第12話 リリーズ領
数日後、王都を出た。
オウルへ行く前にリリーズ領に向かう。
王都から東に進んで行くとリリーズ領に着く。リリーズ領は楕円を倒したような形をしている。楕円の真ん中より左上に城がありぼくの生まれた家がある。
王都を出てから約二週間と少しして、リリーズ領の本拠地がある都市カンタータへ着いた。やはり荷馬車がいるとペースが落ちるのは仕方ないとは言え、中々に疲れてしまった。
カンタータ城で数日過ごした後でオウルへと向かう。
護衛を入れ替えるのと、ここからもう一台荷馬車が追加される。
久々の両親は相変わらずで成人祝いだ、とプレゼントをもらった。
というか、その分の追加の荷馬車だった。
「ファランドールにお前の仕事道具を見繕ってもらった。気に入るかは別としてお前に合うものらしい」
「……さすがに甘やかしすぎでは」
「ふふふ。遠慮しそうなのはお前だけだな。フーガなんかは魔剣をねだってきたぞ?気にしなくてもいい。ただし──」
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
ぼくは両親を強く抱きしめた。
仕事道具を新調する予定だったのだが、新しい仕事道具が手に入った。
母からは姉のことは心配しなくていいと言われた。
太い釘を刺される前に、師匠と先生が向かったことを伝える。
数日間城で過ごした後、オウルに発った。
いよいよオウルに発とうという日にそれは起こった。
「では、行ってまいります」
両親としばしの別れのハグをして馬車に乗り込もうとした際、一人のメイドが馬車に駆けてくる。
「あぁ、坊ちゃん。大きくなられましたね」
「ソフィーっ。姿が見えんから心配していたぞ」
ソフィー・スピアーというぼくの唯一の専属メイドだった女だ。
ぼくが王都の学園に通うことになって、ついてくるつもりだったが、家の騎士団の教官をしていたアルガスと結婚したばかりだったので専属メイドの任を解いたのだった。
アルガスは先代──つまり祖父のが領地を治めていたころから仕えてくれている騎士である。歳をとってからは騎士団の指導役を担っていた。
フーガ兄さまを脳筋にした男でもある。
「おい、おい、成人して家を持つ人に坊ちゃんはよせ」
足を軽く引きずるようにしてきたアルガスがソフィーを窘める。
「久しぶりだな、アルガス。ぼくとソフィーの仲だからな、別に構わんよ」
「そうは言いましても無礼になります」
「はははは。母さまも父さまもおじい様からは子ども扱いされているし、アリア姉さまやレガート兄さまも母さまからは未だに子ども扱いされているぞ。お前だってどうせ、今の騎士団の連中を子ども扱いしているのだろう」
「いやぁ、それを言われると困りますがね」
「ソフィーになら、ぼくは子ども扱いされても腹は立たんさ。勘弁してやれ」
ぼくは笑う。
久しぶりに会った、この夫婦のことが大好きなのだ。
「発つ前に会えてよかった。国家資格も持ってるぞ。今度オウルで店を出すんだ。お前たちは家を辞めたんだったな?店が落ち着いたら見に来てくれ。歓迎するよ」
「それなんですが、坊ちゃん──いいえ、若様。私たち夫婦を若様の所に置いていただけないですか」
ソフィーは膝をつく。その隣でアルガスも膝をついた。
困ったな、と両親を見れば口元に微かな笑み。
その笑みはこれを両親が仕込んでいて、ぼくの反応を楽しんでいるのか。
「父さま?母さま?」
「いや、二人はうちを辞めたから、わたしたちは関係ないよ。判断はお前がしなさい」
「リリーズ家ではなく、あなたに仕えたいのでしょう。それに──」
指を指した先にはシーラがいる。
「──うちからの使用人はいらないけれども、うちを辞めた子で、いいのでしょう」
「シーラ!」ぼくは大声を出した。
シーラはゆっくりと馬車から下りてくる。
「話は聞いていたな。どう思う」
シーラは淡々と「よかったですね」と答えた。
現実的に考えればシーラの負担が減るよな。
「ぼくの所に来てもいいが……給金は安いかもしれんぞ?」
こうして、ぼくの所に元ぼくの専属メイドと元リリーズ家筆頭騎士の夫婦が来ることになった。馬車にのるのはソフィーだけで、アルガスは、荷造りや住んでいる借家を引き払ってからオウルに来ることとなった。
数週間後、ぼくたちはオウルに着いた。
ぼくの家の住居スペースはほぼ完成していた。
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