第7話 ビオラ、入れて出して入れる
朝、外の物音で目が覚めたビオラは「ん? なんだろう?」と寝室のドアを開けた。そして叫んだ。
「きぃぃぃやぁぁぁぁぁっ!! ロバぁぁぁぁぁぁっ!!! 今度はてめぇかぁぁぁぁ!!」
寝室前のバラ園はロバの餌となっていた。モッシャモッシャとバラを食べるロバに向かってビオラは怒りのスリングショットを放つ。
「死ねやこらぁぁぁぁぁっ!!!」
未だ射撃スキル0のビオラであったが、何とロバに命中したのである。しかも当たり所がよかったのかロバはふらついて動きを止めたのだった。的が大きく、ほとんど目の前で発射したのがよかったのかもしれない。
ふらついて倒れそうになるロバに、スリングショットを捨てたビオラが襲い掛かる。恨みの籠った拳を執拗に、執拗に振り下ろしたビオラはロバが動きを止めると、ふぅ…と額の汗と飛び散った頬の血を拭った。
「はぁ… またバラ園が… そのうち壁で囲うのも考えないとなぁ」
やること盛り沢山だよ、とほほ…と肩を落としながらビオラは血まみれで倒れているロバの遺体を見る。
「せっかくだし、捌くか。 食肉加工台を作るために必要な木材もそろそろベンケイチュウが育ってきた頃だし」
ビオラは伐採用の手斧を持ってベンケイチュウを植えた岩場の陰に向かった。
「おぉ!育ってる! よしよし」
ビオラは必要分のベンケイチュウを切り倒して木材として使用できるように加工した。それをもって倉庫の近くまで戻ってくると、倉庫から蜜蝋を取り出す。
「倉庫内は手狭だし、寝室に食肉加工台作って部屋が血で汚れるのも嫌だから、とりあえずは外に作ればいいかな」
と、ビオラは木材で土台を作り蜜蝋で全体を覆って食肉加工台を作成した。
「よっし! さっそくロバを捌くかぁ」
ロバの遺体を引きずって来て食肉加工台の上に乗せると手早くロバを捌いていく。【食道楽】という特性を持ち、食べることに関心があるビオラは肉を捌くのもお手の物であった。
「結構な量の肉と、あと皮が取れたね。 皮はどうしよう?今度、商人さんが来た時に売れるかな? で、さてと次は…」
ビオラは倉庫前に置かれた残った木材を見る。
「肉は蜂蜜と違って腐りやすいからね。 早めに調理して食べないと」
そう言ってビオラは木材を組み、火をおこし始めた。信じられないことに追放されて季節が一つ巡って初めての火起こしである。(このゲームは15日で季節が変わり、春→夏→秋→冬となって一年になります。が、ビオラが居る極限の砂漠は、常夏→常夏→常夏→常夏という特殊な場所です)
今まで火起こしせずに済んだ理由としては、食事は保存がきき、そのまま食べることのできる蜂蜜であったこと。また、昼夜の寒暖差があるとはいえ、冷える夜でも暖を取る必要があるほど気温低下がなかったためであった。(この場所は昼40℃越え、夜12℃前後くらい)
あとは、そもそも木材が無かった。
「出来たぁ! 焼いただけの簡単な料理だけど、お肉だよお肉!」
目を輝かせたビオラは早速と、焼いたばかりの肉を頬張る。
「うんまぁっ!! 久しぶりのお肉ぅ~!お~いすぃ~!!」
ビビは雑食性である。数日に一度は蜂蜜を取らないと体調を崩してしまう性質があるが基本的に何でも食べる。口いっぱいに肉を頬張るビオラは幸せそうであった。
「う~ん、満足満足。 さてと朝ごはん兼お昼ごはんも食べたし、今日の仕事にとりかかりますかなぁ」
お腹をさすりながら、今日は何をしようかと考える。
まずはロバに荒らされたバラ園の再建と、蜜と木材の採取を始めたせいで現状の倉庫では収納しきれなくなる可能性があるから拡張しないと。あとは薬草が売れることが分かったから薬草の栽培を始めたい。そんなことを考えていたビオラは「よし!」と言って方針を決める。
「とりあえずは、バラ園の再建。 あとは時間が余ったら倉庫拡張ね」
そう言うと早速バラ園の再建の再建に取り掛かる。リッチフラワーのおかげで少しずつ広がっていった肥沃な土にバラを植え終えたときには夕方近くになっていた。
「ふぅ… 終わった終わった。 でも夕飯までにはちょっと時間あるわね」
次の仕事である倉庫拡張の下準備くらいはしておこうと、ビオラは倉庫から蜜蝋を取り出して寝室に持っていった。
「さて、建材になるビビクリームと蜜蝋が拡張予定の倉庫のサイズからすると足りないわ。 まずはビビクリームを沢山作らないとね」
ビビクリームはビビ自身から分泌する。そして蜜蝋はビビクリームを固めて作られるのだ。ビビクリームを分泌するためにも、クリームを固めて蜜蝋を作成するにも”ビビ作業台”という台を作ってそこで作業しなければならない。
ビオラは蜜蝋をこねくり回してビビ作業台をパパっと作成して寝室に設置した。そして作業台の前に立つと、覚悟を決めた顔をしながら呟く。
「ビビクリームを分泌。 さっきのお肉が出なければいいのだけど」
そう言うとビオラは作業台の前で深く息を吐き、大きく息を吸って精神を統一すると、二本指を立てて勢いよく口の中に突っ込んだ。
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロォォォォ……!! …おろっ」
口から大量のビビクリームを吐き出した。ビオラが心配していたお肉は出てこなかった。
「……っうぷ… う、上手くいったわ、初めてだったけど。 これ、めっちゃお腹減るわね」
ビビクリームを分泌すると物凄い勢いでお腹が減るのだ。そして、何故わざわざ作業台の前でする必要があるのかという疑問がわいてくるものなのだが、きっと作業台の前で集中する必要があるのであろう。たぶん。
「さっきのロバ肉、もう一回焼いて食べよう!」
人間視点だと、よく吐いた後に食えるなと思うところだが、ビビという種族はこういうものである。
ウキウキとスキップしながら倉庫に向かったビオラは取り出してきたロバ肉を焼き始めた。
ビオラがロバ肉を焼いていたころ。肉を焼く良い香りが風に乗って砂漠を漂っていた。
「……? 肉を焼く匂い??」
よだれを垂らす、ウサギの耳をした人型の種族、バン族(MODでの種族追加)の女性が鼻をヒクヒクさせながら匂いの漂ってくる方角を見つめていたのだった。
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