第18話 ビオラ、メンタルブレイクする
「お母さん!大変! ビオラちゃんの巣が!」
偵察に出ていたビビの一匹がシルバーフルーツ女王の前に駆け込んだ。
「いったいどうしたの?」
「えっと、ビオラちゃんの巣が… って、あれ?」
駆け込んできたビビは女王の間の隅で、やつれて青い顔になりグッタリと横になっているミケルを発見した。
「え? あれ、どうしたの?ミケル姉さん」
「ミケルはいいから報告をしなさい」
「あ、はい」
女王に促されたビビはビオラの巣に起こった不幸を報告した。ビオラが新たに子供を産み、その子が産まれてすぐに火に飲まれて死んでしまったことに女王はひどく心を痛めたようだった。
「そう、そんなことが……」
「……はい」
「こう言ってはなんだけど、わたし達ビビにとっては巣の存続が最優先。働きビビに犠牲がでるのは仕方がない…… だけど今回はまだ産まれたばかりの子… 悲しいわね…… でも女王としては娘達の死には慣れなくちゃね。 …慣れたくはないのだけど」
目頭を押さえる女王。そして周囲のビビ達もしんみりとした様子。
「ビオラの様子は?」
「はい、かなり落ち込んでいる様子で……」
「そう。 イクシアちゃんは?」
「イクシア…ちゃんもショックを受けているようです。なにせ産まれたばかりの妹を失ったんですから……」
「そうね… そうよね。 イクシアちゃん……ぐすっ…」
目に涙を浮かべ、口元を抑えて女王は立ち上がる。
「わたしは少し休むわ。 引き続きビオラたちの様子を見守って頂戴」
「はい」
女王もショックであったようで、フラフラと自室へと向かう。その憔悴した背中を娘のビビ達は心配そうな表情で見守った。
女王は部屋に入りドアを閉めると、入り口横にある台座の上に鎮座している最新のイクシア像の頬にキスをする。これが、女王の入室時のルーティンになっていた。
「イクシアちゃん… 可哀そうに……」
女王の視線の先、部屋中には無数の等身大イクシア像があった。様々なポーズ、様々な衣装を着せられた大理石で出来たイクシア像の数々。赤ん坊の頃から現在の姿まで各成長段階でのバリエーションも豊富である。
ボフンと女王はベッドに転がると、抱き枕用のイクシア像を引き寄せて抱きしめる。ちなみにこれも大理石製である。痛くはないのだろうか。
「頑張って、イクシアちゃん。 ばぁばは応援してるからね」
力強く抱きしめ、女王は石像に頬ずりするのだった。
その頃、ビオラはというと、倉庫の片隅で壁にもたれかかり焼け落ちた一角を見つめていた。
バン族の男を撃退したビオラだったが、巣に戻るなり倒れるように眠ってしまった。仕方がない、徹夜での消火作業のあとの長時間の戦闘である。体が悲鳴を上げていたのだった。
そして目が覚めて体の疲れが取れると、今度は精神面でのダメージが彼女に襲い掛かる。娘を失ったショック、それも自分が対策を怠らなければ防げたのではという思いが彼女を攻め続けた。
追い詰められ、過食症に陥ったビオラは目につく食材を口にした。その中に以前食中毒になったイグアナ肉の料理もあり、再び彼女は食中毒になってしまった。
長時間、巣の中いたる所をフラフラと歩きまわりながら食べては吐き散らかしてを繰り返していたビオラだったが、ようやく食中毒の症状も過食症も収まってきたところだった。しかし娘を失った悲しみと後悔は埋まらない。
ビオラは見つめていた焼け跡から視線を下におろした。倉庫内に積まれた物資の中に、以前襲ってきたババァが落としていったタバコがあるのを見つけて手に取ると、ビオラは口にくわえてライターで火を付けた。
ごほっ、ごほっと、初めてのタバコに
そんな母親の様子を寝室のドアの隙間からイクシアは心配そうに見つめていた。イクシアもまた精神的に追い詰められてはいた。しかし彼女は母ビオラが吐き散らかした吐瀉物の掃除や、崩れた部屋や倉庫の瓦礫の掃除と、何かやることを見つけて一生懸命取り組むことで悲しみを少しでも和らげようと本能的に行動していた。
おかげで心を壊すことなく、母親の様子を心配することができる程度には余裕を持つことができた。もちろん、妹の死は悲しかったし責任も感じていた。しかしそれ以上に母親の様子が心配であったのだ。
「お母さま……」
そっとドアを閉じたイクシアは決意に満ちた表情で寝室の、昨日まで妹が寝ていた崩れた一角を見て言った。
「わたしが何とかしなくっちゃ!お姉ちゃんだもんね」
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ビオラがメンタルブレイクして手にしたものはゲーム内ではジョイントという表記で、大麻?なのか麻薬の一種と思われます。ので、さすがにマズいと思い、この物語中はタバコとさせていただいております。
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