第25話 ビオラ、カウボーイハットを作る

 大慌てで木綿を収穫したビオラは、これまた大慌てで裁縫台の前に行き大急ぎでベビー服を一着仕上げた。


「わぁ! およーふくー!」


 キラキラした笑顔で喜ぶペパーミント。つい先ほどまでスッポンポンだった娘に服を与えて喜ばれると、なんだかちょっと不憫な思いをさせていたようで胸が痛くなるビオラだった。


「ついで…というわけじゃないけど、イクシアの作業服も作っちゃいましょう。 今イクシアが着ているベビー服は次に産まれてくる子へのお下がりにすればいいわね。 もうすぐ産まれてくるはずだし」


「ありがとうございます、お母さま! そうですね、卵の状態からすると今日明日くらいに産まれそうですね」


 そんなわけでチャチャっと作業服を仕上げるビオラ。工芸のスキルも上がってきており、出来栄えも良い。出来上がった作業服を広げて自分の腕に惚れ惚れとする。


「うん! 良い感じ! 木綿も結構余ったけど、どうしよう? 次に商人さんが来た時に売る?」


 余った木綿を見ながらビオラはイクシアに問う。ビオラはもう、頭脳労働をイクシアに任せた感がある。


「そうですね、売ってもいいですが帽子なんか作ってはどうですか? あまり気にしなかったというか今まで余裕がなかったですが砂漠で日差しが強いですし、敵に襲われたときに頭の防御も考えておかないと。布製の帽子でも何もないよりは多少マシですよ」


「うん。それもそうね」


 と、ビオラはどういう帽子がいいか考える。ビビ族専用の可愛らしい帽子は未だに裁縫関係の参考書を読んでいないために作れない。正直、そういった研究をしている余裕が今まではなかった。そのため一般的なものしか作ることが出来ない。


「そうだ! カウボーイハットなんてどうかしら?砂漠の雰囲気にも合ってると思うの!」


 砂漠というよりも荒野だが。


「いいですね、そうしましょう!」


「ましょー!」


 イクシアとペパーミントが同意してくれたことでビオラはカウボーイハットを人数分とこれからのためにプラス2個くらい作ることに決めた。


「あ、そうだ! カウボーイハットなら布で作るよりも前に解体したロバの皮で作ったほうが雰囲気あっていいんじゃない?」


「そうですね、いいですね」


「よし! じゃあ、ペパーミント。ロバの皮を持って来てくれる?」


「あいさー!」


 仕事を与えられて嬉々としてペパーミントは倉庫へ走っていき、「うんしょ、うんしょ」と何度か往復して皮を運ぶ。

 その間にもビオラはカウボーイハットの制作を始めた。まず最初に出来たものは一生懸命に皮を運んでいたペパーミントにあげることにした。


 ぽふんっとビオラがペパーミントの頭に出来立てのカウボーイハットをのせてやり、「お手伝いありがとう」と声をかけてやるとペパーミントは飛び上がって喜んでいた。


 次に出来上がったカウボーイハットはイクシアの頭にのせる。「いつもありがとう、イクシア」とお礼を言いながらビオラがカウボーイハットを被せてやると、ちょっと恥ずかしそうに赤くなって俯いてイクシアは笑っていた。


 そして今度は自分用である。出来上がったカウボーイハットを被り、「うん、いい感じ」と満足したビオラは続けて予備の制作に入る。


「ロバ皮はあとカウボーイハット1個分くらいしかないか、仕方ないからもう1個は木綿製でいいか」


 と、皮製と木綿製のカウボーイハットをそれぞれ1個ずつ作成した。


(と、ここで裏事情です。 物語上、ビオラが提案して皮でカウボーイハット作ったほうが雰囲気出るとかお手柄めいたこと言って成功したように見えますが、実はゲーム的にはカウボーイハットを数個作るよう指示していたところ、素材の指定をしていなかったがために勝手に近くにあった皮を使って制作を始めてしまったという筆者のミスでした……結果オーライ?)


「ふぅ…出来た出来た。 あれ?イクシアは?」


 制作に熱中していたビオラはイクシアがいつの間にかいなくなっているのに気が付いた。ペパーミントは母の後ろで作業を見守っていたようだが。


「ペパーミント。 イクシアがどこ行ったか知ってる?」


「あっち」


 ペパーミントが指さす先は空き部屋の一つである。「イクシア、何してるんだろう?」と立ち上がったビオラは空き部屋に向かって歩きドアを開ける。


「あ、お母さま」


 作業中のイクシアが振り向く。「え? これどうしたの?」と聞くビオラにイクシアは「ふふん」と胸を張って答える。


「医務室を作っていたんです。 医療用のベッドを一応二つ作っておきました。あとはすぐに薬に手が届くように薬専用の棚を設置しました。 井戸に近い部屋が空いていたのでここがいいかなと思いまして」


「お、おぉ! 凄い」


「これで怪我や病気になっても少しは安心できると思います!」


「ありがとう、イクシア」


 褒められて照れ笑いするイクシアを見ながら、この子は医療に興味あるのかなと思うビオラだった。

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