第24話 娘たち、成長する

 数日間かけて拡張部分の壁磨きを終えた二匹は、ちょっと巣から離れた場所から満足そうに巣全体を眺めていた。


「うんうん、磨いた甲斐があったね。強度はもちろんだけど、太陽の光に照らされて輝いてるようよ」


「ですね!お母さま」


「さて、じゃあ大部屋を寝室にするために家具を作っていこうか。 ベッドを三つ、四つ? あとは大きめの食卓に――」


「お母さま、ちょっと待ってください。 わたしに考えがあります!」


 新しい部屋に思いをはせるビオラに娘のイクシアが待ったをかける。娘の頭脳に全幅の信頼を置くビオラは「なに? どうしたの?」と意見を聞く。


「新しい大部屋を寝室にすると、おトイレや水場が遠くになっちゃいます。 だから今の倉庫を寝室に改造して、新しいほうを倉庫にすべきかなって思います」


「ほうほう、なるほど」


「それに今は倉庫に荷物をバラバラに直置きしてるだけですけど、せっかくですから新しい大部屋には棚とか箪笥とかクローゼットとか設置してきちんと整理して収納するべきかなって思います!」


「……うん、そうね。 そうね、賛成!」


 娘に、お母さんお片づけ出来てないよ、と言われているような気がしてちょっと胸をえぐられるビオラだった。


 そうと決まれば早速、棚などを作るための資材を用意しようとオロロし、大量の蜜蝋を準備した。


 二匹は倉庫予定の新しい大部屋に蜜蝋で作った棚や箪笥やパレット、食料貯蔵用に樽なんかも作った。


 とりあえずはこんなもんかと、その日の作業は終了。翌日は旧倉庫から物資を移動させ始める。と、そこで突然、寝室のドアがゆっくり開く。

 え?っと思った二匹の視線の先で、ドアの隙間から顔を出したのは歩けるようになったペパーミントの姿だった。


「ペパーミント!」


「やったぁ! お母さま、ペパーミントが歩けるようになった!」


 驚いて駆け寄った二匹をきょとんとした表情で見上げるペパーミント。黒髪ポニーテールの子である。ちなみにポニーテールにして付け根にリボンを付けたのはイクシアである。


 ビオラはペパーミントを抱き上げて「よしよし、ペパーミント。 自分一匹でたっちできたのね」と娘を褒める。


「まま、おてちゅだい!」


「なんて、なんて良い子なの……!」


 イクシアの時もそうだったが、すぐに働きだそうとするのはビビの本能的なものである。が、ビオラは自分がそんなこと言った記憶がないために娘たちの言動に感動していた。

 ビオラ、子供の時からビビの本能を超えるサボり癖があったようである。


「じゃあ、ペパーミント。 荷物運びを手伝ってくれるかな?」


「あいっ!」


 三匹が仲良く倉庫の荷物を運び出し始めた。「うんしょ、うんしょ!」と一生懸命お手伝いをするペパーミントが愛らしい。ビオラとイクシアはちょっとニヤつき、横目でペパーミントの様子を愛でてながら荷物を運ぶ。


「ふぅ…終わったね」


「終わりましたね」


「わったぁ~っ!」


「じゃあ、今日は旧倉庫を軽く掃除して、明日は寝室を作っていきましょう!」


「「おー!」」




 そして次の日、朝一でオロロして大量の蜜蝋をこさえたビオラたちは新たな寝室に家具を作成していく。


 まずはベッド、これからの繁殖を考えて六床作成した。ベッド横にはサイドテーブルも作成し、近くには孵卵器とベビーベッドも一つずつ作成した。


 食卓は八匹座れる大きさのテーブルを作成し、椅子も今のところ必要な三脚だけ作成する。食卓の位置はキッチン部屋の近くに配置した。


「お母さま、見てください。 赤ちゃん用におもちゃ箱も作りました!」


 イクシアはいつの間にか赤ん坊が遊べるように玩具の作成もしていた。


「あと、これも見てください。お母さま」


 と、イクシアは得意げにビオラに作成物を紹介する。


「黒板と子供用の勉強机です! 子供の横に大人が座れるようになってて、教える大人と一緒にお勉強が出来るようになってます!」


「お、おぅ…」


 そこに座るのは、わたし?と一瞬思ったビオラだったが、「う、うん、イクシアがお勉強教えればペパーミントもきっと賢くなるわね!」とサラっと自分はやらないよと意思表示をする。


「はい! がんばります!」


 グッと拳を握るイクシアをビオラは頼もしく思うのだった。


 一通り寝室が完成したところで三匹はそろって外に出て魔法植物を育てていたプランターを覗き込む。


「上手くいったね。今回は枯れずに苗ができそうね」


「はい、よかったぁ」


 安堵した表情でホッと息をはくイクシア。ビオラは娘の頭を撫でて「イクシアが植えてくれたバラも木綿も順調ね。 ちょっとロバに食われたけど」と褒める。


「えへへ… バラもたくさん蜜が取れてるし、木綿ももうすぐ収穫… ん?木綿……」


 母親に褒められて照れていたイクシアは”木綿”という言葉を言ったあと「あっ!」と何かに気が付いたように小さく叫んだ。


「お母さま! 大変!!」


「えっ?! なに?!どうしたの?イクシア」


「ペパーミントが裸です!」


「……あっ!」


 ビオラとイクシア(と筆者)は立てるようになったペパーミントがずっと裸だったことに気が付かなかった。本当なら以前に作った作業服にイクシアを着替えさせ、イクシアが着ていたお古のベビー服を次の子に着せようと思っていたのだが、作業服は火事で燃えてしまっていた。ペパーミントは今、着るものがない。


 本当に数日間、ペパーミントが裸だったことに気が付きませんでした。ごめんね、ペパーミント(筆者)


「イクシア! すぐに木綿の収穫!」


「はい!」


 慌てて二匹は木綿の収穫を始めた。状況をよく分かっていないペパーミントは、スッポンポンのまま指を咥え首を傾げながら母と姉を見守るのだった。




 このあたりでイクシアが成虫になりましたので成虫になったばかりの彼女のステータスを。


================

【禁欲】

【きれい好き】

【熟睡の達人】

【うぬぼれ屋】


射撃 -(戦闘不可)

格闘 -(戦闘不可)

建築 9☆

採掘 0

料理 1☆

栽培 18☆

動物 0☆

工芸 1☆

芸術 0

医術 0☆☆

社交 2☆

知力 5☆

================


 特徴のざっくりとした説明ですが、【禁欲】は他のキャラよりも寝室が質素じゃないとストレスを感じる。【きれい好き】は部屋が汚いとストレスをより多く感じる。【熟睡の達人】は少ない睡眠時間で疲れがとれ。【うぬぼれ屋】はスキルレベルの成長速度が早い。といった感じです。

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