第11話 ビオラ、勉強を始める

「うふふふ… うちの子、なんて可愛いのかしら」


 今日も朝からベッドに横になり、隣の孵卵器の卵を愛でるビオラ。しかしそんな彼女の目を覚まさせるような出来事が起こる。


 ドドドドドドドドドッ!!!


 突然の地響きに驚いてベッドから飛び起きたビオラは、何事かとドアを開けて外を見る。そこには五匹のレッドドラゴン(ドラゴン追加もMODです)が地響きと砂煙を巻き上げて移動しているのが見えた。


「ひぃえぇぇぇぇぇっ!! どうしよ、どうしよう!!!」


 ビオラは慌てるが、彼女の心配をよそにレッドドラゴンの群れはビオラの巣から少し離れたところを通り過ぎていった。


「こ、怖ぁ… あんなんビーンスプレー程度じゃどうにもならないよなぁ」


 そこでビオラは巣の防衛体制について考えることにした。さすがにドラゴンの群れ相手では絶望的であるが、今後、襲い掛かってくる強力な敵が現れないとも限らない。しかも彼女には守る者も増えたのだ。


「クリーム状の壁を磨いて巣の強化と、あとはビーンスプレーの増産か…」


 どっちを先にするか、まずはビーンスプレーを植えて育っている間に壁を磨く。そんな構想をビオラは考える。


「そうよね、まずはビーンスプレーよね。 壁磨きは時間がかかるし、ビーンスプレーで巣に取りつかれる前に殺ってしまえば問題ないし」


 ビオラは早速、倉庫からマナ肥料と蜜蝋を持ってきて屋外に魔法植物専用のプランターを作成した。そしてハッと気が付く。


「わたし! ビーンスプレーの作り方知らない!!」


 勉強をサボっていたツケがこんなところでまわってきてしまった。リッチフラワーをはじめとする基本的な魔法植物の育成方法は知っていたがために、ビーンスプレーも出来ると思い込んでいたビオラ(と筆者)は戦闘用の魔法植物はカテゴリが違うことにこの時気が付いた。


「あかん! 勉強しないと!」


 声をあげたビオラは倉庫へと駆け込むと、例の”研究資料”とかかれた荷物の前に立つ。


「こ、これか… 最初はお母さんの嫌がらせか何かかと思ったけど、たぶんこういうことを想定してたのよね。そうよね、きっと」


 ちょっと母の愛を感じつつ、ビオラは荷物を開封する。そこにはびっしりと参考書が詰まっていた。


「えっと、”ぺミカンの作り方”じゃない。 ”電気工学基礎”なんじゃそれ。 ”はじめて育てる上級魔法植物”惜しい! ”図解!マイクロエレクトロニクス”なんかの呪文かなにかか…? あ、あった!これだ、”アホの子でも分かる!攻撃魔法植物の育て方” お母さん!タイトルに悪意!!」


 さっき感じた母の愛は錯覚だったのか。しかし、アホの子でも分かる内容なのは正直助かると思うビオラは本を片手に倉庫を出る。そして気が付く。


「勉強机がない! というか、まだ机と椅子すら作ってない!」


 なんてこったと思いながら、ビオラは空き部屋の一つに勉強机(研究机)と椅子を設置しようと蜜蝋を運び出す。チャチャっと作り終えたビオラは肩を落として呟く。


「まさかこのわたしが、食事用のテーブルより先に勉強机を作ることになるとは… 明日は嵐になるのでは…?」


 不吉なことを呟きながら早速、作ったばかりの勉強机に参考書を広げる。これまた作ったばかりに椅子に腰を下ろして参考書のページをめくるビオラは、やがてパンッと勢いよく参考書を閉じて立ち上がった。


「ダメだ! 長時間は気が狂う! 何か気晴らしを!」


 まだ勉強を始めて三十分も経っていなかったが、限界を感じたビオラは癒しを求めて娘(卵)の許へと向かう。


「はぁ… 孵るのが楽しみだわ… そうだ!この子のためにベビー服を作らないと!」


 まだ孵ってもないのにちょっと気の早い、突然の思いつきだったが、勉強と裁縫を交互に行えば気もまぎれる良い考えだとビオラは倉庫に向かう。蜜蝋を引っ張り出してきて、あっという間に裁縫台を作ってしまった。


「さてと、愛しの我が子のためにベビー服を………… あ!」


 材料がない。先日、ロバの皮をマロニに売ってしまったために裁縫に必要な材料が何もなかった。


「し、しまったぁ…」


 でも考えようによってはベビー服をなめし革とかで作るのはどうかと思うビオラ。ゴワゴワしそうだし、そう思うと売ってよかったのかな??と気を改めた。


「とにかく木綿の栽培を始めないと。 このままだと幼女が裸で砂漠を走り回る事態に!」


 誰が見てるわけでもないけど、そんな事態は回避せねばとビオラは巣を飛び出してバラ園を見る。リッチフラワーの効力によってバラが植わっているところよりも外側も僅かに土壌が改善されていた。そこへビオラは木綿を植えていく。


「よし、とりあえずはこれでOKね!」


 これで娘の裸を神の目に晒す事態はまのがれたと、ホッと胸をなでおろしてビオラは巣に戻った。


 木綿の成長速度を考えると、この時点でベビー服制作に着手しようとしたのは決して気が早いことではなかったようだった。

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