女王蜂の建国記
弥次郎衛門
第1話 ビオラ、追放される
蜂の性質を持つ人型の”ビビ”という生物がいる。そのビビが暮らすシルバーフルーツ王国という巣の中で、少女がベッドの上で漫画を片手に蜂蜜をチューチュー吸いながらゴロゴロしていた。その彼女の部屋の扉が不意にバンッと開けられた。
「ビオラちゃん! お母さんが呼んでるわよ」
「ん~? 何の用~? お姉ちゃん」
「起きなさい! 早く行くわよ!」
「え~…」
食っちゃ寝タイムを邪魔させて少々不満げなビオラは、彼女よりも一回り以上体格の小さな女の子に引きずられるように女王の間へと連れていかれた。
女王の間では豪華な椅子に座った人間の成人女性ほどの大きさの女王ビビが、周囲を人間の幼児くらいのビビ達に囲まれていた。幼児サイズのビビではあるが彼女たちは皆、ビオラの姉にあたるビビ達である。
ビオラが入室すると、女王ビビはスッと立ち上がって言った。
「ビオラ、あなたを巣から追放します」
「は?」
ビオラは言っている意味が分からないと、目を点にしながら次の言葉を待つ。
「あなたを次期女王とすべくローヤルゼリーを与え続けてきましたが――」
女王はその美しい顔に青筋を立てながら続ける。
「成虫しても体は女王ビビとするには小さく、それだけならまだしも働きもせず食っちゃ寝食っちゃ寝と… それも食べる量が尋常じゃありません!」
「は、はぁ…」
ビオラは背中に多量の冷や汗をかきながら女王の話を聞く。
「働かざる者食うべからず!! 反省なさい!あなたを追放します!」
「ま、待ってお母さん! わ、わたしがいなくなると巣の維持が…わたし以外に女王候補はいないわけだし」
「新しく卵を産みました。この子を女王にすべく育てるつもりです」
女王は彼女の座る椅子の横にある孵卵ベッドの上にある卵を撫でながら言った。サッとビオラの顔色が青くなった。
「お、お母さん… あ、あの…追放ですか? 分蜂ではなくて?」
「追放です。 あなたに付いていきたいという者は誰もいませんでした」
「お、お姉ちゃん達…」
悲し気な顔で周囲を見渡すビオラだったが、彼女の姉達はスッと目線を逸らした。
「安心しなさい。 しばらく生きていけるだけの物資は融通します」
「あ、安心できません…」
「今までの自分のビビ生を振り返って自業自得と諦めなさい。 さぁ、娘たちよ。ビオラを捕らえなさい」
「「いえす、まむ!」」
返事をした働きビビである姉達は一斉にビオラに襲い掛かった。しかしビオラは彼女達の間をスルスルと抜けて部屋中を逃げ回る。
「くっ…! ちょこまかと… なんてすばしっこい!!」
歯噛みした女王は椅子から立ち上がり、娘達の間をスルッと出てきたビオラに向かって突進し拳を突き出す。
「どっせいっ!!!」
「がはぁっ…!!」
女王の拳がビオラの腹に深々と入ると彼女は白目をむいて倒れた。そこへ姉達が群がり、あっという間に縛り上げられたビオラは用意されていた物資の満載された荷車に括りつけられた。
「待って!お母さん!! タイム!タァーーーーーイムっ!!! 反省します!チャンスを!何でもしますからぁーーーーっ!!!」
「あんた何年ゴロゴロしてたと思うの?! 何でもするというのなら新天地で元気にやりなさい!」
「薄情っ!!! お母さん、せめて分蜂にして!お姉ちゃん達!誰か付いてきてぇーーー!!」
しかしビオラの悲痛な叫びに姉達が返事をすることはなかった。
「ホントに待って、お母さん! ちょっと怠けてたかもしれないけど可愛い娘よ!追い出さないでよ!!」
「怠けてたって認めたわね! まぁ、可愛い娘というのは否定しないわ。可愛い子には旅をさせるとか人間にはそんな格言的な言葉があるとかないとか。 愛してるわ、わたしの可愛いビオラ」
「詭弁っ!! 絶対ウソじゃん!ウソじゃーーーんっ!!」
「噓じゃないわ、本当よ。さぁそろそろ諦めなさい、ビオラ。 娘達よ。ちゃっちゃと適当な場所にビオラを捨ててきて」
「「は~い!」」
「酷いっ!言いかた酷い!! 本音が! 思いっきり本音が漏れてれる!!」
荷台に縛り付けられたビオラは叫び声を上げ続けるが、無情にも姉達に曳かれた荷車の車輪は回りだす。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ものすごいスピードで巣を飛び出した荷車は、あっという間に地平線の彼方に消え去った。
見送った女王は目に涙を浮かべ「ビオラ、元気でね」と一筋頬を濡らした。
女王も、何も自分の娘を虐めたくてやったわけではない。次期女王の地位に慢心して一向に働こうとしない娘に自立してほしかったのだ。そのため追放の地も吟味に吟味を重ね、放置する地点こそ過酷な環境だがちょっと移動すれば豊かな土地が広がる場所を選んでいたのだった。
ビオラが荷車に拘束されながら移動すること数日。彼女は”極限の砂漠”といわれる場所に荷車ごとポイっと捨てられた。そのまま去ろうとする姉達にビオラは泣きながら訴える。
「待って!お姉ちゃん達! せめてロープ切ってよ!このままじゃ干からびるってっ!!」
「あ、ごめんごめん」
忘れてたよと反省してポリポリと頭を掻きながら、姉の一匹がナイフを取り出してビオラを拘束していたロープを切った。数日ぶりに開放されたビオラはロープの跡をスリスリと撫でながら姉達に問う。
「お姉ちゃん達、本当に帰るの? お願いだから誰か残って――」
「ビオラちゃん、頑張って! じゃっ!!」
ビオラの言葉を切るように姉達は別れの挨拶を済ませると全力でその場を立ち去って行った。
「お姉ちゃーーーーーーんっ!!」
ビオラは叫ぶが、姉達が振り返ることはなかった。
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これは筆者が好きな某シミュレーションゲームでのプレイ日記です。そのゲームに”ビビ”という蜂っぽい女の子種族を追加するMODを入れた状態でのプレイ日記を元に小説を書いていこうと思います。
ですので、もしかしたらあっという間に全滅ENDを迎えるかもしれませんが悪しからず。その危険性もあることを踏まえてドキドキしながら読んで頂けたらと思います。
序章にあたる今話の追放の経緯は完全に筆者の妄想です。ゲームには登場しません。次話からがプレイ日記となります。
というわけで、主人公ビオラの初期ステータスです↓
================
特徴
【職人気質】
【俊敏な身のこなし】
【食道楽】
射撃 0
格闘 0
建築 6
採掘 0
料理 11☆
栽培 12☆
動物 6
工芸 8☆☆
芸術 0
医術 8☆☆
社交 0
知力 4
================
ステータス後ろの☆は情熱を表しています。その項目に興味があるということで、2個が最大です。
ちなみにゲーム難易度は上から2番目。そして筆者はこのゲーム、初心者に毛が生えた程度の腕前です。
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