12 これからどうすればいいか、どうしたいか②
「おい稔さんよ、彼女さんが見つめてまっせ」
「そりゃ見学してんだから見るだろう」
吉野にテキトーに言葉を返すと、「……お前」と目を見開かれた。
「なんだよ」
「彼女の部分を、否定しなかったな?」
「だから?」
「マジでお前の彼女になったのか、中野さんは」
「なんでもいいだろ」
「いや答えろよ」
「……なったよ」
そしたら吉野が「うわぁ……」と言って、俺から半歩下がった。
「なんだそのリアクション」
「愛の力ってすげえなって」
「なんだよ愛の力って? なんで怯えてんの? 凄さに怯えてんの?」
俺はそこまで言うと、「……やるからな」と言い、集中力を高め、両手で掴んだボールを手の中で回し、止め、「フゥ……」と息を吐く。
ボールを投げる。飛ぶ。
──回転させないように、打つ。
「……、……」
飛んでいったボールは途中で不自然に軌道を変え、落ちた。
「宗太郎、撮れたか?」
「撮れた」
少し遠くにいた宗太郎が駆け寄ってくる。
で、スマホを見せてくる。
それは、今さっきの俺のサーブの動画。
「……まあ、出来てん、のか?」
「出来てんじゃね? 無回転」
「出来てると思うよ。今日のところの成功率はほぼ百だな、稔」
「やり始めてふた月でこれってのが、腹立つ」
吉野の言葉に、
「お前も八割超えてんだろ」
「俺は、お前よりも先に、始めたの。なのに、お前のほうが、先に出来てんの。腹立つ」
「そうか」
「受け流すな受け止めろ」
「めんどい。じゃ、次は俺が撮る番な」
宗太郎からスマホを──吉野のスマホを受け取り、宗太郎が居た位置へと少し早足で歩く。
今は、俺と、吉野と宗太郎で、無回転サーブの練習をしてるところだ。理由は簡単、ウチで無回転サーブをしてた先輩が冬休みに腕を骨折し、攻撃手段が一時的にも減ったので、なら、自分たちも出来るようになろうぜ、と吉野が言ったのが始まり。吉野と宗太郎でやってたそこに、途中から俺も混ぜてもらった。
……俺は背はあるが、体質の問題なのか、筋肉がつきにくい。凌牙先輩みたいな重い攻撃ができない。だから、攻撃手段を増やしたかった。
そういう思いで、基礎練以外にも、コーチや周りと相談して色々してる。……強くなりたい。昨年度はどの大会でも、全国へ行けなかった。
俺は、全国へ行きたい。
位置についた俺は、カメラを起動させたままのスマホを横向きに持ち、動画を撮り始める。
「いいぞ!」
声を張り上げる。
少ししてから吉野が動き出し、無回転サーブを打つ。ボールは途中でカクンとぶれ、落ちた。
吉野も成功だな。
「……」
俺は吉野たちの所へ戻りながら、チラリと晶へ目を向ける。
スマホで何やらしているが、その真剣な顔から、見学に飽きた訳では無いっぽいと判断する。が、何してんだろうか、あいつ。
「ほれ、こんな感じだ」
俺は、吉野と宗太郎に動画を見せる。
「……まあまあ、か」
吉野が重く言う。
「妙に渋い言い方だな」
「雰囲気作り」
「……」
俺は吉野にスマホを渡す。吉野は「おし、待ってろ」と駆けていった。
時間はあっという間に過ぎ、部活動時間も終了に近づく。
「晶」
俺は、ずっと座ってる晶の所へ行き、しゃがみ込んだ。
「……な、なんでしょうか……」
なんだその喋り方。可愛いな。顔赤くなってるし。可愛いな。
「……部活、もうすぐ終わるから。けど、俺はやっぱ自主練していきたい。晶はどうする。帰るか?」
「……残、る」
晶は顔を俯けつつ、そう言った。
「そうか。……無理してないか?」
「してない。残る。……一緒に帰る」
「……分かった」
俺は立ち上がりながら「本当に無理はすんなよ」と言って、練習に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます