エピソード九 若い男女の人相書き

『成る程。貴方が御仕えしている御代官様の御領地から、若い農奴の男女が逃げ出した訳ですね。監視者アオフ・ゼーアー


長椅子に腰掛けられながら、見えない壁である魔法障壁マーギッシェ・バリエーレを周囲に張られている御孫様が、根元魔法のリヒトに照らされながら確認されますと。父さんと同年輩の監視者アオフ・ゼーアーは、再び恭しく深々と御辞儀を行われまして。


『はい。御令息様。仰せの通りで御座います』


自分達が暮らす国は帝国だそうです。奴隷身分の農奴の自分には関係ありませんが、帝国の君主であらせられる皇帝陛下は、数多くの直轄領が国内に点在されているそうですので。御領地を地元の有力者や派遣した御代官様に統治させていられるそうです。


『逃亡した若い男女の農奴の人相書きはありますか?。監視者アオフ・ゼーアー


御爺様であらせられる地主様から受け継がれた、金髪ブロンデス・ハール瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳をされている、中性的な絶世の美貌の持ち主の御孫様の御言葉に対して。皇帝陛下から派遣された御代官様に御仕えされている監視者アオフ・ゼーアーは、上位者の下で働く事に慣れていると、奴隷身分の農奴でもある自分にも一目で解る態度で、三度みたび恭しく深々と御辞儀を行われまして。


『はい。御令息様』


監視者アオフ・ゼーアーによる返答に対して、長椅子に腰掛けていられる御孫様は鷹揚おうように頷かれますと。


『受け取って下さい』


『はい。御孫様』


御孫様の命を受けた自分が監視者アオフ・ゼーアーに近付きますと、背後の若者達の一人が前に進み出て人相書きを手渡しました。


『見覚えはありますか?』


人相書きを確認しましたが、自分には見覚えの無い男女の顔が描かれていました。


『いえ、御孫様。見覚えの無い男女です』


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