第18話 社内旅行①

京子「今年の社内旅行は参加してみようと思うのよ」

漫画を読みつつ全くこちらを見る事無く、ぼそっと呟く顔面偏差値だけはカンストしているこの女は。


「…参加すりゃ良いじゃん。俺に断んなくても」

京子「だって先輩、幹事グループなんでしょ?」

「…本社のな。横浜支店は知らん」

京子「え!?そうなの?」

「まあ…例年、本社と横浜支店は合同だから知らない訳じゃないけどさ…集合場所とか乗るバスとか変わるんだよね」

京子「宿は一緒なんでしょ?」

「飲み会もね」

京子「…」

「…」

京子「あたし絶対、先輩たまよけのそば、離れないから」

「…」



それは、とある夏の休日(平日定休)。

一年後輩である川藤かわとう 京子きょうこちゃんの自室。

並んで漫画を読んでいる俺たちに恋愛関係は「れ」の字も無い。

何故か親父さんおかーさんの厚い信任を得てしまった(ついでに京子ちゃんの彼氏からは兄貴呼ばわりされている)俺は、戸塚の京子ちゃんの家に入り浸っていた。

そして…恐ろしいことに…リビングでは…


「…なあ、そろそろおかーさんの様子見てきたら?」

京子「そっくりそのままお返しするよ…愛する妹さんが待って…」

「…待ってないよね…会話が闇深すぎて入れないよね…」

京子「そもそも先輩がファーストガンダムのフルセットLDなんか…持ってくるから!!」

「…だって…レーザーディスクプレーヤーが有るとか言うから…」


五月いもうとと京子ちゃんのおかーさんの相性はやっぱ抜群だった。

それこそ…流石の俺たちも会話に参加出来ないほど…


「(マチルダさんもウッディ大尉も小説版では死なないとか…知らないっつうの)」


京子「…ねえ、本当、そろそろ五月ちゃん止めないと不味いんじゃないの?受験生なんでしょ?」

「…まあ、信じられないけど、本命いがくぶでB判定らしいし…未だにコミマの同人誌書いてるの見てると、受験って一体何なんだろうね…」

京子「そろそろおかーさんに現実に戻って貰って夕御飯作って貰わないと…」

「…親父さんがそろそろ帰ってくるって教えてあげれば現実に戻るんじゃないの?」


嘘みたいだか、あれほどのおかーさんのガンオタは親父さんには全くバレていないらしい。

おかーさんのこうがくめいさいは相当に優秀なんだろう。


五月「…お兄!!そろそろ帰ろう?…きりがないわ」

「…お待ちしておりました」

こうして…Zガンダムのビデオに続き、ファーストガンダムLDも半永久的に貸し出されることになってしまった。

…マクロスのフルセットLDも夏美先輩のところから帰ってこないし…トホホだよ。



9月の第一週の平日定休日、俺たち本社約200人と横浜支店約70人は、合同で静岡の修善寺に行く。

1980年代の…ハチャメチャな社内旅行の始まりだった。


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