第2話 日本語が消滅する

『日本語が消滅する』(山口仲美/幻冬舎新書)を読んで、わたしは日本語は消滅の危機にあると感じた。

 山口さんによると、母語は、世界観をつくり文化をつくり、アイデンティティを形成し、さらに創造力を醸成するそうだ。

 なるほど、と思う。

(この場合の「母語」とは、幼児期に母親などの身近な人々から自然に習い覚えたもの。「母国語」とは違う。「母国語」はその人が持っている戸籍の国の言語。)


 色を例にとってみよう。

「赤」と「red」の範囲って違うよね? 虹の色を何色で見るか、言語によって異なるのは有名な話だ。

 言語は世界を切り取る。ゆえに、世界をつくる。そして文化もつくっていく。

 母語は自分は何者であるかという意識とも深くかかわり、新しいものを生み出す力も持つ。


 かつて、アメリカに住んでいる日本人の男の子と話したことがある。

 彼は、日本語も英語もぺらぺらのバイリンガル。正直羨ましかった。

 だけど、「自分は何人なんだろう?」とかなり本気で悩んでいた。国籍は日本人なんだけれど、中身は日本人ではない、だけど、アメリカ人でもない。どちらにもなれず中途半端だと。言語も、日本語も英語も浅くて深みがないと。


 そのようなわけで、バイリンガルって、そんなに簡単になれるものではない、とずっと思っていた。

 よほど優秀でないと、どの言語も中途半端になってしまう。

 しかし、そう思っていたところ、『日本語が消滅する』を読んで、日本語と英語のバイリンガルを育てようとした結果、英語だけを話すモノリンガルが増える、ということに気づき、愕然とした。


 恐ろしい……!

 英語が母語になる日本人が出てくるということ?

 その人は「日本人」なのだろうか?


「日本語が消滅する」なんて、嘘みたいな話って思う人もいるかもしれない。

 だけど、わたしは結構かなり身近な話だと思う。


 例えば、「わたしたちが動画世代だから、文章読めない」と発言した女の子。

『日本語が消滅する』にも書いてあったけれど、日本語はその特性として「書く・読む」もので、文字言語なのだ。英語は音声言語。

 わたし、常々、「動画を見ていると言語が育たない」と思ってた。息子を見ていると、動画から言葉を覚えている。しかし、その言葉が問題だ。

 動画に登場し、彼らが覚える言葉は、一つの単語であらゆることを表そうとするものが多い。


 小学生のときは「ヤバい」だった。

 いいことも悪いことも、みんな「ヤバい」。あらゆることが「ヤバい」。

 せっかく、別の表現があり様々な言葉があるんだから、全てのことを「ヤバい」と言うのはやめろ、とよく言っていた。

 ちなみに、これは息子だけじゃない。

 その当時の多くの子たちが使っていた。

 その後、「エグい」が流行った。

 えぐみがある、の「えぐみ」ではなく、ほとんど「ヤバい」と同じ使われ方の「エグい」だった。たった一語で、全てを表現しようとする、都合のいい言葉。


『日本語が消滅する』によると、言語の消滅のサインは、①語彙が乏しくなる、②発音も似ている音の区別が出来なくなる、③文法も簡略化して規則的なものに変わる、④言いたいことが十分に表現出来なくなる であった。


 もう既に消滅のサインは出ているのでは?

 ①の語彙が乏しくなる、というのは既に乏しくなっていると感じる。あらゆることが「ヤバい」などの一語で済まされているし、語彙に広がりがない。発音は分からないけれど、③は最近SNSのように短い単語のやりとりをしていると、連体修飾語や連用修飾語、二つ目の主語、とか読めなくなるよね、と思う。手紙やメールとは違う、あの短いやりとりでは、簡略化こそよいこと、になるのではないかしら? そうすると、それに連動して④も加速しているのではないかしら?


 動画は日本語を覚えるのには適していない。

 だけど、子どもから大人まで動画を見ていて、動画から言葉を自然に学ぶ子どもは多い。そして、スマホの普及により、小学校の高学年くらいから、みなSNSでやりとりをする。その中で、日本語は語彙が乏しくなり、簡略化していっているように感じる。

 

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