第2話 姉ビビ、戦慄する

「あっちぃ~… どうしよう?」


 極限の砂漠に放り出されたビオラは山と積まれた物資を背に、見渡す限りの砂漠の中で途方に暮れていた。一応、気を遣ってくれたのか日陰のある岩場の近くに放置されたようだった。


「サボテン一つ生えてねぇ…」


 はぁ…と深く溜息をついたビオラは物資の山をチラッと見て言う。極限の砂漠とはよくいったもので、普通の砂漠には生えているはずのサボテンすらない。


「とりあえず中身の確認かなぁ…」


 ゴソゴソと中身を確認してみれば、食料は大量にあるし建材となるビビクリームや蜜蠟など、あとは各種植物の種などもある。薬草もそこそこの量があった。


「おっ! リッチフラワーの苗とビーンスプレーの苗もある。これで外敵からの防衛もしばらくは大丈夫かな」


 ビーンスプレーは敵を感知すると豆を弾丸のように吐き出す魔法植物である。そしてリッチフラワーは周囲の植物からマナを生み出し、そのマナを利用して土壌改善を行う魔法植物である。


「さっそく植えてみよう。 …砂漠に植えて大丈夫か??」


 若干の不安もありつつ、ビオラはリッチフラワー一株を中心に周囲にビーンスプレーを四株植えた。


「さてと、次は」


 と、魔法植物を植え終えたビオラは立ち上がって腰に手を当てグッと伸びをし、物資の山を見る。


「物をしまう場所つくらないとね。せっかくの物資が劣化するとマズいからね。 でも、その前に水だよ水。喉乾いたよ」


 メタ的なことをいってしまうと、キャラクターが喉が渇いて水分を要求するようになるMODを入れているため、この砂漠の中で水源を探さなければならない。水を飲まないと脱水症状で倒れてしまう。


「今こそ我が野生の勘に頼るとき! 水よ、何処いずこに在りしやっ!!」


 ビオラが目を閉じ精神を集中すると、なんと岩場の陰あたりに地下水脈を発見したような気がした。カッと目を見開き、その場所に向かって駆け出す。


「ここだぁっ!!」


 ビオラは物凄い勢いで岩場の陰を堀り、地面の湿りを見つけると物資の中から蜜蝋を取り出して井戸を作成した。


「ふぅ… 助かった。わたしのビビ生、一瞬で終わるかと思ったわ」


 この環境でスタートさせたとき筆者もそう思った。偶然、開始位置近くに水源があって本当によかった。


「よし! 次は倉庫の建設ね」


 喉を潤したビオラは物資の中から建材となるビビクリームを取り出し、どんな感じに建てようかと思いを巡らせる。ビビクリームとはビビの体から分泌されるクリームで色々な用途に使用できる。建材として壁などにもなるがクリーム状であるために非常に脆い。


 他のビビの巣がどうかは知らないが、彼女の元々住んでいた巣は六角形の部屋が複数連なったハニカム構造の巣だった。それをモデルにしようと、彼女は砂の地面に線を引いて簡単な設計図を描いていく。


「ここが、とりあえずの倉庫でぇ~、で、こっちが寝室。作業部屋はこっちかな?」


 と、愉し気に想像を膨らませていたビオラは、いつの間にか日が暮れてきているのに気が付いた。


「…うん、明日にしよう」


 本日の作業は終了と、彼女は岩場の陰まで行き、その場でゴロンと横になるとあっという間に寝息をたてて眠りについた。



 翌日、目覚めたビオラは背中をさすりながら「イテテ… やっぱり地面に寝るもんじゃないね。ベッドが恋しい」と、ちょっと愚痴をこぼしながら起き上がった。


「さてと、作業の続きね。 今日中に倉庫と寝室は完成させたいところよね」


 朝食の花粉団子を齧りながら今日の目標を設定する。

 ちなみにだが、彼女は【食道楽】というスキルを持つ。これは料理スキルを+4するというメリットの反面、空腹率が通常の1.5倍になるというデメリットを持つ。気が付かないうちに彼女は尋常じゃないスピードで食料を消費しているのだが、今はまだその実感はなかった(筆者も)。


 昨日取り出したビビクリームを設計図に沿って配置し、彼女はペタペタと壁を作っていく。蜜蝋でドアも作り、とりあえずは倉庫完成となり物資を運び入れている時だった。砂漠の彼方で濛々と砂煙が上がるのを見てビオラは首をかしげる。


「ん? なんだろう?」


 目を凝らしてみてみると一匹のイグアナが目を血走らせ、物凄い勢いでビオラ目掛けて突進してくるのが見えた。


「な、なななな、何よ! とりあえず退避!退避ぃ!!」


 出来上がったばかりの倉庫に飛び込んだビオラはドアをちょっとだけ開けて外の様子を眺めた。

 突進してきたイグアナは先日植えたばかりのビーンスプレーに敵と判断され、ビーンスプレーが射出した弾丸のような豆の嵐にその体をズタズタにされていた。


「げに恐ろしや、ビーンスプレー… まさに蜂の巣…」


 ビオラは倉庫から恐る恐る出て、ボロボロになったイグアナの死体を摘まみあげて呟く。


「食べれるかな? でも捌くとなると食肉加工台が必要か」


 倉庫へ物資を運びながら全体的に物資がどれほどあるか把握し始めていたビオラは食肉加工台を作っている余裕はないと判断し、イグアナの死体をポイっと捨てて物資の運び入れを再開した。その途中、先ほどイグアナに襲われたこともあり武器を探しているとスリングショットを発見したので常に持ち歩いておこうと腰に差した。


 倉庫へとの運び込みが終わると今度は寝室の建築である。建築完了まで何事もなく終えることが出来たビオラは、フゥ…と汗をぬぐう。時刻はもうすぐ夕暮れである。


「今日はこんなところかな? ベッド制作までは間に合わなかったけど、とりあえず今日は屋根のある部屋で眠れそうね」


 満足そうにそう言って部屋に入っていったビオラの姿を、かなり離れた岩場の陰から一匹の姉ビビが見守っていた。そして彼女は戦慄しながら呟いた。


「あの子… マジでここで巣作りするの?!!」


 追放した女王の意図としては、過酷な環境に放り込めばビオラでも耐えきれずに移動を始めるだろうという思いでこの場所を選んだつもりだったのだ。数日北上すれば緑豊かな大地が広がっているのだ。自身の力で新天地を見つけ、開拓するという経験を積んでほしいがための敢えての砂漠配置だったのだ。それが、砂漠の、それも最も過酷な”極限の砂漠”でのいきなりの巣作りである。ビオラの行動は女王をはじめ姉達の想像の斜め上をいっていた。


「…まったく動こうともしないなんて…… とりあえず報告しないと…」


 姉ビビは頭を抱えて報告のために巣への帰途についた。



 数日後、戻って報告した娘の言葉が信じられず、女王は何度も「マジで…? え、マジで??」と女王の威厳などゴミ箱に捨てたように素で問い返したという。

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