13 これからどうすればいいか、どうしたいか③
(ただいまの時刻、午後七時三十二分……)
晶は、頭の中で呟く。
自主練に残った生徒は、全部で七名だった。
もちろん、そのうちの一人は稔だ。
(みんな、宿題とかテスト勉強とか、いつやってんだろ……)
そんなことを考えながら、スマホのラインを開く。
そこには、ある人物とのやり取りをしたメッセージが残されていた。
『お付き合いの仕方が分かりません……デートとか誘ったら、邪魔に思われそう……』
『ああ~分かる。私もそれで凌ちゃんとケンカしたことあるし。けど、まずは自分の思いをしっかり伝えるところからだと思うよ』
『伝えて、それは無理、とか言われない?』
『言われることもある。そしたら、二人で妥協案探す。大事なのは抱え込まないことだよ。抱え込んだら、頭も心もぐるぐるし始めちゃって、負のループに入っちゃうから』
そんなやり取りをしていたのは、同学年の峰山祐希。祐希は、バレー部のエース、若柳凌牙と付き合っている。
晶はそんな立場の祐希にヘルプを求め、ラインで連絡を取った。
(自分の思いを伝える……)
稔とどう向き合うか。それを考えながら、晶はその目を稔へ向ける。
稔は丁度、祐希の彼氏である凌牙、そして三年セッターの
(……思い……思いを伝える……)
それは無理、と言われたらどうしよう。
なら別れよう、と言われたらどうしよう。
もうすでに脳内でぐるぐると思考が変に回り始めてしまっている晶は、不安でいっぱいだった。
ぐるぐる考えている間にも時間は進み、自主練の時間も終わる。残っていた部員たちは片付けを始め、それを終え、
「晶」
そこから一人、稔が晶のもとへやって来た。
「終わった。時間が時間だから家まで送る。良いか?」
良いも何も、そんなの、嬉しくてしょうがない。
「……ん、分かった」
一緒に帰れる喜びと、自分のために時間を使わせてしまう罪悪感。
両方を同時に感じながら、晶はこくりと頷いた。
◇
第二体育館の戸締まり確認して、解散して。
じゃあ帰るか、と晶に言ったら。
『……手、繋いでいい?』
と言われた。から、繋いで歩いているが。
「……」
晶は俯き、何も話そうとしない。なにか不満があるのかとも思ったが、手を離そうとする素振りはないし、いつもと違う髪型のおかげで見える耳が赤いので、ただ恥ずかしがってるだけなのかとも思う。
なんにしても可愛いことに変わりはないので、晶が彼女になってくれたことを、晶と神様に感謝する。
「……稔」
「ん?」
「稔は、これから私とどうしたい……?」
……どういう意味の質問だ。
「これからって、今、この瞬間からって話か?」
「……違う……」
不満そうに言いながら、腕に抱きついてきた。
なんだ? 何が言いたい? ちょっとその体勢は今の俺には刺激が強いぞ?
「……私は、稔と恋人っぽいことしたい。でも、稔はバレー部で頑張ってる。……どんなことなら、稔の邪魔にならない……?」
「……お前……」
そんなこと考えてたのか。……もしかしてずっと考えてたのか?
ヤバい。すげぇ嬉しい。晶が俺のこと考えて、俺のために今そう言ってくれたってことがすげぇ嬉しい。
「……晶。晶は晶らしく、あれしたいこれしたいって言って良いんだぞ?」
「……ホント?」
晶が俺の顔を見る。
……だから、上目遣いの破壊力がヤバいって。
「本当。そんな不安そうな顔しなくていい。俺はバレーも大事だけど、晶と付き合いたいから告ったんだ。俺だって、その、……恋人らしいことしたい」
「ホントにホント……?」
「本当だって。部活だって火曜は休みだし、日曜も部活はないし。……長期休みに合宿あったり遠征あったり、大会前は部活時間伸びたりするけど、名ばかりの彼氏にはなりたくない。お前との時間も大切にしたい」
そしたら、晶は口にきゅっと力を入れて、腕にも力を込めた。……だから、それは胸が当たるんだって。
「……じゃあ、次の、日曜」
また俯いた晶が、小さな声で言う。
「次の日曜は、空いてる?」
「空いてる」
可愛い。あー可愛い。抱きしめたい。
「……じゃあ、日曜、……デート、しない?」
「する」
……即答してしまった。
「どんなデート、したい?」
「……」
そういうふうに聞くなよ欲望が溢れ出すだろ。
……駄目だ、俺、抑えろ。煩悩を抑えろ。
「……晶と一緒ならどんなでもいい。晶はどんなのがしたいんだ?」
「……映画館にも行きたい」
……も?
