第20話 ビオラ&イクシア、巣の再建を始める

「さぁ、まずは巣の再建ね」


「はい!」


 ビオラとイクシアは焼け落ちた倉庫と勉強部屋の壁を見ながら言い、さっそく修復作業に取り掛かった。二匹での作業のためにそれほど時間をかけずに作業は完了した。


「次に巣の防御態勢を整えないとね。二度とあんなことあっちゃダメだし」


「壁磨き?」


「そうね、壁があんなに脆くなければ燃え広がるのも時間がかかっただろうし、壁磨きで耐久力を上げるのは必須ね。 でも何より問題なのは――」


 ビオラはバラ園の一角を悲し気に見つめる。


「リッチフラワーとビーンスプレーも燃えちゃった。 リッチフラワーはまだ育て方知ってるけど、ビーンスプレーのほうは勉強中だったのよね。 参考書も勉強机と一緒に燃えちゃったし、どうしよう…… このままだと何かに襲われたときに対処しきれないかもしれない……」


 今まで防衛はほとんどビーンスプレーに頼りきっていたビオラは絶望して顔色を青くして言う。そんな母親の服の袖をイクシアは引きながら「お母さま」と呼びかけて見上げる。


「わたし、ビーンスプレーの育て方知ってます」


「………………え?」


「引きこもってた時に勉強机の上にあった参考書は読み終わりました」


「……え?マジで?」


 イクシアが引きこもっていたといっても、そんなに長時間こもっていたわけではない。少なくともビオラが勉強に費やした時間よりは短かったはずだ。それでもビオラは参考書の半分程度しか理解していなかったような気がする。もともとの頭の出来が違うのだろうか。


「うん。 コーンスプリンクラーとシュータスの育て方も分かるよ」


 コーンスプリンクラーとは、トウモロコシによく似た魔法植物で敵を発見するとトウモロコシ本体を発射し、着弾と同時に実の一粒一粒が破裂して周囲一帯を破砕するというクラスター爆弾に似た危なっかしい魔法植物である。


 そしてシュータスというのはサボテンによく似た魔法植物で、手のように枝分かれした部分に射撃武器を持たせておくと自動で敵を攻撃してくれるというものである。ビビが武器をもって撃つよりもリロードに時間がかかるのは難点だが、常に周囲を警戒させておくことが出来、持たせる武器によっては攻撃にバリエーションができるというのが利点である。


「よくやった!さすがわたしの子!!」


 ビオラはイクシアを抱き上げて褒めた。「えへへっ!」とちょっと得意げに嬉しそうにイクシアは笑っていた。


「じゃあ、魔法植物のお世話はイクシアに任せていいかな?」


「いいとも~!」


 おーっ!といった感じで手を高々と上げて同意したイクシアを地に下ろしてビオラは彼女の頭を撫でた。


「じゃ、お母さんは壁磨きをメインでお仕事するわね」


「ねぇねぇ、お母さま。 巣の拡張も考えませんか?」


「え? 拡張? 今のところ広さは十分だと思うけど?」


「あのね、寝室が巣の外側の小部屋っていうのが危険だと思うんです。だから倉庫と同じサイズの大部屋を作って、これから産まれてくる妹たちも含めてみんなで寝られる場所を巣の内側に作るべきだと思うんです。 あと、小部屋の一つを早めに調理部屋にすべきかなって。壁を磨いて床を貼って綺麗にしておけば食中毒の危険も減ると思うんです。この前お母さまが凄く苦しそうだったし、巣のあちこちであんなに盛大に吐かれると掃除が大変なんです」


 うん、この子、わたしよりも頭良いわ。とビオラは思った。そして娘が最後に放ったまったく悪気のない一言にビオラの胸はガッツリえぐられた。


「う、うん、そうね。 そうしましょう」


 二匹はさっそく二手に分かれて作業を始めた。ビオラは巣の壁磨き、イクシアは倉庫から材料を持ってきて魔法植物育成用のプランターを二つ作った。以前にビオラが作ったプランターも焼け落ちてしまっていたからだ。以前のプランターは結局何も作らず終わってしまった。


 イクシアはマナ肥料をたっぷりとプランターにき、リッチフラワーを育てる予定のプランターには大量の花粉を、ビーンスプレーを育てる予定のプランターには大量の薬草を混ぜ込む。と、そこでビーンスプレーに必要な薬草が少し足りないことにイクシアは気が付いた。


「お母さま、岩場のヒールルートを刈り取っていいですか?ビーンスプレーを育てる土づくりにちょっと足りません」


「いいよ~。 そろそろ育ちきってる時期だと思うから全部刈り取っちゃって。薬草は備蓄がないと困るし」


「は~い!」


 ビオラに許可をもらって岩場に向かったイクシアは成熟したヒールルートを刈り取り、あと地に再びヒールルートの種を植えた。


 刈り取ってきた薬草をビーンスプレー用のプランターに混ぜ込んだイクシアはポケットから”未確認の種子”を取り出すとそれぞれのプランターに植えた。


「よし!出来た!」


 満足そうな顔で汗を拭ったイクシアは「お母さま、お手伝いします!」と壁を磨くビオラの許へ駆け寄っていった。

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