第23話 日食と熱波、一緒にやってくる
「あっちぃ~……」
薄暗い砂漠の中でビオラは額の汗をぬぐう。
ペパーミントが産まれて数日後のことである。ビオラたちが暮らす極限の砂漠は日食となり光が消えた。と、ほぼ同時に熱波に襲われたのだ。薄暗いが真昼間の今、外気温は54℃である。
「日の光が無いというのに熱波とはこれ如何に??」
不思議なものである。日の光がなく外気は冷えてもいいと思うのだが何が原因なのか気温が高い。
「ま、それはそうと、プランターのリッチフラワーとビーンスプレーが元気ないのよね。ちゃんと育つかな?」
リッチフラワーとビーンスプレーは成長するために十分な日光が必要である。それに加えてビーンスプレーのほうは気温が高すぎても低すぎても枯れてしまう。このままでは、せっかく植えたというのに二つともダメになりそうである。
「う~ん…こればっかりはなぁ…… 日食と熱波が早くおさまるのを祈るしかないかなぁ」
腕を組んで唸っていたビオラはプランターから目線をあげて巣の寝室のほうを見る。
「でもそれよりもなによりも、一番心配なのはペパーミントと卵よ。 室温もとんでもなく温度高くなっちゃったけど…… でも何かイクシアが、わたしに任せて!って自信満々に言うから任せたけど…大丈夫かな?」
ビオラは心配そうにそう言いながら寝室のドアを開ける。すると、ビオラの頬を涼しい風が撫でた。
「あ、涼し…」
と、ホッとした表情で呟いたビオラの視線の先で、イクシアは木でできた大きな箱に水を注いでいた。
「あ、お母さま、おかえりなさい」
「ただいま、イクシア。 ところでそれは何?」
「これですか? これは気化熱クーラーです」
「気化熱クーラー?」
「はい。 ここに水を注ぐと、水が蒸発したときの気化熱で外気を冷やすんです。 頑張れば15℃くらいまでいけます!」
「15℃! そこまで冷えるの?! へぇ~、マナとか電気とか使わずにこんな箱だけでそんなこと出来るんだねぇ。 箱の中身どうなってるの?どういう仕組み??」
「秘密です」
「……え? なんで??」
「とにかく秘密なんです」
気化熱クーラーとは、このゲーム内での不思議アイテムの一つである。MODの影響で水を注いでその水の気化熱で冷やしているという、それっぽい状況になってはいるが、本来のMOD無し状態では何故か木材を補充して外気温を冷やすというトンデモアイテムである。
まぁ、水を使ってとなっても、電気などの動力もなくどうやって水を急速蒸発させているのか、とか。蒸発した水蒸気どうしてんだ、とか。15℃近くまでは冷えんやろ、とか。いろいろと疑問の絶えないシロモノだが、そういうものだと思ってください。
「まぁいいか。 とにかく凄いものなのね」
うちの子、もしかして天才かも…?と思うビオラだった。
「でもこれでペパーミントと卵は大丈夫そうね。 ありがとう、イクシア」
「はい!」
「じゃあ、元の巣の部分の壁磨きも終わったし、巣の拡張を今日中に終わらせちゃいましょうか。 拡張部分の壁磨きは後回しにしてとりあえず形は作ってしまいましょう!」
「は~い!」
ビオラとイクシアは交代でペパーミントの面倒を見ながら巣の拡張に取りかかった。二匹での作業ということもあって、宣言通りにその日中に形は完成した。
日食のせいで時間がよくわからなかった二匹だったが、疲労もあって作業はそこで終了し残りは翌日に進めることにした。
翌日の朝、まだ日食が続いており朝なのかハッキリしない中で目覚めた二匹は昨日の作業の続きに取り掛かった。
今日は床張りである。キッチンには既に床を張っていたがそれを巣全体に張るのだ。そのため大量の蜜蝋が必要である。ということは大量のビビクリームが必要となるわけで。
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!!」
「おろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろぉ!!」
親子仲良く、大量のビビクリームを分泌する。その後も仲良くビビクリームを捏ね捏ねして蜜蝋を作り出すと、それを巣全体の床に張っていく。
「ふぅ…終わったぁ」
猛暑の中、作業を終えた二匹はそろって額の汗を拭った。と、そこで二匹は外が明るいことに気が付いて巣の外に出た。
「日食、終わったみたいね」
「うん!」
「あれ? なんだか気温も下がってる? 熱波も終わったかな」
「みたいですね、お母さま」
顔を見合わせてニコリと笑う二匹。と、そこでビオラはあることを思い出して「あっ!」と声を出す。
「プランター、リッチフラワーとビーンスプレーどうなってるかな?」
イクシアも思い出したようで「あっ」と言ってプランターの許へ駆け出した。イクシアを追いかけたビオラはプランターの前に立ち肩を落とすイクシアの背中を見て察した。
「仕方ないわよ」
優しくイクシアの肩にビオラは手を置く。イクシアの眼からポロポロと涙が流れ、枯れたリッチフラワーの苗に落ちた。
「枯れちゃった…… ごめんなさい、お母さま」
「仕方ないって、イクシア。 また挑戦しましょ」
イクシアは涙をぐしぐしと拭いながら「うん」と小さく頷いた。
「まだ材料あるんでしょ? 大丈夫よ、次はきっと上手くいくわよ!」
「はい! 材料は…うん、大丈夫! 薬草の在庫がちょっと心もとなくなるけど、他はまだ余裕がありそうです!」
「そう。 よし!頑張ろうね!」
と、娘を励ますビオラは心の中で、あれ?この子、頭の中で在庫管理してる??と娘の頭の良さに戦慄するのだった。
「はい! がんばります!」
笑顔で見上げる娘の頭をビオラは優しく撫でる。そして二匹で再びプランターに魔法植物の種を植えた。
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