エピソード十一 隣接する土地の担当者との良好な関係

『クゥウウウーーンッ…』


『猟犬が逃亡した男女の農奴の匂いを追えるのはここまでのようですね。監視者アオフ・ゼーアー


『はい。御令息様。仰せの通りで御座います』


今夜は御爺様であらせられる地主様が出掛けていられて御不在ですので、御孫様が代わりに逃亡した奴隷身分の農奴の男女を捜索されている監視者アオフ・ゼーアーに同行されましたが。


「サァアアアッ」


『クゥウウウーーンッ…』


『この川は水浴びする際には飛び込むと全身が浸かる程の深さがありますから、川の中に入り匂いを誤魔化そうとした逃亡した農奴は、下流に流された可能性もあります』


宿舎の寝藁ねわらに残されていた匂いをぎ追跡して来た猟犬ですが、今日の夕方に御孫様と自分が飛び込み水浴びをした川のほとりで、困ったような鳴き声を上げています。


『月明かりがあるとはいえ不案内な土地で夜に川に入れば、御令息様の仰られる通りに深みに足を取られて下流に流された可能性は確かに御座います。御令息様』


御孫様が出現させていられる根元魔法のリヒト以外にも、監視者アオフ・ゼーアーが伴われている若者達が松明ファッケルに火を着けてかりをともして光源として闇夜を照らしていますが。監視者アオフ・ゼーアーは川のほとりから周囲を見渡されますと、諦めた表情を浮かべられまして。


『御手を煩わせまして、心底よりの御礼を申し上げます。御令息様』


逃亡した男女の農奴に対するこれ以上の追跡は断念すると伝えた監視者アオフ・ゼーアーに対して、御孫様は頷かれますと。


『人相書きは預かります。明朝の朝餉あさげの席にて、もし逃亡した男女の農奴を見掛ける事がありましたら報告するようにと話す事にします』


最後まで協力的な姿勢を示された御孫様に対して、監視者アオフ・ゼーアーは恭しく深々と御辞儀を行われまして。


『有難う御座います御令息様。御代官様にも御協力を頂いたむねは御伝えさせて頂きます』


自分のような奴隷身分の農奴でしたら、指示された通りに働けば済みますが。御爺様であらせられる地主様が御不在の際には、代行を勤められる御孫様は、隣接する土地の担当者との良好な関係を維持する役割も果たさなければいけませんから。本当に大変だと思います。

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