第3話 ビオラ、ババァに狙われる
まだ何も置かれていない寝室で起きたビオラは「ん~っ!」と言いながらググっと伸びをして起き上がった。
寝室から出て隣の倉庫に入り、朝食の花粉団子を取り出してモシャモシャと齧ると「このままじゃ物資が減るばかりね」と当たり前のことを口にする。
「まず何が必要かな? 食料とあとは木材? 木材ってまったくないのよね」
花粉団子の入っている箱に手を突っ込み、更に一つ団子を取り出してモシャモシャ齧りながらビオラは思う。
結構な物資の量だなと。木材こそ無いが、ビビクリームに蜜蝋も当面十分なほどの量があり食料も花粉団子に蜂蜜も結構な量があった。
「なんだかんだ言って、お母さんも娘のわたしが可愛いのかな? この物資の量にはお母さんの優しさみたいなのを感じるわ」
と、ちょっとしんみり感動したビオラだったが、それならこんな砂漠に捨てないでよとも思うのだった。親の心子知らずである。
「やっぱり無いものから調達かな? 木材はベンケイチュウを植えれば――」
考えをまとめようと呟きながらビオラは更に箱の中に手を入れるが、彼女の手は空を掴んだ。「あれ?」と箱の中をのぞくと花粉団子は空になっていた。
「団子ぉぉぉぉぉぉっ!!」
ビオラは真っ青になって絶叫した。
「やばいっ!! やばい!食べ過ぎた!! 蜂蜜は?!蜂蜜はあとどれくらい??!」
慌ててビオラは残り唯一の食料である蜂蜜の在庫を確認した。ビオラはガチで焦っていた(筆者も)。とりあえず数日分は持ちそうだと確認したビオラは荒々しくドアを開けて外に出た。
「昨日のイグアナ! 肉を捌かなきゃ!」
しかしそこで動物を捌くために必要な食肉加工台の制作に必要な素材を思い出して再びビオラはサッと顔を青くした。
結構な資材を必要とする食肉加工台なのだが、大部分を蜜蝋で作るにしても基礎部分は木材を必要とする。そして木材は母親から渡された物資の中には無かった。このぺんぺん草一つ生えてない砂漠のど真ん中では木を切り倒して調達することすらかなわない。さらに言えば、肉を捌いたとて火が起こせなければ調理ができない。もちろん火を起こすには木材が必要である。
「え?ちょ… 詰んでない…? いや、待て!」
思い出したビオラは倉庫に駆け込んだ。ガサゴソと物資を漁り、一つの袋を取り出すと「あった!」と喜びの声を上げた。
「花の種! これを植えて花の蜜を!」
袋を手にして外に出た外に出たビオラは辺り一面の光景を見て絶望の声を漏らした。
「砂地やん… 作物育たんやん……」
ガクンと膝を折り、手を砂につけたビオラはハタと思い出す。
「そうだ! リッチフラワーの周囲!どうなってる?!」
ビオラがリッチフラワーへ駆け寄ると、なんと砂地だったリッチフラワーの周囲の地面はマナが満ちはじめて茶色っぽく変色し始めていた。
「よしっ!よしよし! これでちょっとは花を植えられる!」
ビオラはさっそく袋から種を取り出して茶色くなった地面に植え始めた。
「この種… バラの花か。お母さんったら、わたしが好きな花の種持たせてくれたのね」
と、ちょっとしんみり感動していたビオラだったが「でも流石にこの量だと足りない」と言って立ち上がる。そして「そうだ!」と叫んで駆け出した。
向かった先は初日に寝転がった岩場の陰である。この岩場の周囲の小さな範囲のみギリギリ作物が育ちそうな土壌であったのだ。
「助かった… マジで助かった」
いろいろな意味で泣きそうになりながら植え終えたビオラは、ついでにと他の部分にベンケイチュウを植え始めた。ベンケイチュウとは木材として利用できるサボテンの一種である。
植え終えたビオラはゴロンと横になり「あ~、疲れたぁ… 焦ったわぁ…」と天を見上げて呟いた。
一面の砂地。地平線に日が沈む。ビオラの見る世界は橙色に染まっていく。
「さ、寝よ寝よ。 ホントに疲れたよ」
しばらく幻想的な世界に浸ったビオラは起き上がり、ふらふらと寝室に向かっていきドアを開ける。
「またベッド作りそびれたよ…」
そういってビオラは、まだ何もない寝室にゴロンと転がった。
次の日の朝。日が差し始めて大地が明るくなると、ビオラが眠っている寝室を遠方から望む一人の女の姿があった。
「ひぇっへっへっ… こんな砂漠のど真ん中に無防備に住んでる奴がいるとはねぇ…」
女はタバコを、ぷかぁ~…とふかし、手にしていた鉄の棍棒で肩をトントンとしながら言葉を続ける。
「盗れるもんも少ないだろうが、危険が少ないのはいいこっちゃねぇ… イヒヒ」
まだ眠りの中にいたビオラは知らない。
タバコを咥え、手に鉄の棍棒をもって武装した80歳の人間のババァに目を付けられ狙われているということを。
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