「動物園も、水族館も、ゲームセンターも、遊園地も行きたい。お家デートもしたい。……いっぱいありすぎて選べないぃ……」
あー駄目だ可愛い。困った声が可愛過ぎる。
「じゃ、まず映画館行くか?」
「……うん」
「なんか観たいのあるか?」
「……ホントに観たいの、言ってもいい?」
「いいぞ」
「あんまりデートっぽくないけど、いい?」
「良いって」
晶は、少し躊躇う素振りを見せたあと、その映画のタイトルを口にした。
それは、バッキバキのアクションもの。
「いいよ。お前、そういうの好きだもんな」
「……うん。……ありがと」
そこからぽつぽつと、何時に行くだとか、俺が迎えに行くだとか、予定を決めていったら、駅に着いた。
腕を抱きしめられたまま電車に乗り、座る。……これから二人で電車に乗る時、いつもこうなんのかな。褒美でしかないんだけど。
「……」
こてん、と晶が頭を預けてきたから、寝たのかと思ったら、
「……こう、してて、良いですか」
「……どうぞ」
あー! もう可愛い! ああクソ可愛いなぁおい! なんだろうな、すっげぇ可愛い! ここが外で良かった! じゃなきゃ理性飛ばしてる!
「……ね、稔」
「あ? なに?」
「出された課題とか、あんなにみっちり部活してて、いつやってるの?」
「すぐ終わらせられるもんは、休み時間中に終わらせてる。あとは朝やってる」
「あさ……」
「そ。夜やるより朝のほうが捗る。俺はな。他の部員は……あー……ひいこら言ってんのがまぁまぁいるな。吉野とかは宗太郎に全面的に頼ってるし」
「そうなんだ……」
そんな会話をしてたら最寄りに着いた。
電車を降りて、晶の家に向かう。
「……ふぁ……」
歩いていたら、晶があくびをした。
「眠いか?」
「……正直言うと、眠い。いつも十時近くに寝るし……」
すげぇ健康的だな。……そういや、こいつ、昔から早く寝て、遅く起きてたっけ。
ロングスリーパーってヤツか。
「ほら、着いたぞ」
「んぅ……」
晶の家の前まで来たが、晶はゆらゆら揺れるだけ。
「ほれ、鍵出せ。早く家入って寝ろ」
「むぅ……」
駄目だ。夢の中へ旅立ちそうになってる。
俺は仕方なく、インターホンを鳴らした。
「はいはーい」
元気良く出てきたのは、日向。
「どちら様──おお?」
「……お久しぶりです」
日向は、俺と、俺にもたれかかって半分寝ている晶を見て、
「やあ久しぶり、稔。この状況から察するに、晶を送ってくれた訳だね? ありがとうよ」
「いえ。ほら、晶」
「んむぅ……」
晶はフラフラと、日向に抱きつく。
「どうもね。しっかりした彼氏だよ、君は」
「いえ……は?」
「あ、晶から聞いてんのよ、付き合うことになったこと。まあ、知ってんの私だけだけど」
「そ、すか」
……なんか、恥ずいな。日向も幼馴染であるが故だろうか。
「じゃ、ありがとね。おやすみ。帰り気をつけて」
「はい。失礼します」
そして俺は会釈して、自分の家に向かった。
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