第28話 襲撃者、巣を遠望する
「このあたりだな、オニバンのヤツが消息を絶ったのは」
「えぇ」
西方ハットイスティアという国に所属するバン族の男女が砂漠の真ん中で宿営し、焚火を囲んで話している。
「最後にオニバンさんを目撃したのはオニバンさんが荷運びに雇っていたガキね。 話によると火事が起きてるのを遠目に見つけたあと、このあたりで待つように言われてオニバンさん自身は火事の現場に向かったらしいわ」
「持っていた武器は?」
「ナイフ一本らしいわね」
女は苦笑いしながら言い、それを聞いて男はチッと舌打ちをする。
「なめ過ぎだ。 いくら火事で相手が混乱していると踏んでもだ」
「まぁ、フロバンさん。 オニバンさんも素人じゃないんですから近寄ってから状況を見て動いたでしょうし」
「で、結果がこれか? もう何日…いや、季節一つ分以上も行方不明なんだぞ」
「えぇ…… そうですね、すみません」
苛立ち、声に怒りを含ませるフロバンという男に睨まれ、女は長い耳をシュンと下げながら謝罪をする。
「まぁいい。 おそらく昼間に見たあの建物だろう」
バン族の男女は昼間に高い砂丘に上り、ビオラたちの住む巣を遠望していた。
「どこのどいつがこんな砂漠のど真ん中に、いつの間にあんなものを作ったのか知らんが、とにかくオニバンを殺ったってんなら放っておくわけにもいかん。 始末し、奪えるもんは奪うぞ」
「あの…フロバンさん。 オニバンさんが生きている可能性は?」
「……低いだろうが、奴隷として生かされてる可能性もあるにはあるな」
「その場合は?」
心配そうな表情で伺いを立てる女に向かってフロバンはフッと笑みをこぼして言う。
「救えるなら救っても構わん。 だが、一瞬でも足手まといだと感じたら迷わず見捨てろ。こんなヘマするような奴を命がけで救ってやる必要なんてない。 大事なのはやられっぱなしでやり返しもしなけりゃ俺達の評判にかかわるってことだ。 理解してるな、ラババン?」
「はい」
フロバンの忠告にラババンは神妙な表情で頷き、続けて問う。
「夜襲を?」
ラババンの問いに再び不機嫌な表情になり舌打ちしたフロバンは答える。
「馬鹿を言うな。 相手の戦力も分からず夜中に突っ込む馬鹿がいるか?! 日が昇ったら気づかれんように偵察だ。それによって作戦をたてる」
「はい、すみません……」
再び耳の垂れ下がったラババンを見、フロバンは溜息をつきながら立ち上がる。
「寝るぞ。明日は早い。 火の始末はちゃんとしておけ」
小さなテントに入ったフロバンはゴロンと横になるとすぐに寝息をたてて眠りについた。
翌日の早朝、ビオラの巣を遠望したフロバンは言う。
「ビビか…… 巣の規模はかなり小さいな。 砂漠で緑がないからか防衛用の魔法植物が少ないな…? 確認できるだけだがリッチフラワーが一株にビーンスプレーが三株……」
「ビビ? こんな砂漠にですか? あり得ないのでは?奴らは普通、肥沃で温暖な地に巣作りするでしょう?」
フロバンは馬鹿にするように鼻で笑ったあとにラババンに言う。
「あり得ない? 目の前にあるのは何だ? 普通じゃなかろうと現実目の前にあるんだ」
「……はい」
「どんな意図なのかは知らん。 が、こんな場所に巣を作る奴だ。とんでもない馬鹿か、それともビビ族の革命児か……」
「……やめときますか、フロバンさん」
「いや……」
フロバンは巣の方角を注視しながらラババンの問いに否定する。見る限り、外に出て作業しているのは大きめのビビが一匹と小さなビビが一匹。大きいほうは働きビビとしては大きいように思われるので女王であろう。小さいほうは働きビビとしても小さいので産まれたばかりと思われる。
「巣の規模からして、いたとしてもあと一匹か二匹。 ビビ自体が戦闘に向いてない上にあの小さいのはまともに戦えんだろう。 女王も卵を産むのに多くのエネルギーを使用することから動きが鈍く余計に戦闘に向いてない。 奴らが頼りにするのは魔法植物だが、ビーンスプレーが三株では俺たち二人でかかれば十分に接近できる。豆の威力は一発一発は大したことはない」
「分かりました」
腰にしていたリボルバーを抜いたラババンの強張った表情を見て安心させるようにフロバンは笑いかける。
「心配するな、ラババン。 ビーンスプレーさえ無力化してしまえば後は虫を潰すようなもんだ。 プチっとな」
ホッとした表情で「はい」と答えるラババンの顔を見ながらフロバンは、いざという時はお前を盾にするがな、と心の中で笑い腰のリボルバーに手を掛ける。
「行くぞ」
フロバンが一言そう口にすると、二人は巣に向かって歩き始めた。
次の更新予定
2024年9月20日 12:42
女王蜂の建国記 弥次郎衛門 @yajiroemon
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