第6話 商人さん、イイ仕事する

 ビオラは翌日もまた花の蜜を採取していた。というか、取れる量が一日の食べる量プラスアルファ程度しか取れないために毎日採取しないとマズいのだ。


「おっ! これは未確認の種子!」


 蜂蜜と花粉の採取中にビオラは未確認の種子といわれる魔法植物の種を発見した。ビビが育てた植物に極稀にできることがある不思議な種である。この種にマナがたっぷり満ちた肥料と、育てたい魔法植物にあった肥料を加えることで、様々な魔法植物に変化して育つのだ。


 いずれは魔法植物を育てる予定のビオラは未確認の種子をポケットにしまった。と、そこへ遠くから声が聞こえる。本当に久しぶりに聞く他ビビの声だった。


「こんにちは~! 行商人のゴールドグラスといいま~す。 行商の途中たまたま、ホントたまたま通りかかりました~」


「あ、こ、こんにちは。ビオラといいます」


 社交スキル0のビオラはガチガチに緊張して挨拶した。


 ゴールドグラスは、おそらく途中までローヤルゼリーを与えられて育てられたであろう、他の働きビビ達よりも一回り大きかった。サイズ的にはビオラより少し小さいくらい。

 彼女の後ろには数匹の働きビビと数頭のロバが荷物を背にしていた。


「いや~、こんな砂漠の真ん中で巣作りとは。本当に御精がでますね。 高い志の成せる業ということでしょうか」


「高い?こころざし??」


 首を傾げるビオラにゴールドグラスはうんうんと頷きながら「わかっておりますとも、わかっておりますとも」と何やら一匹で納得していた。


「ところで御入用のものはございませんか? お近づきのしるしにお安くしておきますよ」


「あ、じゃあ、とりあえず中へ。ホントに何もないところですが」


 そう言いながらビオラは寝室としている小部屋へ案内する。ベッド以外、本当に何もない部屋だった。今度、テーブルと椅子くらいは作ろうとビオラは思った。


 二匹は椅子もないため地べたに座る。地べたも床を張っていないために砂地そのままである。今度、床を張ろう。そう思うビオラだった。


「え~っと、食料が欲しいです。結構ギリギリでして…」


「なるほどなるほど。 どれくらい御入用でしょうか? 先ほども申しました通りお安くしておきますよ」


「あ、お金…がない!」


 そう、ビオラは一切お金を持っていなかった。


「であれば何かをお売りになって、それでご購入されては? 何か売れるものはないでしょうか?」


「う~ん… そうですね、じゃあ隣の倉庫を見てもらえますか?」


 ビオラはゴールドグラスを連れて隣の倉庫へと入って中を見てもらった。倉庫内の物資を一通り見終わったゴールドグラスはビオラに向かって言う。


「う~ん、買い取れるようなものは薬草とマナ肥料くらいですかね。 ビオラ様をご支援したい気持ちはあるのですが、わたくし共も商売ですからねぇ」


 と、ちょっと困った表情でゴールドグラスはポリポリと頭をかいた。「ですよねぇ」とビオラは少しガッカリした。


「じゃあ、薬草を半分くらい買い取ってもらおうかなぁ。薬草は結構な量があるし、しばらく自分一匹だとこの量は多いかなって。 あ、あとコレって売れます?」


 ビオラが出したのは先日ババァの懐から落ちたタバコだった。


「タバコは…う~ん… わたくし共が取引あるところには、あまり需要はないですねぇ」


「ですかぁ… じゃあ、さっき言った通り薬草でお願いします」


 マナ肥料は今日取れた未確認の種子を育てるのに必要だった。売るとしたら薬草くらいしかない。


「かしこまりました。 では、そのように。 おーい、みんな! 蜂蜜を運び込んで」


「「はーい!」」


 元気に返事した働きビビ達が倉庫内に蜂蜜を運び込み、薬草の入った箱を運び出していく。


「薬草は他の国に持っていくとそこそこ高く売れるのですよ。また手に入りましたら買わせていただきます。 蜂蜜、少しオマケしておきましたので」


 ニコリと笑ったゴールドグラスは外に出ようと倉庫のドアに手をかけて「あ、そうでした」と思いついてビオラに振り返る。


「ビオラ様。 この国と巣の名前は何というのでしょうか? どのようにお呼びすれば?」


「国? 巣の名前? えっと、まだ何も決めてないんですよ。ははは…」


 まったくそんなことを考えたことのなかったビオラは誤魔化すようにポリポリと頭をかきながら笑った。


「そうですか、では次にお会いするときにはお聞かせください。 では、わたし達はこれで」


 外に出たゴールドグラスはペコリと頭を下げ、働きビビ達を連れてビオラの巣から離れていった。しばらく歩いた後、振り返ってゴールドグラスはビオラに手を振る。ビオラもまた手を振って見送った。


「ふぅ… 初めての取引… ちょっと緊張したなぁ。 でも食料にちょっと余裕ができたよ、よかったよかった!」


 取引に満足したビオラは笑顔となり、足取り軽く寝室に戻ってベッドにボフンッとダイブした。


「国と巣の名前かぁ… どうしよう? ま、そのうち考えよう」


 ビオラはベッドでゴロゴロしながら呟いた。



 ビオラの巣から離れたゴールドグラスは彼女の倉庫内の物資量を思い出し、「う~ん…」と唸っていた。


「ちょっと多めに蜂蜜は提供できたけど、それでも食料が少ないなぁ。 あれじゃあ、もしもの時にはすぐに底を尽くだろうなぁ…」


 とはいえ、ビオラの母であるシルバーフルーツ女王からは、あからさまな支援は控えるように言われている。


「う~ん… どうしよう。 あ、そうだ。いいこと思いついた!」


 ポンと手を打ったゴールドグラスは、荷物を運ばせていた一頭のロバから荷物を下ろさせ、ビオラの巣の方向へ向かってパンッと尻を叩いてロバを走らせた。


「うん。 あとはビオラ様がロバに気が付けば、狩って食肉にするわよね」


 ナイスアイデアだわ!と、ゴールドグラスはいい笑顔で思ったのだった。

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