黒ローブの人物が現れた。


「新人ネクロマンサーが来たか。其方の名前はなんだ?」


「鬼童丸」


 プレイヤー名を問われ、久遠はアバター設定をした時に決めた名前を黒ローブの人物に告げた。


 鬼童丸というプレイヤー名は、幼少期の頃から久遠がプレイするゲームで必ず使うものだ。


 鬼灯という苗字から鬼を連想し、鬼でなんとなく知っている鬼童丸を初めてプレイしたゲームで使ったのがきっかけである。


「鬼童丸か。承知した。私はタナトス。新人を導くことを生業とするネクロマンサーだ。鬼童丸、其方の方向性を知るためにこれからいくつか質問する。好きに答えよ」


「わかった」


「今から見える絵は次の4択の内どれに見える? 直感で答えよ」


 タナトスがそう言った次の瞬間、鬼童丸の目の前に解釈で違う見方のできそうなイラストが出現した。


 それと併せて、イラストの下に①スツール②歯③タンクトップ④巨大な門という選択肢が現れた。


 (スツールって何? 歯にしてはカクカクしてるし、タンクトップってあぁ、逆さまにしてるのか。直感に従えば④に見えたかな)


「④だ」


「よろしい。2問目に移るぞ。椅子に座っている女性は次の4択の内どれに見える? 直感で答えよ」


 1問目のイラストと選択肢が消え、それと入れ替わるようにして足を組んで座る女性のシルエットが現れた。


 その下に①美容院で待たされている②インタビューを受けている③部下の連絡を待っている④子供達の様子を見守っているという選択肢が表示された。


 (③かな。②のシルエット通りにインタビューを受けてたら生意気だし、①と④って感じもしなかった)


「③だ」


「ふむ。3問目だ。其方は使っていた傘が壊れて新しい傘を買うことにした。何色の傘を買うか次の4択から直感で答えよ」


 イラストと説明が切り替わり、①のイラストと説明から順番に白系、黄色系、茶色系、ピンク系だった。


 (白はビニール傘っぽくてすぐ汚れそう。黄色とピンクは目立ち過ぎる。茶色が一番マシだな)


「③の茶色系」


「そうか。次が最後の問題だ。翼を広げた白い鳥の絵があるとして、1ヶ所だけ赤く塗るなら何処を塗るか次の4択から直感で答えよ」


 4つの傘と入れ替わるようにして、白い鳥が翼を広げたイラストが現れた。


 鳥の下には選択肢として、①頭の一部②羽の一部③胴の一部④尾の一部と表示された。


 (色塗りは頭から塗りがちな気がする)


「①だな」


「なるほど。其方の人間性がわかって来た。それでは、其方に相応しいアンデッドモンスターを先輩としてプレゼントしよう」


 タナトスの表情は読めないが、鬼童丸は1枚のカードを投げ渡された。


『鬼童丸はスケルトンメイジを手に入れました』


 システムメッセージが静かになった瞬間、鬼童丸が受け取ったスケルトンメイジのカードが光を放つ。


『鬼童丸はオープニングムービーにて竜牙石を目視確認したため、スケルトンメイジがスパルトイメイジに特殊進化しました』


 (スパルトイメイジ? 特殊進化? あの変な石を見つけたおかげか)


 スケルトンが骸骨兵士だとすれば、スケルトンメイジは骸骨魔術士だ。


 それがいきなりスパルトイメイジに特殊進化したのだから、オープニングムービーを注意深く見ておいて良かったと鬼童丸が思うのも無理もない。


「おめでとう。鬼童丸はネクロマンサーとして幸先の良いスタートを切れたらしいな」


「タナトスさん、質問しても良い?」


「なんだ?」


「特殊進化って何?」


 調べればわかることかもしれないが、ゲームを始める時のサポートAIに質問してどれぐらい答えてもらえるか気になったため、鬼童丸は特殊進化について質問してみた。


 もしかしたら、ただ調べるだけじゃ駄目でNPCやサポートAIとの接触によって条件を満たすケースがないとも言えない。


 そう考えれば、鬼童丸がタナトスに質問したのは賢い選択と言えよう。


「読んで字の如く通常の進化とは異なる特殊な進化だ。通常進化ならば、モンスターのレベルが上限に到達した時に進化する。特殊進化の場合は種族ごとの個別の条件を満たした時に起きる進化だ。今回、スケルトンメイジがスパルトイメイジに特殊進化したのは、鬼童丸がスパルトイの存在を知っており、鬼童丸のスケルトンメイジを構成する骨に竜の牙と同じ成分が含まれていたからだ」


 (アンデッドモンスターを特殊進化させるには、重要なアイテムを取り込ませるのも必要らしいな)


 竜の牙なんていかにもレアな響きのアイテムの存在が確認できたから、鬼童丸は特殊進化について理解を深められた。


 それに加え、プレイヤーがサポートAIからネクロマンサーになった選別として貰うアンデッドモンスターには、何かしらの秘密が眠っているだろうこともわかった。


 これだけでも十分収穫である。


「なるほど、わかった。質問に答えてくれてありがとう」


「構わんよ。これも新人を導く務めに含まれるのでな。その他に質問しておきたいことはないか?」


 ここで質問はもうないと答えたなら、すぐにこのゴーストタウンに放り出されるのではないかと考え、鬼童丸は今の内に訊いておきたいことを訊くことにした。

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