第8話 ビオラ、母に感謝の念を送る
”丘に住む民”と通称されている獰猛なバン族出身の女が旨そうな匂いに誘われるようにビオラの巣に近づいていく。
ビオラはというと、女に背を向けて焚火でロバ肉を炙っていた。「ふんふんふ~ん♪」とご機嫌に鼻歌を歌う彼女は背後に近づくバン族の女に気が付いていない。
バン族の女はニヤリと笑い、棍棒を振り上げてビオラの脳天に振り下ろそうとした。その時。
ダダダッ!
バン族の女の殺気に反応したビーンスプレーが一斉に豆を吹く。予想外の方角から突然撃たれたバン族の女は「ぐっ! なにぃ!」と撃たれたほうを振り返った。しかしそこには誰もいない。
ビーンスプレーの射撃音に気が付いて「ん?」とビオラは振り返ると目の前には暗がりの中、焚火の灯りに照らされた血まみれのバン族の女。ビオラは「しょえぇぇぇぇぇぇっ!!」と大きな悲鳴を上げる。
バン族の女が敵の射撃位置を確認するため振り返った隙をついて一目散に寝室に飛び込んで鍵を閉めた。
バン族の女からしてみれば、無抵抗で逃げるだけのビオラに構っている暇はない。自分を撃った相手を見つけて対処しなければと、そう思っているところに次弾が発射されて傷を増やす。そこでようやく彼女は気が付いた。
「魔法植物! ということは、あれはビビか!? なぜこんな砂漠に居る!?」
常識から考えてビビはこんな不毛な地にいるわけがなかった。通常、ビビは緑豊かで温暖な地域を好むはずだ。間違っても砂漠に巣作りするわけがない。
「くっ… ぬかったわ…」
先ほどのビーンスプレーの攻撃で立っているというのがやっとという状態になってしまったバン族の女は、逃げなければと思うもふらふらとして思うように動けない。その間にも次弾装填を終えたビーンスプレーは、銃口をバン族の女に向ける。
「くそがっ…」
絶望の表情で呟くように発したその言葉が、バン族の女の最期の言葉となった。四株のビーンスプレーから一斉に発射された豆は、避けることのできない女の体を次々に撃ち抜きズタズタにする。豆の当たった衝撃で四肢が動く女の体は、まるで踊っているかのようであった。
ドサリ… 女の体が地面に倒れた音を聞き、ビオラはカタカタと震えながら寝室のドアを少し開けて、「お、終わった…?」と誰に聞くでもなく確認した。
「ビーンスプレー様様だね。 この子たちがいなかったら、わたし何回死んでんだろ?」
考えるだに恐ろしい。ビーンスプレーを大切にしよう。そして、ビーンスプレーを持たせてくれたお母さんありがとう!と感謝の念を母に向かって飛ばすビオラだった。
「とりあえず、死体は見たくないからいつもの場所に」
そう言ってビオラはバン族の女の死体を引きずって、以前ババァの死体を捨てた場所まで行った。
「あ、骨になってる。 イグアナも」
ババァとイグアナの死体は骨になっていた。
「あ~、そうだ。 蜜の採取のときに花粉も一緒に取れたから、この骨と混ぜてマナ肥料も作ろうかな。 安全のためにもビーンスプレーを増産したいし」
マナ肥料は魔法植物を育てるのに必要なものである。これは花粉と有機物を混ぜて作ることができる。有機物なので肉や野菜と花粉を混ぜても作ることはできるが、それらは食料になるために現状では骨で作ったほうがよさそうである。
「ふぅ…よかった。 これで襲ってきた人型の種族の死体処理問題は解決ね。 倒したらしばらく砂漠に放置して乾いて骨になったら肥料にする! さすがに似た見た目の種族を食肉として捌くのは嫌だしね。食べたくないし」
世の中にはそんなこと気にしない【食人嗜好】とか【サイコパス】なんて人達もいるのだが、ビオラはそんな特徴を持っていない。やはり彼女も一般的なビビ達と同じように、自分と近い見た目の種族をどうこうするのには嫌悪感を感じていた。
ビオラは散らばっている骨を拾い集め、寝室の作業台に持ち帰ると倉庫から花粉を持って来て肥料作成にはいる。
「終わった終わった。 じゃ、倉庫にしまって…って、あ…」
倉庫拡張のことをビオラはすっかり忘れていた。
「ま、まだ今日は時間あるわね。 じゃあこの流れで蜜蝋制作に入りましょう」
作成したマナ肥料を倉庫に持っていったついでに、昨日大量に作成したビビクリームを持ってきて、作業台で捏ねはじめた。白いビビクリームが徐々に色を薄黄色に変えていき、やがて蜜蝋が完成した。
「さてと、今日中にクリーム使って壁だけでも作っておこうかな。 蜜蝋のドアは明日にしよう」
クリームを持って建設予定地にペタペタと壁を形作っていくビオラは、彼女の【職人気質】の特性もあって思いのほか早く作業を終えていく。熱中しすぎたビオラは当初作成予定だった大きな倉庫の他にも、その倉庫の周囲を囲む小部屋の壁まで作ってしまった。
「はっ…! つい熱くなりすぎた!」
出来上がったのは、大きな倉庫を中心に、以前から倉庫として使っていた小部屋、寝室、新たに四つの小部屋が連なった六角形のかたまりのような構造の巣であった。ただし、まだドアはない。
「なんか… わたしの巣も立派になってきたねぇ」
ちょっと感動しながら、ビオラは満足してベッドに横になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます