第12話 娘、誕生する

 ここ数日、ビオラは30分ほど勉強しては寝室に戻って娘(卵)の様子を見て癒され、また勉強しての繰り返しであった。

 あとは日課の蜜採集。これを怠るとマジで死んでしまう。


 そして参考書の内容も半分ほどを消化したところで、ついに念願の瞬間がやって来たのだった。


 ピシッ…


 ビオラの見守る前で、卵の殻に小さなひびが入る。


「頑張れ!頑張れ!」


 緊張の面持ちで、胸を高鳴らせながら応援するビオラ。そして……


「おぎゃぁ~! おぎゃぁ~!!」


「産まれたぁ! やったぁ!」


 喜んで産まれたばかりの赤ん坊を抱き上げたビオラは直感した。この子はきっと、優しい子になると。


 次世代のビビは母世代の遺伝子に何か違った遺伝情報を持って生まれてくる。その遺伝情報は優劣があり、女王ビビは子供の才能を感じ取って次の女王として育てるのかを判断するのだ。


 今回産まれた子は、ビオラが”優しい子になる”と感じ取ったように、遺伝情報の中に【非暴力】という遺伝子を持っていた。これは本能的に暴力を嫌い、敵を相手にしても格闘攻撃も射撃攻撃も出来ないというものであった。


 そのため、次世代の女王としては向いていない。もしこの子が女王となって卵を産んだ場合、そこから生まれてくる子はほとんどが【非暴力】を持って産まれてくるからである。


 ただ、こういったデメリットの目立つ遺伝情報を持つ場合は空腹率が低く、食事量が少なくて済むというメリットがある。逆にメリットの大きい遺伝情報を持っていると空腹率が高く、食事量がとんでもないことになるため、一概に優秀な遺伝情報ばかりを残していくというのもマズいのだ。


 ビオラは産まれたばかりの子に頬ずりをする。


「無事に産まれてよかったぁ、初めてだからドキドキしてたのよ。 あのね、あなたの名前は決めてたのよ。イクシア、あなたの名前はイクシアよ!」


 イクシアを抱いたままベッドに腰かけ、慈愛に満ちた笑顔で覗き込む姿は、まぁ一応は母親らしくあった。


「そうだ、ご飯をあげないとね。 お腹すいてるでしょ?」


 そう語りかけ、孵卵器の横にあらかじめ作っておいたベビーベッドにイクシアを寝かせると倉庫に花粉団子を取りに向かう。ビビの赤ん坊はベビーフード代わりに花粉団子を食べることができる。もちろん普通にベビーフードを食べても構わないし、そちらのほうが食材のコストが少なくて済むのだが、ビオラは花粉団子があるんだからそれでいいじゃんという面倒くさがりの思考でいた。


 倉庫に向かうビオラはあることを思い出してハッとし、足を止める。


「花粉団子… 全部食べちゃったじゃん!」


 そう、追放されてからの数日間、何も考えずに花粉団子をバクバク食べていたビオラによって、花粉団子はとっくの昔に彼女の胃に納まり消化済みであった。


「やばいっ!早く作らないと! イクシアがお腹空かせてるのに!!」


 焦ったビオラは花粉と蜂蜜を抱えて調理場である焚火に向かった。ここで別に花粉団子じゃなくベビーフードを作ってもよかったのだが、焦っていたビオラ(と筆者)にはそんなまともな思考はスッポリ抜け落ちていた。


 花粉団子を作り終えたビオラはダッシュでイクシアの許に戻ってくると、彼女を抱き上げ、口元に小さくちぎった花粉団子を運びながら「出来立てでちゅよぉ~、出来立てで美味しいでちゅよぉ~」と言い訳のように”出来立て”を強調しながら食べさせた。


 お腹が膨れたのか、イクシアはスヤスヤと眠りについたようだった。ビオラは、フゥ…と息を吐いてベッドにどかっと座り込む。


「あ~、焦ったぁ。 でもよかった、ちゃんと食べてくれて。ふふっ、可愛い寝顔ね」


 うっとりとイクシアの寝姿を見ていたビオラは急にぶるっと体を震わせた。


「あっと、緊張したからおしっこしたくなっちゃった… おしっこ…… あっ!トイレ作らなきゃ!」


 ビオラは今まで一匹でいることをいいことに、排便はすべて砂漠の砂の上で済ませていたのだ。用を足した後はちょちょっと砂を掛けるだけでいたのだが、流石に今後、娘の前でそんなことするのはマズいし、マネされても困る。(ちなみに、トイレ制作とキャラがトイレに行きたいという欲求はMODによって追加されたものです)


「イクシアが歩き出す前にトイレを作らなきゃ!」


 そう決心したビオラだったが、とりあえず今は仕方がないと砂漠の真ん中でシャーっと済ませ、ペペっと足で砂を掛けた。


「くっ… 結構、開放的でよかったんだけど。 これも娘のため仕方がない」


 若干残念に思いながら、巣に戻ったビオラは空き部屋の一つにトイレを設置した。


 ついでに寝室にテーブルと椅子を設置した。これでようやく地べたに座っての食事から卒業である。娘にはちゃんとテーブルで食事してほしいと思うビオラだった。

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