第2回 化粧まみれのニュー顔面

 何やらタナカナを囲んで騒ぐギャル達…


「ヤッベー!カナ、超イケてんじゃん!パネェっ!ねぇ!あっ!眉毛要らなくね?」

「あっあっ…あっ!?あっあっあっ」


 俺は陰キャらしく、助けてやりたいがどうしても助けてやれない感じだ…


「俺はやるせない雰囲気を醸し出していると、変なロン毛が話しかけてきた。」


「『話しかけて来た。』じゃねーよ…ケン、助けなくて良いのか?あの真ん中にいる田中、お前の知り合いだろ?しかしアレだな、ギャルが集まる…いや、群がっていると漫画でゴブリンが集まる景色に似てるな」


 お前はゴブリン集まってんの見た事あんのかよ…と思いながら勝手にケン呼びしてくるロン毛を無視する。

 このロン毛は入学式の時から何度も話しかけてくる。

 確か武蔵野むさしの健次郎けんじろうとか言うやたら漢字が長い奴だ。

 元々剣道をやっていたとかで、部活の大会で俺を見かけた事があるらしい。

 

『お前、北斗の健だろ?俺は二刀示現流の…武蔵の健と言われていたぜ、同じケン、よろしくな』


 意味不明な異名を名乗るという、ファーストコンタクトを無視したのに話しかけてくるつわものだ。

 無視してんだから早く諦めろよ…


 中学時代の友人、剣道部だった奴に聞いたら武蔵野の事を聞いたら、二刀を縦に構えて『ギエエエエエエエエエエエッ』みたいな奇声を発するヤバい奴らしい。

 大会では大体『ギエッ』ぐらいで上段に構え直した所に突きをくらい沈む、秒で一回戦負けがデフォルトの頭がおかしい奴と聞いた。


 ゾリ…ゾリゾリ


 そんな馬鹿を無視しているとタナカナのいる方向から不穏な音がした。


「あっあっあっえっ!?……ギエエエエエッ!?」

 

 一瞬、健次郎かと思ったが違った。

 あのタナカナが叫んだのだ…「んっ」しかほぼ言わないタナカナが…そう、まるで猿山で敗北を喫したボス猿の様に…


「ダダダダメッ!きょっきょきょっ!今日はこここここまででで!!」

「マジデー!?カナチョロヤベェって!今やめるとキカイダるってんじゃん」

「マジ改造人間〜ウケる〜」


 

 何が面白いのか…凄い笑っているゴブリン達…キカイダるって何だ?

 しかし陰キャをやってみて思ったが、人生楽しむなら彼女らの様な生き方が一番楽しそうだ。

 何故ならずっと意味不明な事で笑ってるからだ。


 タナカナが帰りのホームルームでずっと顔を隠している。

 俺はふと、小説を思い出した。


「こうやってプロデュースされていき、気付けば俺の手が届かない所にイッてしまうのか…」


 俺は別にタナカナにフラレたいワケじゃない。

 逆だ、好かれたいのだ。

 だからこその陰キャ…俺は引力の様にタナカナを引き寄せ、そして彼女に尽くすのだ…


「よーし、お前ら帰っていいぞ!寄り道するなよ〜後、タバコは遊歩道で吸うなよ?絶対だぞ!」


 煙草吸う前提っておかしいだろ?何考えてんだこの学校の教師陣は…さて帰ろ。


「タナカナ…帰ろうぜ…ウォっ!?」「んっ」


 冷静に考えたら普通に俺から誘うって陰キャじゃねぇな…と思ったら、タナカナはハンカチを頭から被って俺に密着して来た…


 するとタナカナに良く絡むギャルが俺に言った。


「オメー、カナチョロ可哀想だからぁー?もっとエロい事しろし?帰り道の第三公園とか人来ないし?カナチョロエロいし。カナチョロオメーでおな「あっ!あっ!あっ!駄目ぇッ!」


 急に何だ?俺で何だ?気になったが、タナカナが急に声を出しながら押すから聞けなかった。


「まぁ良いや、カナチョロにケンケン、また明日〜」


 俺は陰キャ、無視したが…


「じゃあな!京極さん!おい、ケン…挨拶はかえすんだぜ?人間は、じゃあな!」


 武蔵野が返事した…ちなみにケンケンとは俺と武蔵野を同時に呼ぶ時の言い方らしい。


 俺を置いて話を進めるのは良いが仲間みたいにするなよ、何言ってんだコイツ…


 ちなみに今のギャルは、タナカナによく絡んでる京極夏子…通称ナッピー…まぁ俗に言う白ギャルというやつで、ファッション誌で読者モデルをしているそうだ。

 

 俺は小説の世界で読者モデルというと、女子界の戦国武将クラスと思っていたので「こんなとこにいて良いのか?」と、適当に京極に聞いたが…

 『アンタ何?性格悪い系?正直な奴嫌いじゃないしぃ?』と質問系で返された。


 その後、日本語訳すると、読者モデルだったら別に最低限のスタイルとコミュ力があれば、まぁまぁ運が良ければなれるらしい。

 読モやってるんだから雑誌に出るのは当たり前、それでドヤ顔出来るのは、つまり大手振って言えるのはイベントとかテレビとかに普通に出てる奴だけとかなんとか。

 

 そんな京極に弄り回された女、俯きながらハンカチを頭から被っているタナカナと一緒に帰っている…

 何も喋らないのはタナカナのデフォルトだ。

 

 しかし、楽器店の前でタナカナがピタっと止まり楽器をジッと見ている…音楽でもやるのかな?

 よく見ると片眉が無く、半分白塗りのタナカナの顔がガラスに映っていた。

 タナカナの口が動く。


「は…はは…ハハハ!…片眉のない人間は、なんと珍妙な顔だ。これぞバカの顔だ!こんな珍妙な顔ではもう家へ帰る事など出来ないッ!」


「いや、家には帰ろう。公園で洗って帰ろう…後、そのセリフはちょっと違うな」


「うわああああああ!!眉毛ぇええええ!!!」



 タナカナの感情が急に爆発して、今までにないほど喋り始めた。

 タナカナって声出さないけど高く澄んだ声を出すんだよな。


 まぁ…何か可哀想だが…これで良いのかも知れない。

 本来、タナカナはこんな所で燻っている奴じゃない…なんせ顔が良いのだ…出来る奴なんだ。


「俺はお前を信じている…俺が陰キャ…お前は学園のアイドル…高校生活で…変えるんだ…俺達の関係を…」


「えっ?んっ…んんっ!?」



 この片眉剃り上げ事件から…タナカナの時間が動き出した…

俺はタナカナが学園のアイドルになっていく中で、まるで重力の様に目が離せない陰キャにならなければならないのだ。


 

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