第27話 イグアナ、なつく
ビオラが一匹でバラ園の手入れと蜜の採取をしている時のことだった。バラ園の一角がガサゴソと動く。
なんだろうとビオラが音のする方をみると、バラの花の陰からイグアナが一匹ひょこっと顔を出した。
「あっ! またバラ園を荒らしに来たな!」
目を怒らせながら腰のリボルバーを抜き、今まさにイグアナに向かって放とうとしたとき、イグアナはつぶらな瞳を潤ませてビオラをジッと見る。
キュンッ……!
ビオラは胸が高鳴るのを感じた。そんなビオラにイグアナはまったく警戒する様子もなく近寄り、足元まで来るとスリスリと鼻先を擦り付けた。
「くっ…… ひ、卑怯よそれは! か、可愛すぎて殺せないじゃない……」
銃を収め、イグアナを抱き上げたビオラは勢いよく走り巣のドアを開ける。そこはもうほとんどイクシア専用となった勉強部屋で、イクシアは机に向かって参考書を広げていた。
作業の合間合間で手が空いた時にイクシアは勉強机に座っていることが多い。今は上級魔法植物を育てるための勉強をしているようだった。
「イクシア! 飼っていい?!」
「え? 何をですか、お母さま。急に」
突然の闖入者に驚いてイクシアは参考書から顔を上げる。
「イグアナ!この子飼っていい?」
「え?えぇまぁ、お母さまがいいならいいのですが…… お母さま、イグアナは天敵だって恨んでませんでしたっけ? 見つけたら問答無用で即座に殺すと、いつも言ってませんでしたっけ?」
「今でも思ってるわよ」
「……いいんですか?」
「この子はいいのよ」
「……なら、まぁ、いいのではないでしょうか?」
「やったぁ! よかったわね、あなた。あ、名前つけなきゃね!」
と、興奮気味にルンルンしながら部屋をあとにした母の姿を見ながら、別にわたしに許可とらなくてもと思うイクシアだった。
さて、そんな感じで外に出たビオラは「名前どうしようかしらねぇ」とイグアナを掲げもって見る。
「メスっぽいね。 女の子っぽい名前…… イグアナの…イグアナ… う~ん…イグアナ……」
しばらく「イグアナ…イグアナ…」と呪文でも唱えているように呟きながら考えたビオラの頭に天啓が舞い降りる。
「ダイアナ! そう、あなたの名前はダイアナよ!」
ダイアナも名前を気に入ったようで、ビオラに向かって愛らしい瞳をバチンとウインクして応えた。
「うふふ、気に入ってくれたみたいね。 じゃあ、ダイアナのお部屋を作らないとね。 まだ空き部屋もあるし…… でもペットの部屋って何を置いたらいいのかな?」
疑問に思ったらすぐ行動。ということで、頼りになる娘イクシアの許へと再びビオラは飛び込んだ。
「イクシア! イクシア! ペットのお部屋には何が必要かしら?!」
バァーン!とドアを開け、ダイアナを抱えて飛び込んできた母にイクシアは目を落としていた参考書から顔を上げて答える。
「そうですね… 寝床とエサがあれば大丈夫では?」
答えを聞くなり「そうね、そうよね!」と言ってビオラは部屋を出ていった。
空き部屋に木綿を持ってきたビオラは早速、ペット用の寝床の作成に入る。それを、先ほどからバタバタと何してるんだろうと興味を持ったペパーミントが見ていた。
「ママ、なにしてるの?」
「ダイアナの、このイグアナの寝るところを作ってるのよ」
「ほー」
「ペットとして飼うことにしたから、ペパーミントも可愛がってあげてね」
「はーい。 ダイアナこっちおいで」
ビオラがダイアナの寝床を作っている間、ペパーミントはダイアナと部屋の中を走り回って遊んでいた。
「ふぅ… 出来た。 次はエサね。エサ……」
再びイクシアのいる勉強部屋のドアがバァーン!と開かれる。
「イクシア! エサって何あげればいいの?!」
「エサですか…何でも食べるとは思いますが、ペットフードの作り方は干し草と生肉を食肉加工台で混ぜて作りますよ。 干し草だけでも食べるとは思います」
「オッケー、干し草ね!」
ビオラは勢いよく外に出てベンケイチュウを植えている岩場まで行くと、既に成熟していたベンケイチュウを数本切り倒して代わりに牧草を植え始めた。
本来のイグアナの生態とは違うが、このゲームではペットはみんな干し草が食べられます。なので、そういうもんだなとご理解ご了承ください。
しかし問題は当面のエサである。牧草が育つにはそれなりの時間がかかる。
「しばらくエサはどうしよう…?」
呟き、悩みながら戻ってきたビオラの視線の先にペパーミントとダイアナの姿があった。部屋から外に出てきたようだった。ペパーミントが見守る前でダイアナがバラ園のバラをモッシャモッシャ食べていた。
「……そうよね、しばらくはこれしかないわよね」
飼うと決めた以上はあきらめて、ビオラはペパーミントと並んでダイアナの食事を眺めた。
「何度もイグアナにバラ園荒らされてブチギレてきたけど、ペットが食べてるとなると何の怒りも湧いてこないわね。むしろ愛らしい……」
やがて食べ終えて満足したダイアナは周囲を散歩し始めた。
「さ、ペパーミント。 ダイアナが食べちゃったバラの植えなおしをしようか。あとは、ついでに蜜も取っちゃおうか」
「はーい」
親子並んでバラ園の手入れに着手した。バラの植えなおしも終わり、蜜の採取も終わると結構な時間が経っていた。そこで、そういえば散歩していたダイアナはどこ行ったんだろうとビオラは周囲を見渡した。
ダイアナはひっくり返っていた。
「ダ、ダイアナちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ビオラは絶叫してダイアナに駆け寄り抱き上げると、血相を変えてまたまたイクシアの許に駆け込んだ。
「イクシア! ダイアナちゃんが!ダイアナちゃんがぁぁぁぁ!!」
もうなんか、突然部屋のドアが荒々しく開くことに慣れてしまったイクシアは「どうしたんですか?」と冷静に母に問う。
「ダイアナちゃん!ダイアナちゃんが!!」
目に涙を溜めて興奮して会話が成り立たない母の腕から「ちょっと診せてください」とイクシアはダイアナを受け取ると、軽く診察をして「たぶん、脱水症状ですね」と答えた。
「だ、脱水症状?」
「はい、すみません、お母さま。 考えてみれば当然のことでしたけど、わたしもペット用の水場の認識なかったです」
「……そうね、たしかに水がないと死んじゃうわね。 こんな砂漠じゃ自分で水場探して飲みにも行けないし」
「はい。 とりあえず、医務室にペット用の医療ベッドを作って治療しましょう」
急遽、医務室の空きスペースにペット用の寝床を作成したビオラとイクシアはダイアナの治療を開始した。
「はい、お母さま。 これで大丈夫ですよ」
治療を終えたイクシアの言葉に安心して「よかったぁ…」とビオラはへたり込んだ。
「ありがとう、イクシア」
「いえいえ」
「よかったねぇ、ダイアナちゃん」
ひと騒動あって愛着が増し、いつの間にか”ちゃん”付けし始めていたビオラだった。ペット一匹飼うだけで大騒動である。
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