エピソード八 三種類と五種類

今宵こよいは祖父が所要で留守にしていますので、私がこの土地の責任者です』


見えない壁を張られている御孫様が、突然闇夜に向けて話されましたが。同い年で幼馴染みでもある自分は、幼い頃から御孫様が突然こうした反応を示すのに慣れています。


『夜分に先触れも無い来訪を御詫び申し上げます。御令息』


闇夜の中から御孫様が出現させていますリヒトの範囲内に姿を現したのは、父さんよりも少し年上に見える男性でしたが。背後に自分と同年輩の若者達を従えていました。


『地主である祖父に用向きですか?。それとも根元魔法を扱える魔法使マーギアーいに用があるのでしたら、エンケルの私でも少しは役に立てるかも知れません』


長椅子に腰掛けていられる御孫様が、淡々と抑揚よくようの無い声で話されながら、何の感情も込めていない瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳で見詰められますと。


ツゥウウウッ。


『地主様であらせられる御爺様に、逃亡した農奴の捜索の御許しを頂きたいと思いました。御令息』


父さんよりも少し年上の男性は、他の土地から逃亡した奴隷身分の農奴を若い部下を率いて捜索されているようですが。頬を伝い流れ落ちた汗は、夏の夜の暑さのせいなのが、天から根元魔法の素質を御爺様であらせられる地主様から血統により受け継がれた御孫様に気圧されてなのかは、自分のような若輩者には判断が出来ませんでした。


『貴方は監視者アオフ・ゼーアーでしたね』


他の土地には奴隷身分の農奴を見張る監視者アオフ・ゼーアーという役割の人物が居ると、以前に聞き及んだ事があります。


『はい。御令息。仰せの通りで御座います』


父さんよりも少し年上の監視者アオフ・ゼーアーが、十三歳の若者であらせられる御孫様に対して非常に丁寧に話す様子を、背後の若者達がやや不満気な表情を浮かべながら聞いていますが。


『ブゥウウンッ、バチンッ』


『話しの邪魔ですね』


御孫様が出現させていられますリヒトに惹き付けられた夏の虫が、見えない壁に繰り返し衝突していますが。無表情に瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳を向けられますと。


原子核崩壊アトーム・ツェアファル。バシュウッ』


『『ヒイッ!』』


同い年の幼馴染みでもある自分は、御孫様が害獣駆除の際に獣を一瞬で跡形も無く消滅させる根元魔法を以前に目の当たりにした事がありますが。監視者アオフ・ゼーアーが率いている若者達は生まれて始めて見たようでして、情け無い悲鳴を揃って上げました。


リヒト魔法障壁マーギッシェ・バリエーレ原子核崩壊アトーム・ツェアファル。三種類の根元魔法を同時に発動出来るのですね。御令息』


監視者アオフ・ゼーアーの確認に対して御孫様は、初めて少しだけ不愉快そうに感じる表情を浮かべられまして。


『地主になる以前は高名な傭兵ゼルドナーとして活躍なされた魔法使マーギアーいでもある祖父は、同時に五種類の根元魔法を発動出来ますが。不肖ふしょうエンケルである私は、同時に発動出来るのは三種類が限界です』


「ほ、本当に人間か?」「普通は魔法使マーギアーいは一種類の根元魔法しか発動出来ないはずだよな?」


『黙れ』


率いている若者達が動揺して、小声でお互い話し合うのを黙らせた監視者アオフ・ゼーアーは、御孫様に対して恭しく深々と御辞儀を行われまして。


『失礼いたしました。御令息


様を付けて呼ばれるのが当然という環境で生まれ育たれた御孫様は、年長者である監視者アオフ・ゼーアーに対して鷹揚おうように頷かれますと。


『詳しい話しを聞きましょう。監視者アオフ・ゼーアー

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