14 デート①

「ねぇお姉ちゃん」

「何さ」

「この格好、変じゃないよね?」

「その質問は十二回目だな。変じゃないよ」


 リビングをうろうろしている晶の言葉に、日向は呆れ気味に答える。

 今日は日曜日。稔とのデートの日だ。

 ペールブルーのシャツを着て、デニムのスカートを履き、クリーム色のカーディガンを羽織っている晶は、そわそわと落ち着きがない。


「メイクは? 変じゃない?」


 晶の顔には淡く、オレンジ系とピンク系の色味のメイクが施されている。


「変じゃないよ。可愛い可愛い」

「髪も変じゃないよね?」

「変じゃないって。つーか髪は私がセットしただろうに」


 髪をセットするのに慣れていない晶は、日向にセットを頼み、最終的に、ざっくり三つ編みのサイドポニーテールの髪型で落ち着いた。

 髪全体にヘアアイロンでカールをかけているので、ふわふわとした印象になっている。


「そ、そうだけども……」


 晶は不安そうな声を出す。そして時計を何度も見る。


「リラックスしな、晶。今から緊張してると保たないよ。時間まであと三十分はあるんだからさ」

「分かってるけどぉ……!」


 ちなみに、晶たちの両親は出掛けている。

 片方は休日出勤、もう片方はご近所の集まりで。


「ほら、ソファ座りな。お姉ちゃんが紅茶を用意してやろう。ティーバッグのだけど」


 日向はそう言って、半強制的に晶をソファに座らせ、紅茶を用意する。


「ほい」


 日向はお盆ごと、紅茶の入ったティーカップを二つ、ソファ前のローテーブルに置き、それぞれを晶の前と自分の前に置き直した。


「それ飲んで落ち着きな。少し蜂蜜入れてあるから」

「ありがとう……いただきます……」


 晶は紅茶を一口飲み、はふぅ……と息を吐き出す。


「……今日のお姉ちゃん、すごい心強い……」

「失敬な。お前のお姉ちゃんはいつも心強いぞ」

「……うん、ありがとう……」


 そして、晶が紅茶をちびちび飲んでいると、約束の時間になった。

 と、同時にインターホンが鳴る。


「ヒッ!」

「怯えてどーすんの。ほら、ついてったげるから。あ、リップ直しな」


 日向は残っていた紅茶をグイッと飲み干し、立ち上がる。


「あ、ま、待って……」


 晶も少し慌てて紅茶を飲み干し、ソファに置いておいたショルダーポーチからリップクリームと口紅を取り出して洗面台に向かい、唇部分のメイクを直す。

 そしてショルダーポーチを取りに行き、その中にリップクリームと口紅を戻し、日向のあとを追いかけていった。


「はーいお待たせしました」

「ども」


 日向が玄関を開けると、日向と晶の予想通り、稔が立っていた。

 稔の格好は、黒のジーパンにロゴTシャツ、その上に薄手のジャケット。靴はスニーカー。


「……うん! まあ、良いでしょう!」

「……俺は何かを審査されたんすか?」


 日向へ呆れた顔を向けたあと、稔は日向に隠れるようにして自分を見ている晶へ顔を向ける。


「晶」


 呼びかけても、晶は動かない。


「……? 晶?」

「恥ずかしがってないで行きなさい。時間、間に合わなくなるよ」

「……うぅ……」


 晶は小さく呻き、そろりそろりと前に出て、少しだけ踵の高いカジュアルパンプスを履き、ショルダーポーチを肩にかけ、稔の前に出てきて、


「お、お待たせしました……」


 と、視線を稔へ向ける。

 そしたら、今度は稔が小さく唸り、しゃがみ込んだ。


「……? 稔?」

「なんでもない……いや、なんでもなくないけど……」


 稔は緩慢な動作で立ち上がり、


「行くか」

「う、うん……」

「はい行ってらっしゃい。楽しんできな」


 日向は軽く手を振ってそう言い、玄関を閉めた。


「……」

「……ほら」


 動かない晶へ、稔が手を差し出す。


「……えっ、あ、は、はい……」


 晶がその手を遠慮がちに握ると、


「……晶、一つ、いいか」

「へっ? な、なに……?」

「可愛い」


 その言葉に、注がれる視線に、晶の顔が赤くなる。


「…………あ、ありがと……。……その……」


 晶は視線を彷徨わせたあと、その瞳を稔へ向け、


「……稔も、格好良い、です……」


 すると稔は目を瞬かせ、一拍してから顔を赤くし、


「……っ、……それは、どうも……」

「そろそろホントに時間に遅れるよ?」

「ひゃあ?!」「っ?!」


 日向の声に、二人揃って肩を跳ねさせる。

 いつ開けたのか、玄関ドアの隙間から、日向が二人を覗いていた。


「び、びっくりさせないでください……!」


 稔が言うと、


「二人とも動かないんだもん。ほら、早く行ってらっしゃい」


 日向の行動で気が抜けたのか、稔は「……ハァ……」と息を吐くと、


「そっすね。行ってきます。晶、行こう」

「う、うん……行ってきます……」


 そして二人は、やっと歩きだした。



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