エピソード十 番犬と猟犬

『私にも見えるようにして下さい』


『はい。御孫様』「ピラッ」


長椅子に腰掛けられながら見えない壁の中に居られる御孫様にも人相書きが見えるように、リヒトの明かりが当たるように角度を調節しながら広げて向けました。


『年齢的には、私達よりも少しだけ年上に見えますね?』


自分と同い年の十三歳の中性的な美貌の持ち主であらせられる御孫様が、御爺様であらせられる地主様から受け継がれた瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳を監視者アオフ・ゼーアーに向けて確認されますと。


『はい。御令息様。男女共に十五歳の奴隷身分の農奴となります』


御孫様は御自身や同い年の幼馴染みでもある自分よりも、二歳年上の奴隷身分の農奴の男女が逃亡したと確認されますと、もう一度人相書きを眺められまして。


『鉛筆で書いた人相書きでは色までは解りませんが、彼と同じく黒髪シュヴァルツ褐色ブルネットの肌色ですか?』


細かく質問される御孫様に対して、逃亡した男女の農奴を真剣に探す意志があると感じたらしい監視者アオフ・ゼーアーは、恭しく深々と御辞儀を行われまして。


『はい。御令息様。仰せの通りで御座います』


金髪ブロンデス・ハール瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳をされていられる御孫様は、黒髪シュヴァルツ褐色ブルネットの肌色をしている同い年の幼馴染みである自分の容姿を上から下まで眺められましてから。


『本日は彼と一緒に過ごしましたが、私も人相書きにある男女の逃亡奴隷は見掛けてはいません。こちらに逃げて来たのは確かなのですか?』


捜索に対して協力的だと感じたらしい監視者アオフ・ゼーアーは、背後に控える若者達に姿勢を向けまして。


『夕飯の後の点呼の後は、農奴が宿舎から外に出るのは禁じているのですが。番犬が激しく吠えたので宿舎を調べますと、十五歳の男女二名の姿が見えなくなっていましたので、もぬけからとなっていた宿舎の寝藁ねわらの匂いを猟犬にがせてこちらまで追跡して来ました。御令息様』


御孫様が出現させていられる根元魔法のリヒトから離れているので見えにくいですが、監視者アオフ・ゼーアーの背後に控えている若者達は、犬のひもを握っていました。


『貴方は非常に優秀ですね監視者アオフ・ゼーアー。番犬が吠えたら直ぐに宿舎を確認して、姿が見えなくなっている男女二名の農奴の人相書きを素早く鉛筆で描いて、猟犬に寝藁ねわらの匂いをがせてこちらまで追跡して来たのですから』


御孫様の仰られる通りです。御代官様に御仕えされている監視者アオフ・ゼーアーは、奴隷身分の農奴である自分でさえも、非常に優秀だと解る人物です。


『勿体ない御言葉で御座います。御令息様』


御孫様は基本的に表情の変化が少ない御方ですが、監視者アオフ・ゼーアーの事を気に入られたようです。

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