第15話 イクシア、大地に立つ
イクシアがもうすぐ立って歩けるようなる。働きビビは歩けるようになるとすぐに掃除や雑用などの簡単な仕事は教えればできるようになるのだ。子守も出来る。というわけで、ビオラは新しく卵を産むことにした。
スヤスヤと子供用ベッドで眠るイクシアの横で孵卵器に跨ったビオラはスカートを下ろす。赤ん坊の横で「ふんぬぅっ!!」と劇画調の顔つきで踏ん張るこの状況は絵面的にどうなのだろうか。絵面はともかく無事にビオラは産卵を終えた。
「ふぅ… すっきり…じゃない、無事に産めたわ。 さて次は木綿の収穫ね」
木綿はイクシアの成長になんとか間に合った。間に合ったとはいえまだ木綿は未成熟であるために収穫量は少なかった。しかし、娘の裸体を例え神の目にとはいえ晒すわけにはいかない。
外に出たビオラは木綿を収穫し、裁縫台に持っていきベビー服を作成し始めた。
「出来たぁ! うんうん、結構いい出来! そうだ、ついでに成長後の作業服も作っておこう」
木綿もまだ余っている。成長したイクシアの服も作っておこうと作業を開始した。可愛い娘のため、可愛い服を用意してあげたいところだがお洒落な服はビオラの知識では作れそうになかった。
娘のためにも今度裁縫の勉強をしようと思うビオラだったが、今はとりあえず自分が着ている作業服と同じものを作る。とはいえ、この作業服も一般的に見れば可愛らしいデザインではある。
途中、イクシアの面倒や、昼食を挟んで裁縫を続けたビオラは「よっしゃ、出来たぁ!」と出来たばかりの作業服を掲げて眺めた。
「まだ木綿残ってるなぁ、せっかくだし使い切っちゃうか。 自分の服でも作ろうかな」
もう一着、作業服を作ろうか。そう思ったところでビオラは良い考えを思いついた。自分はすでにこの巣の女王なのだから女王の服を作ろうと。
「いい考えだわ! 女王らしい威厳も必要だしね! お母さんの服をモデルにすれば作れそうだし!」
早速と、ウキウキ気分で女王服の制作に入ったビオラ。ちょっと熱中しすぎて日が沈んでからも作業に没頭していたのもあり、その日中に女王服は完成した。
「出っ来たぁ!! いいっ! いい感じよ!! 早速着てみよう!」
作業服を脱いだビオラは女王服に袖を通そうとする。
「ん? あれ? え? まさか? うそ? 着れない???」
母親のサイズで作ってしまったため、成長が不十分で少女サイズのビオラは着ることができなかった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ! ミスったぁぁぁぁぁぁっ!! 木綿も使い切ってもうたぁぁぁっ!!」
(ゲームシステム的に本当に着れませんでした。”女王ビビ”の性質を持つビオラなので着れると思って作ったのですがダメでした。たぶん、体格が小さいという初期設定のせいかと思いますので、この先女王ビビが誕生すればその子は着れるはず……だよね?)
「うぅ… やっちまったよ。 これは未来の女王になる子のためにとっておこう…」
そう呟いたビオラは泣く泣く女王服を綺麗に畳んで倉庫の隅にそっとしまった。
その数日後、ついにこの時がやってきた。
「イクシア! たっち出来るようになったのね!!」
「あい! おかぁたま!」
ほとんど同時に会話も出来るようになったイクシアは、真新しいベビー服を着て手をあげ、ピンッと背筋を伸ばしてビオラの前に立った。銀色の長い髪の真面目そうな子である。
「おかぁたま、いくしあ、おてつだいすゆ」
「なんていい子!! …ホントにわたしの子??」
ビオラは胸に手を当てて感動しながらもちょっとだけ疑問に思った。が、確かに自分の子である。
「じゃあ、今のイクシアに出来そうなお掃除と、あとは蜜の採取を覚えてもらおうかな。 でもその前にまずは巣の中の案内ね」
「あい!」
「まずここが寝室よ。 ねんねする所ね。あ、イクシアも大きくなったし子供用ベッドじゃ小さいわよね。 あとでお母さんと同じベッド作っておくからね」
「あい!」
イクシアの元気な返事を聞いて、うんうんと頷いたビオラは寝室と倉庫が繋がるドアを開ける。「こっちが倉庫よ。 ここから今ある全部の部屋に繋がってるの」と説明する。
「で、こっちの部屋がおトイレで。 あっちがおトイレに溜まった汚物を溜めておく部屋ね。今度、汚物燃やす焼却炉作んないとね。溜まってるばかりだよ」
「ほー!」
「そんで、ここが勉強部屋ね」
ビオラが案内した勉強部屋には勉強机と椅子、灯りのみの部屋で机の上には”アホの子でも分かる!攻撃魔法植物の育て方”が開いたまま放置されていた。
ここ数日、蜜の採取に枯れたバラの植えなおし、そして子育てとまったく勉強するゆとりのなかったビオラである。しかしイクシアも成長し、次の卵の孵化までは子育てから解放されたため、これからは身を入れて勉強できるはず…である。
「おー! おべんきょう!」
目を輝かせるイクシアを見てビオラは、この子は勉強に興味があるのかなと思った。
「おかぁたま、おべんきょう、しゅごい!」
「ま、まーね。 暇さえあればお母さんはいつもお勉強してるのよ! 凄いでしょ!」
腰に手を当ててガッツリ嘘をついて娘に見栄を張るビオラ。純粋無垢なイクシアは「おー!」と目を輝かせて信じるのだった。
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