親友

百人前

親友

 今日はとても気持ちの良い、ピクニックにぴったりの日だ。わたしは久しぶりのお出かけにとてもわくわくしていた。桜の花弁が風に舞い、太陽は燦燦と輝いて、わたしたちの味方をしてくれているように感じる。本当に綺麗な日だとつくづく思った。


 わたしは大親友のえまちゃんと公園に来ていた。えまちゃんは小さい頃からの友達で、生まれた時から一緒にいたといっても過言ではない。わたしの親友は彼女だけだ。彼女のことはわたしが一番よく知っているし、わたしのことを一番よく知っているのも彼女だ。普段は家で一緒に遊ぶけど、たまに二人でお出かけするのだ、今日みたいに。キャラクターもののレジャーシートを芝生の上に敷いて、温かい紅茶の入った魔法瓶と、小さなままごと用のコップを一つ出す。家からこっそり持ち出したクッキーを3枚、かわいい紙ナプキンを敷いた紙皿の上に載せた。レジャーシートは子どもが一人座れるくらいの小さなものだったけど、一人とお人形一つが座るには十分だった。


「かわいいね、この紙ナプキン」


「かわいいでしょ、お母さんが新しいの買うたびに一枚ずつ貰ってるの」


 魔法瓶からままごとのコップに紅茶を注ぐふりをしてから、付属のコップに紅茶を注いだ。


「まだちょっと寒いからあったかいお茶がおいしいね。私ははちみつを入れた紅茶が一番好きだなあ。つむぎちゃんは?」


「わたしは何も入れないのが一番好きかな」


「甘くないのに?おとなだね」


 最近はえまちゃんと遊べる機会もめっきり減った。小学校の高学年になって、勉強が忙しくなったのだ。寂しいけど仕方がない。こうしてお出かけに来るのも本当に久しぶりだった。小さい頃は公園でなくても家の前とか、お庭とかで一緒にままごとをしたものだが、小学校に上がってからは少し離れた公園で遊ぶことが増えた。それもだんだん減っていって、今日のお出かけは実に半年ぶりである。最後に公園に来たのが10月半ば、その時も二人でカエデの紅葉を見ながら、初めて自分で淹れた紅茶を飲んだのだ。


 「あれ?久しぶりだね!元気してた?」


 遠くの東屋で話していた3人の女の子がわたしたちを見つけて、声をかけてきた。


「終業式以来だね」


「ねー!何してたの?」


 1人がわたしに気が付いた。


「人形?まだ持ってるんだ」


「私、もう全部いとこに譲っちゃった。懐かしいなー」


 えまちゃんがうつむく。


 他の人に合わせなくてもいい、ゆっくり成長していけばいい。わたしはいつまでもあなたの友達だから。


 そう言いたいのに声は出ない。わたしは力なくうなだれたまま、クッキーの置かれた紙皿を見つめる。刺繍糸で描かれたわたしの口は、どんなに頑張っても動くことはなかった。  

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親友 百人前 @hyakuninnmae

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