第13話 ビオラ、建国を宣言する
ビオラはイクシアを抱いて、ちょっと涼しくなった夕方の砂漠を散歩していた。そして娘の顔を覗き込みながら言う。
「娘も産まれて、もうわたし一匹じゃないのよね」
嬉しさがこみ上げてくる。それと同時にゴールドグラスに言われた言葉も思い出された。
「そうだ、もう一匹じゃないんだからこの場所の名前を決めないと…」
なんて名前にしよう。そう思いながら、実家の巣の名前は母が白い百合の花が好きだったことから”白色の巣”と呼ばれていたことを思い出した。巣の周りは一面が白い百合の花で満ちていたのだ。
そして国の名前は母の名前そのままのシルバーフルーツ王国だった。
「国の名前はそのままビオラ王国かな? でも、まんま過ぎるからちょっと捻りたいよなぁ」
そして巣の名前も同時に考える。”砂漠の巣”とかでは面白くない。では自分の好きなバラからとって”バラの巣”とするか? ちょっとしっくりこなかった。
巣の名前。これから自分がどうしていきたいのか、それを表すことが出来たらいいかもしれない。そう思いついたビオラは自分が何をしたいのかを思い出す。
そう、以前想った理想郷。砂漠の中にある緑の大地。まるでオアシスのような。
「そうね、オアシス! ここはわたしと、わたしの子供たちのための緑豊かな大地。そしてゴールドグラスさんやマロニさん達みたいに色々なお客さんが訪れる砂漠の中のオアシス! ここはビオランド王国! オアシ巣よ!! イクシア、頑張ろうね!」
「あぅ! きゃう!」
ビオラはイクシアを抱きかかえて砂丘の上に立ち、声高々と建国を宣言した。イクシアもビオラに応えるように声を出して笑った。
充実したそのビオラの姿を砂丘の陰からたまたま偵察に来ていた姉ビビの一匹が見ていた。
「だっさっ…!! 名前、ダサい…」
センスがねぇ…と、頭を抱えた姉ビビは報告のためにシルバーフルーツ王国へと帰還した。
数日後、姉ビビの報告を受けた女王は椅子からズリ落ちながら「センス… ウチの子のセンス……」と呟く。が、報告の中のあることを思い出して姉ビビに確認する。
「ビオラ、子供産んだの?」
「はい」
「名前は?」
「イクシアと呼んでました」
「イクシア… イクシアちゃん……」
わなわなと震える女王の様子に何事かと思った姉ビビは「そ、そうですが…」と恐る恐る返事をする。
「孫… 初孫……」
「え? あ、まぁそうですね。 お母さんからみたら孫ですね」
「今すぐ輸送ポッドの準備を…」
ぼそりと呟くように下した命令を聞き取れなかった姉ビビは「は?」と聞き返す。すると女王はクワっと目を見開き声を張って指示を出した。
「輸送ポッドの用意を! イクシアちゃんの!イクシアちゃんのお誕生日プレゼントを送らなきゃ!!」
誕生日は次の年から祝うものであって、産まれたときは出産祝いだろうと姉ビビは心の中でツッコミをいれたが、女王としては娘ビオラよりも孫のイクシアを主体で祝いたいのだろうと解釈した。
「お母さん、あからさまな支援はしないんじゃなかったでしたっけ? それにプレゼントなんて送ったら偵察してるのバレますよ」
姉ビビは冷静に女王に忠言するが、当の女王は「どうしましょ? 何を送ったらいいのかしら? 可愛らしいおべべを送るべきかしら?それともベビーフード? そうよ、沢山食べて元気に育ち――」と少々錯乱気味であった。
「お母さん! ちょっと落ち着いて!」
「はっ…! ごほん… 輸送ポッドにベビーフードを詰め込んで飛ばしなさい」
「いや、ですから、プレゼント送ったら偵察してるのバレますって」
「くっ… メッセージカードは諦めるか… では、輸送事故に見せかけてビオラの巣の近くに落とすのです」
「ベビーフード満載の輸送ポッドをですか? いったい誰が何のためにそんなものを飛ばしてたって状況なんですか? さすがに怪しいですって」
「……なんとか、なんとかしなさい」
「へ~い」
もういいや、バレてもいいからそのまま飛ばそうと、半ばやけっぱちになった姉ビビだった。
「それともう一つ。 芸術方面に才能のある娘って誰かいたかしら?」
「芸術ですか? でしたら、ミケル姉さんが芸術特化の働きビビですけど?」
「すぐに呼んで頂戴」
「は~い」
しばらくしてミケルという名のベレー帽を被った働きビビがやって来た。
「お呼びですか、お母さん」
「ミケル、あなたは今すぐビオラの巣まで行きなさい。 そして、そこでこっそりと産まれたばかりのイクシアちゃんを観察するのです」
「は? え? イクシアちゃん?」
「そうです、ビオラが産んだ子です。つまりはわたしの初孫なのです! わたしはイクシアちゃんに会いたい!しかし女王たるわたしは巣を空けるわけにも、追放したビオラに孫を連れて会いにくるように言うこともできません。ですからミケルにはイクシアちゃんをよく観察してきて、彫刻として芸術としてイクシアちゃんの姿を象り、わたしにイクシアちゃんの姿を見せてほしいのです!」
「えぇ… やだなぁ。 砂漠なんて行きたくないし。 お母さんの初孫ったってイクシアも働きビビなんでしょ?別に――」
ミケルの言葉を聞き、女王は目をクワっと見開き彼女を睨む。その迫力にビクッと肩を跳ねさせたミケルは汗をダラダラ流しながら女王の言葉を聞く。
「ミケル!最重要の命令です、行きなさい!! そしてイクシアちゃんを呼び捨てにすることはなりません!きちんとイクシア”ちゃん”と敬称をつけるのです!」
”ちゃん”付けは敬称なのか?と心の中でツッコミを入れたミケルだったが、隣に控えていたビオラの現状を報告していたビビがミケルに耳打ちをする。「ちょっとハイになってるから言うこと聞いとけ」と。
「……わかりました」
仕方がないといった感じで返事をするミケル。女王は満足そうに頷き、「一つ目の彫像は早急に仕上げて持ってくるように」と命令を下す。
「は~い」
返事をして退出したミケルは歩きながら気が付いた。
「え? 一つ目??」
何体作らされるんだろうと、重い足取りでミケルは砂漠へ向かった。
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