第12話 女の顔をした魔物

 ケビンに騙されたまま、カイル達の仕事に巻き込まれるのは御免だ。そのまま踵を返して立ち去ろうとしたのだが、ノアールに腕を引っ張られる。


「動かないで下さい」


 そう言ったノアールは笑っていなかった。何時になく厳しい双眸でカイルの方を見た。カイルの背後に白いもやが集まって行くのが見えた。



 カイルの両肩を背中から白い腕が掴む。その白い腕は、何もなかったところに突然現れたのだ。


「!」


 不意に出現した気配と両肩の感触に、カイルは腰のロングソードを抜いた。カイルが右手で剣を回転させて逆手に握るのと、白い腕がカイルの身体を押し込む仕草をするのは同時だった。

 ガクン……カイルの身体が沈む。沈みながらも、カイルは逆手に握った剣を背後のに向かって突き立てた。

 カツン……と乾いた音がしたが、手応えはなかったようだ。カイルの口元は悔しそうに歪む。

 それでも剣を嫌ったのか、そのはカイルの背中から離れる。そこへ、弓使いのルイスが矢を放つ。

 矢を逃れるために空に舞った姿は『魔物』には見えなかった。

 白い肌、整った顔立ち、長い金髪、背中には白く輝く大きな羽根……北の果てに生まれ育ったわたしには、美と黄金の女神フレイヤの降臨かと思えた。



 カイルの身体は、膝のすぐ下まで土に埋まっていた。穴に落ちたのではなく、土に吸い込まれるように沈んだのだ。アーレンとゾロが、カイルの足下の土を急いで掻き出している。

 魔物は、そので笑ったように見えた。矢をつがえようとしていたルイスに、魔物は音もなく近づいて腕を伸ばす。


「ルイス、どけろ!」


 カイルの声……ルイスに迫っていた魔物に、カイルは背後から抱き付いた。裸足なところを見ると、土の中に靴を残して飛び出したのだろう。

 が、背後から纏わり付いたカイルを確認するように傾いた。口元に笑みを浮かべての魔物は、大きな白い羽根を広げて空へ飛び上がった。

 カイルを背後からしがみ付かせたままでの魔物は、森の木々よりも高く舞い上がる。

 アーレンもルイスも、空を見上げて唇を噛むしかない。剣使いのアーレンには、空の敵と戦う術がないし、ルイスの弓もカイルが傍にいて放てない。



 の魔物は、上空で身を震わせた。甲高い音が響き渡り、森中の空気が震えたようだった。


「うわあぁぁぁぁ」


 悲鳴と共にカイルの身体が、振り落とされる。


「カイル!」


 ルイスとアーレンが叫ぶ。

 落下しながらも、カイルは高い木の突き出した枝を掴む。大きくしなった枝に振り回されながらも、何とか地面への落下は免れた。

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