第21話 商人さん、再びイイ仕事する

 壁磨きは時間がかかる。二匹がかりで数日かけて巣全体の壁を磨き終え、拡張工事に手を付け始めたころ、キャラバンを率いたゴールドグラスがやって来た。


「こんにちは~! お久しぶりです、ビオラ様。 おや、そちら、お子様ですか?」


「あ、こんにちは、ゴールドグラスさん。 はい、イクシアといいます。ほらイクシア、ご挨拶を」


「始めまして、イクシアです」


 イクシアがペコリとお辞儀をすると、ゴールドグラスは「始めまして、ゴールドグラスと申します。これからよろしくお願いします、イクシア様」と返したあとにウンウンと頷きながら言う。


「噂通り、利発そうな子ですね~」


「噂?」


 ビオラが首を傾げてゴールドグラスに問うが、彼女は「いえいえ、何でもございません」と言い、「そういえば」と続けて話題を逸らす。


「ビオラ様、巣が火事にあったとか?」


「あぁ、うん…… お恥ずかしながら…」


 頭をポリポリと掻きながら恥ずかしそうにビオラは答えた。


「実はわたし共にも何か出来ないかと思いやってきたのですよ。 あ、これですが、わたしからの援助です。巣の再建は大変かと思いますが、お体をお大事に。作業はご安全に」


 そう言ってゴールドグラスは”最先端医薬品”を幾つかビオラに手渡した。


「ありがとうございます」


「いえいえ、ところで売買のほうは如何でしょう? 何かありますか?」


「そ、それが…… 火事で物資が燃えてしまって、そのうえ現金もあんまりなくて…… ごめんなさい、せっかく来てもらったのに」


「なるほどなるほど。 いえ、お気になさらずに。 ですが一応、倉庫内を見せてもらっても?」


「えぇ、もちろん」


 快諾したビオラに促されてゴールドグラスは倉庫に向かう。「おぉ、壁を磨かれたのですか」と感心して再建された巣を眺めながらゴールドグラスは歩く。


「ふむ… やはり食料が心もとないですかね?」


 倉庫内を見渡したゴールドグラスは心配そうな表情でビオラに問いかける。


「……ですねぇ。 火事になる前はそこそこ備蓄はあったんですけど、火事とその後のゴタゴタのストレスでドカ食いしちゃいまして… そんでもって、巣の再建にビビクリームを吐きまくってたらお腹がすいて……」


「う~む…… なるほど」


「でも、イクシアがバラ園を再建してくれたので大丈夫です。 もうそろそろ蜜が取れるようになる頃ですから」


「そうですか、それを聞いて少し安心しました」


 ホッとした表情でゴールドグラスは言い、「バラ園を拝見しても?」と言って二匹して外に出る。再建されたバラ園を見てゴールドグラスは感嘆の声をあげた。


「素晴らしいです! 随分とバラ園も大きくなりましたね。おや、こちらは木綿を植えているのですか?」


「えぇ、イクシアが今後必要になるからって」


「なるほど。賢い娘様のようですね。 とりあえず安心いたしました。火事にあったと聞いて、わたしもラットキンのマロニさんも心配していたのですよ」


「ははは…… すみません、ご心配をかけまして」


「いえ、お元気そうなお顔を見れて安心いたしました。 では、わたし共はこれで」


 ニコリと笑ってビオラに頭を下げたゴールドグラスは待たせてあったキャラバンの方へと歩いていく。途中、「そういえば」と言いながら一度振り返ってゴールドグラスはビオラに問いかける。


「ロバのお肉は美味しかったでしょうか?」


「ん? ロバ?」


 思い出すように虚空を見つめたビオラは「あぁ!」と思い当ってゴールドグラスに答える。


「美味しかったですよ。久しぶりのお肉だったんです!」


 弾むように言うビオラの姿を見て相好を崩してゴールドグラスは「よかったです」と言い、「では」と再びキャラバンに向かって歩き始めた。


 ゴールドグラス一行を見送ったビオラは「あれ?」と、口にして首を傾げた。


「なんでゴールドグラスさんがロバの事知ってるんだろ??」




 ビオラの巣から離れたゴールドグラスは「よかったよかった」と機嫌よく言った。


「シルバーフルーツ女王から簡単な援助と様子見を頼まれたけど、お二匹とも無事だったし、巣の再建も順調そうね。 イクシア様もシルバーフルーツ女王が自慢なさるのも分かるほど利発なお子様のようですね」


 と、そこまで言って「でも、」と続ける。


「食料がやっぱり不安よね。 もう一回、ロバいっとくか」


 ゴールドグラスはロバ三頭から荷を下ろさせ、その三頭の尻を叩いてビオラの巣のほうへと追い立てた。


「ビオラ様。 お肉、いっぱい食べて頑張ってください!」


 いい笑顔でゴールドグラスは巣の方角へ激励の言葉を贈るのだった。

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