第13話 わたしじゃないよ?

 枝に掴まって落下を逃れたカイルを見て、魔物のが残念そうに歪んだ。わたしにはそう見えた。

 ルイスの矢が、空の魔物に向かって放たれた。カイルが傍にいなくなったので、ルイスは矢継ぎ早に連射している。魔物のが、ルイスに向いた。

 魔物はゆっくりと降下して、森の中に溶けるように姿を消した。


「どこだ?」


「まさか、逃げたのか……」


 ルイスとアーレンが警戒しながら、周囲を見渡すが魔物の姿はない。


「油断するな。まだ近くにいるぞ」


 魔法使いのケビンは、魔の気配がすぐ身近にあるのを感じているらしい。「近くにいる」と言い切った。


「うおお!」


 ルイスが大きな声を上げた。長く伸びた白い腕が、ルイスの身体を掴んでいた。

 信じられないことに、ルイスの身体を掴む白い腕は、森の一本の大木から伸びているのだ。


「くっ……くっそう……」


 ルイスの身体は、ズルズルと白い腕に引きずられて大木に引き寄せられていく。地面にはルイスの靴が引きずられる線が掘れていた。

 途轍もない怪力らしく、腕に締め付けられるルイスの顔が苦痛に歪んでいる。



 木の幹に引きずり込まれた死体……この村の魔物は、こうやって人を襲っているのか。最初に襲われた際に逃げ出すことに失敗していれば、カイルも土に沈められていたはずだ。



「おい、アンタの剣を借りるぞ」


 駆け寄って来たケビンが、わたしの腰の海賊の剣ヴァイキングソードを引き抜くと大木に向かって投げつけた。刃先が鋭くない海賊の剣ヴァイキングソードは、大木にぶつかって地面に転がる。

 大木から白い腕が消えてルイスは拘束から解き放たれた。

 ……だが。

 の魔物が、わたしの眼前に現れたのだ。

(え? いや、わたしじゃないよ……わたしの剣だけど!)

と本気で言いたかったが、魔物相手に通じる理屈ではなさそう。ノアールが手を伸ばしてくれたが、魔物がわたしの身体を空へ持ち上げる方が早い。

 わたしを抱いた魔物は、白い翼を広げて森の木々よりも高く舞い上がった。そして、わたしの身体を抱くその手を解いた。


「ちょ……ちょっとおぉぉ!」


 視界に、白い翼を広げた魔物と青空が見える。どこが上で、どこが下かわからない。足が地面を踏んでいない状態とは、こんなにも心許ないものか?

 ……これはマズイ

と思った刹那、わたしの身体は地面の上にあった。高所から突き落とされたと言うより、転んだ程度の衝撃と身体の痛みだ。


「大丈夫ですか?」


 ノアールの声。そうか、ノアールが上空と地面の直ぐ上の空間を繋いでくれたのか。それで、落下の勢いがつく前に地面にのだ。

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