第7話「落下」

「あ、あの……、やな、ぎさん……」


 身体はまだ力が入らなかったが、喋ることはできるようになっていた。ただ肩で息をしているので一気には言い切れない。


「どしたの、大津くん」


 そういう言う柳さんはベッド脇に座ってタバコを吸っていた。



——いや、どしたのじゃねーし!!



「なん、でこんな、ことを……」

「え? だから最初に言ったじゃん。俺は調教師で、今回は趣味と実益を兼ねた私情での調教」



……調、教……。



 つ、つまりアレか、よくエロサイトで「調教モノ」とかタグ付けされてるやつか! 俺はそういうの全然見たことないけど!!


「大津くん才能あるよ。これから今夜何回天国に行けるか楽しみだねぇ」


 普段と変わらない柳さんの優しい声音が、俺の中の恐怖を倍増させた。

 しかしあのアイスティーのせいか、俺の中にはまだ強い熱があって、自力で処理できるとは思えなかった。



「じゃあ再開」



 柳さんはタバコを灰皿に押しつけると、立ち上がってベッドの俺の方にやってきた。逃げようにも逃げられない。恐い。でも、俺の身体は熱を孕んでいて——


「んー、まだ二時間も経ってないけど、大津くんこっちもいけそうだからもう下半身いっちゃおうか」


 柳さんはそう言うと、下ろしたままだった俺のデニムとびしょびしょのパンツを脱がせ、がっと股を開かせた。

 ちょっと待て! 男同士でも恥ずかしい!! いやそんなこと言ってる場合じゃない!!

 とか思ってたら柳さんは軽々と俺の身体をひっくり返し、俺の顔は枕の上に載った。柳さんが見えない。何をされるか分からない。

 圧倒的な恐怖があるのに、同時に何かを期待する自分を、俺は全否定することができなかった。


「あ、えっ?!」


 思わず声を挙げたのは、柳さんが俺の太ももを撫で始めたからだ。

 男でも足感じるのか? くすぐったい、と身をよじらせた次の瞬間、柳さんが俺の尻に手を這わせ、優しく揉むように刺激を与えてきた。


——え、これ、ちょっと、なんかおかしい!


「ここも敏感だね、もう反応してきてる」

 柳さんに言われるまでもなかった。俺の息は再び荒くなり、しかし直接的な快感には至らない刺激を受け続けているだけなのでもどかしくて仕方がなかった。


「前も触って欲しい?」

 耳許で囁くような声で、柳さんが尋ねてきた。俺はもう自分を止められなかった。涙を流しながら頭を縦に振った。

「そっかぁ、でもごめんねぇ、今から後ろなんだよ」

 言った瞬間、柳さんの指が俺の秘部に触れた。


——え、なんかぬるぬるしてる! ってかそんなとこ触ったら汚い!!


「ひくひくしてるね、もう欲しいのかな?」

「あ、やめて! 止めて、ください!!」

「ダメだよ、ここが一番開発しないといけない所なんだから」

「あぁ!」


 指、入ってきた! ヤバい、なんか、え、何これ、なん、で?

 あ、あぁ、ぬるぬるしてるのが……汚い場所なのに、なんか……


「やっぱり俺の目に狂いはなかったね。一本目こんなにスムーズにいく子いないし、もう腰振ってるし、とんだ淫乱ちゃんだよ、大津くん」

「うあああぁ!!」

 指が、増えた、のか? 

 凄まじい快感が俺を襲った。胸とも性器とも別物の、これまで体感したことのない快楽。柳さんが指を出入りさせる度に俺は大声を出した。

「凄いなぁ、調教師であることを忘れるくらいそそる。俺も本気でかからないと」

「あっ、あっ! やめ、やめて、くだ、さ——!」

「嘘つきだねぇ大津くん。こうしたらどう?」

 次の瞬間、柳さんの指が俺の中の内壁をえぐった。


「うああぁ!!」


 思わず叫んでしまった。な、なんだよ今の——!


「もうちょっと頑張ろうか」

「ひああぁあ!!」


 また指の数が増えたらしい。驚くべきことに、俺の入り口もそれに適応していっているようだった。


 お、俺、堕ちてる気が、する——。

 

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