二章 ヒーロー令嬢、その中身は……
「びえええええ~ん! もうやだよおっ。なんで、あんなことしなきゃいけないのおっ!」
シーホース王国の最北、辺境に位置する大森林。獣や巨獣はおろか、人知を越えた神霊種までが
カリオストロ家の当主であるヒーロー令嬢、
それはもう声はギャアギャア、涙はダアダア、雨不足で困っている土地にでも放り出させば、水不足もたちまち解消するのではないかという泣きっぷり。あいにく、豊かな大森林ということで水には困らないこの土地では、水害のもとでしかない。
メイドの少女は自分の
「しっかりなさってください! いまは、お嬢さまこそがまぎれもなくカリオストロ家当主、
「だって、だってえっ! ミニスカドレスで生足ドバアッで、スポットライト浴びて唄って踊るとか、
それはいまをさかのぼること、三ヶ月前。はるか異世界の『日本』という国に、ひとりの社畜OLがいた。名前は
――ああ。これで死んじゃうんだ。ろくなことのない人生だったけど……これで、社畜人生からおさらばできるならそれも良いか。
そう思い、死の運命を受け入れた。が――。
そうは
「ちょうど良いわ。異世界バカンスしたいところだったからその体、ちょっと貸してねえ」
そして、気付いたときには哀れな
つまり、あの呑気な声の
「
なにが起きたのかわからず途方に暮れる
「
はああ、と、
「なにぶん、長い人生。代わり映えしない生活に飽きてしまい時折、異世界にバカンスにお出かけになられるのです」
ただし、いかな
「バカンスしたいのは勝手だけどおっ!」
元
「なんで、相手があたしなのよおっ! あんな恥ずかしい真似しなきゃいけないなら、コスプレ好きの若い女の子にしとけば良かったじゃないぃっ!」
「たまたまでしょう。いままで、
「うわあああん、ひたすら迷惑ぅっ!」
「お察しします」
と、
「でもっ! ものは考えようです。おかげで、自分の死に直面しながら悲しくもなく、あっさりと受け入れられるような、そんな冴えない人生を送っていた三〇代の社畜OL、負け組の女性が、広大な領地と豊かな資産をもつ貴族、それも、外見年齢一六歳の超絶美少女になれたのです! しかも、いわゆるチート能力もち。これはもう、冴えない人生を忘れて、イケイケの人生を
「もともとのあたしが人生敗残者の干物女だったみたいに言わないでよおっ! その通りだけどおっ……。だいたい、
「
「なによ、それえっ!」
「ジャパニメーションは
「それもう絶対、帰ってこない流れじゃないのおっ! あたしいったい、いつまでミニスカ姿であんな恥ずかしいことしなくちゃいけないのよおっ!」
いやならやらなければいいじゃない。
そう言うのは簡単なのだが、そうはいかない。なにしろ、
そして、ミニスカドレス姿でスポットライトを浴びて唄って踊り、きわどい丈のミニスカートを
それはもう、カラオケに行って唄いまくったあと、帰り道で素に戻って死にたくなるレベル。
「だいじょうぶです!
「……いつ、帰ってくるの?」
ようやく泣きやみ、クスンと鼻をすすりながら
「……多分、四~五〇年ぐらい先かと」
「四~五〇年もたってからもとの体に戻れたって、あたし、ただのおばあちゃんじゃないのおっ~! どうせ、家と会社を往復するだけの人生だから似たようなもんなんだけどおっ!」
「とにかく、お食事にしましょう。おいしいものを食べれば元気も出ます」
「いかがですか?」
「……うん。おいしい」
しかも、メチャクチャおいしい。さらに、かわいい嫁――メイドだが、いつも側にいて身のまわりの世話一切をしてくれるのだから『嫁』と言って差し支えない――がいつも側にいてくれるとなれば……。
「とにかく」
と、『嫁』であるメイドの
「
「……お仕事。お仕事なのね?」
「そうです。お仕事です」
「……お仕事。うん。わかった。お仕事、がんばる」
肉体はどうあれ、その精神はあくまでも人に使われることが骨の
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