11 これからどうすればいいか、どうしたいか①

「……」


 男子バレー部が活動している第二体育館の壁にもたれかかりながら、晶はスマホを操作していた。

 ある人物に、助言を貰うために。


「……はぁ……」


 出来上がった文章を送って、スマホから目を離し、部員たちの練習風景を眺める。


「……稔はウィングスパイカー、香川くんはミドルブロッカー、北島くんもミドルブロッカー……」


 小学生の時からバレーボールをやっていた稔の影響で、晶も少しは、バレーボールのルールや内容を知っている。

 そしてこの高校の男子バレー部は、結構強いことで有名だ。

 全国にも何度か行ったことがある。


(迷惑かけたくないし……でもデートとかはしたいし……全国の運動部員の恋人さんたちは、どうしてるんだろうか……)


 と、目で自然と追いかけてしまっていた稔と、その視線が合う。


「っ!」


 ビクッと肩を跳ねさせてしまった晶を見て、稔は怪訝な顔をし、こちらに来ようとした。


(! い、良い良い! 大丈夫! なんでもない!)


 晶は首をブンブン振り、その動きを見て足を止めた稔に、今度は何度も頷く。

 稔は、迷うような素振りを見せたものの、晶のそれに一応理解を示したようで、練習に戻っていった。


(うぅ……! そもそも、稔の彼女ってのにまだ慣れてないのに……!)


 親が友人同士の、生まれる前から幼馴染。仲良くはあったけれど、格好良いと思ったこともあったけれど、付き合うなんて思ってもいなかった。

 だけど、と晶は思う。思い返せば、稔が居ることが当たり前で、『付き合う』という発想を持っていなかっただけなのではないかと。そして、稔との距離は遠くなったが、その繋がりが切れることはないと無意識下で思っていたのではないかと。


(よーするに、うぬぼれてたんだ、私)


 だからあんな簡単に、稔からの告白を断り、夜になるまで自分の気持ちに気づかなかった。

 姉に感謝しよう、と晶は思う。そうでなければ姉の日向が言った通り、格好良い稔には自分ではない恋人ができる未来が待っていたのだろうから。


(……そういえば、稔からの恋愛相談って、されたこと無いな)


 晶は記憶をほっくり返す。

 自分は誰かに告白された時、どうしてかまず一番に稔のことを思い出し、考えさせて欲しいと相手に言って、稔へ相談していた。今思えばあれも、深層心理に稔が居たから、告白されたことを稔に相談し、そして結局、無意識に稔を選び、告白してきた相手は断っていたのだろう、と晶は考える。

 けれど、稔からはそういうことをされたことがない。

 誰にも告白されたことがないのだろうか。


(……いや、それはない)


 稔をじっ、と見ながら晶は思う。

 稔は客観的に見ても、容姿が整っているほうだ。性格だって、相手を思いやる心を持っているし、それを率直に相手に伝えることも多い。

 メガネを掛けているということで好みが別れるのかもしれないが、だとしても──


(誰からも告白されたことがないなんて、考えられない)


 となると、自分に相談していなかっただけなのか。

 稔と自分の思考回路が違うことくらい分かるので、晶はそんな推測を立てる。


(……ていうか、そもそも)


 稔は、いつから自分を好きだったのだろうか?



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