第22話 三女、誕生する
朝起きて、今日から蜜が取れるわと、ウキウキ気分でバラ園側の寝室のドアを開けたビオラは叫んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ロバぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! てめぇら毎回毎回!いったい何の恨みがあるんじゃコラぁぁぁぁぁっ!!!」
三頭のロバがモッシャモッシャとバラと木綿を食い荒らしていた。ビオラは腰からリボルバーを抜き、ロバに向かって銃弾を放った。彼女の射撃スキルはようやく2に達していた。下手なりにそこそこ当たるようにはなっていたのだ。
早朝から逃げるロバを追いかけまわして銃を放つビオラ。イクシアは戦闘に参加できないために仕方なく、激高してロバを追いかける母を横目にバラ園で花の蜜を取り始めるのだった。
やがて、かなり時間がかかったがロバを三頭とも仕留めたビオラは「ぜぇ…ぜぇ…」と息を切らせながらロバの死体を引きずって帰ってきた。
「イクシア、バラ園の被害は?」
「それほどでもないみたいです。 食べられちゃったところはもう植えなおしましたよ」
「そ、そう……」
「ロバからとれるお肉の量と皮のことを考えると、一応収支としてはプラスかなって思います。お母さま」
「そうなのね… でもなんか、なんか釈然としないわ……」
「まぁまぁ、お母さま。 今の巣の拡張が終わったらバラ園を囲むように更に拡張するようにしましょう。小部屋で囲んで中庭のようにするのはどうでしょう?」
「そうね、そうしましょう。 毎回毎回イグアナやらロバやらに食い荒らされてたら巣としての収支はともかく、わたしの胃と体力がもたないわ…… じゃ、ちょっとロバ捌いてくるわね」
ロバをズルズル引きずっていく母の力ない背中を見送ったイクシアは、ハッとした。捌いた肉をまた屋外の焚火で調理されてはまた食中毒になりかねない。もう吐瀉物の後片付けはごめんだと思うイクシアは巣の空き部屋の一つに駆け込んだ。
そこは、今倉庫となっている大部屋と拡張中の大部屋とを繋ぐ小部屋だった。そこに倉庫から蜜蝋を持ってきたビオラは床板を蜜蝋で作成して丁寧に張っていく。壁はすでに磨き終わっているために床さえあれば比較的清潔な部屋の完成である。
そしてそこに木材と金属を持ってきてイクシアは竈を作り始めた。鉄などの金属は僅かではあったがビオラの追放時に女王が持たせてくれていた。
調理部屋の完成である。
完成するとすぐさまイクシアはビオラのところへ駆けつける。ビオラは捌き終えた肉をさっそく焚火で焼こうとしていたところだった。
「ストップ! お母さま、ストップです!」
「ん? どしたの?イクシア」
間一髪、焚火での調理を止めることが出来た。ビオラの料理スキルは決して低いものではないのだが、それでも屋外の焚火調理は食中毒のリスクがある。
「こっち、こっち来てください」
と、生肉を持った母親の背を押しながらイクシアは完成したばかりの調理部屋へと案内した。
「じゃーん!!」
「おぉっ!!」
ピカピカのキッチンを見てビオラは目を輝かせた。
「お母さまのために作りました!」
半分嘘である。イクシアはゲロ掃除をしたくなかったからなのだが、まぁ一応は母親が食中毒で苦しむ姿を見たくないというのもあったので、完全な嘘でもなかった。
「ありがとう!イクシア! なんていい子なのかしら!」
ビオラは感激してイクシアを抱き上げて頬ずりする。「痛いです、お母さま」と言いながらも満更でもない様子のイクシアであった。
その日の夜。ビオラとイクシアの見守る前で孵卵器の卵が割れた。元気な産声を上げて産まれた娘をビオラは抱き上げて言った。
「はじめまして、ペパーミント。 あなたの名前はペパーミントよ」
抱き上げたビオラはこれといってペパーミントから特徴的なものを感じなかった。
実際のところは【白くならない髪】という年をとっても白髪にならない遺伝子持ちだったのだが、そもそもビビは老化しても白髪にならないために関係がなかった。
ビオラからペパーミントを受け取ったイクシアは泣き続ける妹を「よしよし」とあやしながら楽しそうに笑っていた。
その微笑ましい姉妹の横で、ビオラは新たな卵を産むのだった。
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