10 いつも通りのこと、いつも通りじゃないこと②

 で、昼。


「このメンバーに不満はないけどさぁ」

「逆にいいの? 俺たち邪魔じゃねえ?」


 昨日と同じように、男子四人女子三人、屋上で昼を食べている。


「居てくれて大いに助かってる。女子三人と俺だけはキツい」


 言ったら、「まあ、それは」「気持ちは分からないでもない」「うん」と友人たちは同意を示してくれた。


「……」


 晶はなにか言いたげで、チラチラと、俺と俺の弁当へ視線を向ける。


「……晶」

「はっはい!」


 晶が背筋を伸ばす。

 なんでそんなに緊張してんだ。


「……何が気になってる?」

「はぇ?」


 はぇ? じゃねえ。可愛く反応すんな。


「俺の弁当、気にしてんだろ。なんか食いたいやつあんのか」

「あっ……とぉ……」


 晶の視線が彷徨う。これは何を示してる?


「……かぼちゃ餅か?」

「えっ?」

「何? かぼちゃ餅って」


 友人の一人が聞いてくる。


「これ」


 俺は五百円玉くらいの大きさの、黄色くて丸い、平たい団子のようなおかずを箸で摘んだ。その黄色の中には、緑色のかけらが入っている。


「かぼちゃと片栗粉と水と砂糖で作る。もちもちしてるから『かぼちゃ餅』と呼んでる。この緑はかぼちゃの皮な」

「へー」

「で、晶は昔からこれが好きなんだよ」

「へ」

「み、稔……!」


 晶が顔を赤くして、俺の袖をくいくい引いてきた。

 なんだ可愛いなチクショウ。


「なに」

「っ……こ、個人情報漏洩……!」


 そこまで?


「はあ、悪かった」


 言って、摘んだままのかぼちゃ餅を食べたら、「あ……」と言われた。食べたいのか違うのかどっちなんだ。


「幼馴染の特権……」

「小さい頃から知ってますアピール……」

「いや、アピールではねぇよ?」


 そんなこんなで昼も終え、午後の授業も滞りなく進み、ホームルームになり、放課後になる。

 今日は部活に来んのかな、晶たちは。そんなことを考えながら教室を出ようとして、


「?」


 スマホが震えていることに気づく。……晶?


「もしもし?」


 教室を出て、廊下の端に寄り、通話を開始させる。


『……稔』

「ん、どうした?」

『稔、今日、部活あるよね……?』

「ある。あと、今日は自主練もするつもりだけど」


 話しながら、晶の教室へ目を向ける。


『自主練?』

「そ。居残って練習するんだよ。朝に申請書出しといたから、今日は八時まで居るつもり」

『八時……』

「ああ。お前はどうするんだ? また見学来るのか? それとも帰る?」

『……うぅ……』


 なんなんだ。なぜ呻く。


「……今、教室に居るか?」

『へ、あ、うん、居るけど……』

「ちょっとそのまま待ってろ」

『へ?』


 俺は通話を切り、隣の教室へ向かう。教室の後ろから中を覗いたら、


「あ」「へぁ?!」

 その窓側の角で通話していたらしく、すぐに見つけられた。飯田と根本も居る。


「えー、お邪魔します」


 一言言って、教室に入り、晶たちへ足を向ける。


「で、何がどうした?」


 三人の顔を見ながら聞けば。


「……いや、晶がね……」


 飯田は困った顔になり、


「一人は心細いって。今日、朱音ちゃんは塾だし、私も用事あるしって話してたんだけど」


 根本が淡々と言う。


「……。晶」

「は、はい……」

「無理しなくて良いんだぞ?」

「──え」


 目を丸くした晶の頭を、髪型を崩さないように軽く撫でて、


「そりゃ、来てくれたら嬉しい。けど、無理させてまでそうして欲しくはない。晶は晶のしたいようにして良いんだ」

「……! ……うぅぅ……!」

「……は」


 抱きつかれた。……え? なんで?


「どうした?」


 頭を撫でれば、締めつけ具合が強くなる。


「……よし、本田、任せた」

「あとをお願い」

「え? ちょ、」


 飯田と根本は、風の如く行ってしまった。


「……」


 このままでいる訳にもいかない。部活に遅れるし。


「……なら、今日は図書室とかで待ってるか?」

「……」


 また、ぎゅう、と締められる。……たぶん、嫌だってことだよな。


「……なら、行くぞ。そろそろ部活始まるし」

「……」

「……晶」


 その頭に、手を乗せる。


「定期的に声かける。帰りたくなったら言え。俺も一緒に帰るから」


 そしたら、晶はゆるゆると体を離し、けれど俺の手を握って、


「……そこまで迷惑かけられない。今日は居る。……明日からは、分かんないけど……」

「……大丈夫か?」

「うん……」

「無理そうだったらちゃんと言えよ?」

「うん」

「……じゃあ、行くぞ。いいか?」

「うん」



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