7 自覚、再びの返答①

「ねえ、ほんとに最後まで居る気?」


 バレーの練習風景を見ながら、朱音は左隣に座る晶に問いかける。


「うん。二人は帰っても全然いいよ?」

「……本田が悪い奴じゃないのは知ってるけど、どこが良いと思ってんの?」

「うーん……だからさ、良いっていうか、そもそもこの気持ちがそういう気持ちなのか確かめたくて、ここに居るんだよ」


 実を言うと、今朝からの晶の行動は、日向から命じられていたものだ。

 それを実践しなさいと、そうすれば自ずと分かってくるからと言われ、晶は素直にそれを実行した──今も、している。


「なら、じゃあ、今はどう思ってんの?」

「んー、いつの間にこんなに成長したのかなぁって」

「……どういう意味?」

「いやさ、私と稔、中学の後半くらいからだっけかな? なんか距離空き始めてさ、ここ最近なんて、教科書の貸し借りくらいしか交流なかったし。なんか遠く感じてたんだよね。幼馴染って言っても、その言葉だけの繋がり、みたいな」


 晶は練習している部員たちを──その中の稔を見ながら、


「だからさ、私の中での稔の印象って、中学辺りで止まってたところが大きくて。背、こんなに高かったっけとか、手、大きくなったんだなぁとか、なんか、再認識してる、みたいな」

「論点がズレてる気がするんだけど」


 朱音が溜め息混じりに言い、


「うん。それは、本田くんへの『気持ち』じゃなくて『印象』だよ、晶ちゃん」


 晶の左隣に居る美来も、同意を示すように言う。


「今、晶ちゃんが自覚しなきゃいけないのは、その印象から来る本田くんへの気持ち。好きなの? 違うの? ただの幼馴染?」


 言われた晶はまた、「うーん……」と唸り、首をひねり、スパイクを打つ稔を見て、


「ただの、幼馴染、は、やっぱ違う、なぁ……」


 と、呟いた。


「なんか、『ただの』って付くと、そこで終わり! みたいな感じがする。それはヤダ。……稔に好きな人ができるのも、なんかヤダ。……私、ワガママだね?」

「……もうそれは、好きってことで良いんじゃないの?」


 朱音の言葉に、晶は目をぱちくりさせる。


「……そうなの?」

「聞くな」

「美来ちゃんは?」

「……じゃあ、一回口に出してみたら? 『私は稔が好き』。て」

「口に……」


 晶は、一年に何かアドバイスでもしているらしい稔へ目を向け、


「……私は、稔が──」


 好き、と言おうとした瞬間に、稔と目が合った。


「……。……」


 稔は晶を見て、少しばかり怪訝な顔をしたあと、また一年に向き合う。


「……ちょい、晶」

「──え、あ、へっ? あ、な、えっと、なに?」


 ハッとして、慌てて朱音へ顔を向けた晶に、


「顔真っ赤だよ? 晶ちゃん」


 美来が言う。


「へっ?」

「自覚したか」

「みたいだね」

「え、え、え? ちょ、ちょっと待って。じ、自覚ってなに、待って、置いてかないで」


 朱音と美来へ交互に顔を向けながら、晶はあわあわと、二人の袖を掴んで振る。


「落ち着け落ち着け。まず手を離しなさい。そして深呼吸しなさい」

「し、深呼吸……」

「そうそう。はい、息を吸って」


 美来に言われるがまま、晶は息を吸う。


「はい、吐いて」


 そして、ふぅー、と吐く。それを何度か繰り返し、


「もういいかな。晶ちゃん、落ち着いた?」

「た、ぶん……」


 二人の袖から手を離した晶は、


「じゃ、このあと、どうすればいいか分かる?」

「え、ど、どうすればいいか……?」


 朱音に問われ、考え込み、


「……保留にしてた返事を、して、この気持ちを、伝える……?」

「はい。その通り。部活終わりにでも言いな」

「えっ! きょ、今日中に言うの……?」

「こういうのはだらだら伸ばしたら駄目だよ、晶ちゃん」


 美来にも言われ、「えぇぇ……」と晶の顔がまた赤くなる。


「部活終わるまでは一緒に居たげるから」

「へ、返事は一人でやれと……?」

「直前までは一緒にいるよ。ね、朱音ちゃん」

「……まあ、しょうがない」

「ホントに居てね? 先帰ったりしないでね? 一人でそんな、その、……無理無理無理……! 絶対無理!」


 その場面を想像したのか、晶は両手で顔を覆った。


「……晶、アンタ……恋愛が絡むとそんなんなるんだ……?」

「そんなんって何ぃ……!」

「晶ちゃん、声のトーン落としてね」

「ご、ごめん……」



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